TS爆乳暴食悪徳サイコシスターの勘違い救国記   作:ちんぽ良い肉

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評価ありがとうございます!死ぬ程ありがたいです


スラムは語る

「ぶえっくしょんっ!!」

 

 ……なんか今、猛烈に誰かに噂されてる気がするんだけど。しかもなんかあることないこと言われてるような。まあいいや。

 

 鼻腔を突くドス黒い血と泥の悪臭に自らむせ返り、商館の美しく磨き上げられたクロック商会エントランスで盛大なクシャミをぶちかます。すれ違う上品な身なりの客や従業員たちが、血まみれで半裸同然の女を見て「ヒッ」と短い悲鳴を上げ、まるでモーゼの十戒のようにサァッと道を空けていくが、そんなの知ったこっちゃない。

 

 私は奥から優雅な足取りで現れたサイコパスおじさんこと、ボルマン店長を見つけるなり、バタバタと駆け寄ってその腕にすがりついた。

 

「おじさん! ただいまー! ねぇお願い、今日は寝床だけでいいの! ほんとに寝る場所だけでいい! ここで絶対に暴れないし、つまみ食いもしないって誓う! 約束するから!」

 

 純度百パーセント、一点の曇りもないキラキラの懇願アイズ。

 

 ただし、私の口の端からは極限の飢餓によるドロドロの涎がナイアガラの滝のようにとめどなく流れ落ちており、商館の最高級絨毯を絶賛汚染中である。

 

「……見てよ! これが嘘をついている奴の目に見える!? ねぇ!?」

 

 私の必死の(かつ物理的に汚い)アピールに対し、ボルマンのおじさんは眼鏡の奥の目を細め、笑みを深めて一礼した。「ええ、ええ。もちろん信じておりますとも。グラ様」と、私をVIPルームへと案内させる。

 

 その道中、私は肌を刺すような鋭い視線を感じ取っていた。商館の要所要所に配置されている、重武装の衛兵たちだ。微動だにせずこちらを警戒する彼らの気配を探り……私は内心で舌打ちをした。

 

(……あ、こいつら強いわ)

 

 本能がビンビンに危険信号を鳴らしている。森でぶち殺した盗賊の有象無象とは次元が違う。間違いなく、今の私の実力より二回りも三回りも上の『格上』だ。腹が減って力も出ない今の状態で、迂闊に飛びかかって食い殺そうとすれば、逆にこちらが細切れのミンチにされて終わるだろう。

 

 さすがおじさん、商人だけあって、雇ってる手駒のレベルも段違いってわけね。オッケーオッケー、ここはおとなしく「善良でか弱くてえっちな美少女客」のフリ一択だ。

 

 通された賓客室は、思ったのの倍は豪華な部屋だった。

 

 とりあえず、皮膚にベットベトに張り付いていた血まみれのタンクトップと食い込みまくりの極小ホットパンツを、ベリベリと乱暴に脱ぎ捨てる。デザインは完全にアウトなのに生地だけは無駄に貴族級の上等なものだから、後で洗うとして今は床にポイだ。

 

 ふかふかの天蓋付きベッドに全裸でダイブした瞬間。

 ごまかしていた狂おしい飢餓感が、ついにマグマのように胃袋から大噴火を起こした。

 

「ああ……腹減った……腹減った、腹減った腹減った腹減ったぁ……ッ!!」

 

 胃壁が内側から削り取られるような激痛。脳髄を直接鋭い爪でガリガリと引っ掻かれているような、狂気的なひもじさ。スラムで貪り食ったネズミや虫の残骸なんて、私のブラックホールのような胃袋の表面をほんの少し撫でたに過ぎなかったのだ。

 

 ベッドの上で、身悶えしながらゴロゴロと転げ回る。

 痛い、苦しい、何か食わせろ。肉を、血を、命をよこせ。

 

 ああもう、約束なんて破り捨てて厨房を襲撃し、保管庫の飯を全部ぶちまけて奪い尽くしてやろうか!? 

 

 いや、ダメだ。あのロビーにいた格上の衛兵たちに見つかれば、確実に私は殺される。リスキーすぎる。

 

 理性と食欲が血みどろの殺し合いをする中、狂おしい衝動をすんでのところで押し留めたのは、明日の『約束』だった。

 

(……そうだ、私には明日、あのスラムの連中が用意するご馳走が待ってるんだ)

 

 あいつら、明日はもっと美味いものをたくさん用意しておくって言ってた。金貨の力があれば、きっと山のようにお肉が集まるはずだ。

 

 もし、それでも足りなかったら? もし、私のこの狂った胃袋を満たしきれなかったら? 

 

「その時は、あのスラムの連中を端から順番に、頭からバリバリ噛み砕いて食い尽くすだけだよね」

 

 暗闇の中、ポツリと一人で狂ったように笑う。

 

 あそこには、身を守る衛兵もいない、無抵抗でガリガリの『肉』が大量に転がっている。最悪の場合は、あのスラムの人間全員をディナーのデザートにしてやればいい。そう考えたらほんの少しだけ精神的な余裕が生まれ、私は激痛の走るお腹を抱えながら泥のように眠りに落ちた。

 

 * * *

 

 翌朝。

 

「……あ、あ、がぁ………………む、り……めし……どっかに、めし……」

 

 ちゅんちゅんと小鳥が囀る爽やかな朝の光の中、私は商館のピカピカの廊下を、貞子もドン引きの這いずり方でズルズルと進んでいた。

 

 空腹と低血糖の極み。指先一つ動かすのもしんどく、立ち上がる力すら残っていない。目の前がチカチカ点滅する中、鼻先だけが『温かくて美味しそうな匂い』を的確に捉えていた。

 

 這い進んだ先は、クロック商会が誇る福利厚生の『大食堂』。

 

 朝番の社員たちが、配膳コーナーで温かいスープやパンを受け取っている真っ最中だった。

 

 

 ■■■■

 

「お願い……! 一口だけでいいから、そのベーコン、私にくれないかな……? お姉さん、お腹が空きすぎて、もう死んじゃいそうなの……!」

「あ、えと……! はいっ! ど、どうぞ!!」

「わぁっ! ありがとう! 君ってすっごく優しいね!」

「ねえ、そこのおじ様も……そのスープ、一口だけ飲ませてくれないかなぁ? 一生のお願いっ!」

「あっちのお兄さん、そのパン、半分こしよ? ねっ?」

「えーん! もうダメ、お腹ペコペコで動けないよぉ! 誰か、誰か私を助けてえええ!」

 

 

 約束通り、殴って奪ってなどいない。いないが、これは完全に大商会のド真ん中での堂々たる『ゆすりたかり』であり『号泣脅迫』である。

 

「だから、お願い……死にそうです……こんな哀れでか弱くて爆乳の美少女が飢え死にしようとしてるの……どうか、慈悲の心で、その鍋に入ってるスープとパン、全部……いや、配膳室にある食材ごと全部、私に恵んでくださいぃぃ……ぐすっ、ひぐっ……!」

 

 ■■■■

 

 

 

 商会の食堂で朝ご飯(という名の配給強奪)を済ませたものの、案の定カスみたいな量で胃袋が余計に活性化しちゃった私は、飢餓感で視界をチカチカさせながら再びスラム街へと足を運んでいた。

 

 広場に到着すると、そこには昨日とは打って変わって、綺麗に下処理された山のような食料が並べられていた! 

 肉、パン、野菜! どっからこの【自主規制】が調達したか分からんけどやるじゃん! 

 

「ざっと2トンか。ガチれば二時間で消えちゃう量だけど、少しでもひもじさをごまかすためによく噛んで食ーべよっと。たった2トンしか食えねえとか、完全に児童(元男性成人女性)虐待だよお……」

 

 ぶつぶつ文句を言いながら、私は早速山積みの食料の前に陣取った。

 

 昨日のゲテモノパレードは総量1トンくらいだったし、あのクロック商会の連中に食わせたら一発で胃腸が破裂して死んでそうな味だったけど、今回はギリギリ人間の食い物って感じだね! ボルマンのおじさん、いい仕事してるゥ! 

 

「いっただっきまーす!」

 

 私は両手で抱えるほど巨大なおにぎりを丸呑みにし、こんがり焼かれた鶏の丸焼きを骨ごとわずか10秒で胃の中へシュートしていく。ごきゅっ。よし次! 

 一分後には私の手元には、チリ一つ残っていないピカピカの皿が既に十枚タワーになっていた。

 ごきゅっ、ばりっ、ごっくん。あー、最高。

 

 私にしてみれば亀のようにスローペース極まりないお食事タイムである。

 

「おお……女神様……我らが慈愛の女神様……!」

「我らの用意した食事を、あんなに嬉しそうに……!」

 

 周囲を取り囲むスラムの連中はちょっと引く……どころか、完全に両手を組んで祈りを捧げるような、なぜか完全に『世界を救う女神様』を崇めるような熱狂的な瞳で拝み倒している。周りをぐるりと囲んで、感極まって泣き出してる奴までいる。なんだこいつら。相変わらずリアクションがデカくて意味わかんないけど、飯さえくれればどうでもいいや。

 

(……そういや、私ってこの世界の事、ぜーんぜん知らねえわ)

 

 丸ごとの豚の太ももに齧り付きながら、ふとそんな当たり前の事実に気がついた。TS転移して即効で飯食ってドンパチやってたから、ここがどういう国でどういう世界観なのか、1ミリも把握してない。

 

「あー、ごきゅっ……ねえねえ、君たちさ」

 

 私は口の周りを油と肉汁まみれにしながら、一番近くで私を崇拝の目で見つめている屋台の親父(今日は屋台じゃなくて炊き出しの鍋をかき混ぜてる)に声をかけた。

 

「私、すっごいド田舎から出てきたばっかの世間知らずな田舎者でさー。この街のこととか、この世界の常識とか、ぜんっぜん知らないんだよね。飯食ってる間暇だし、ちょっと色々と教えてくれない?」

 

 私が無邪気に(空いた皿を背後にぶん投げながら)そう振ると、スラムのまとめ役らしい男が、感極まったようにパァァッと効果音が出そうなほど輝き、周囲の連中も「女神様が我々に教えを乞うておられる!」「なんと慈悲深い!」と勝手にどよめき始めた。いや、ただの暇つぶしと情報収集なんだけど。

 

「はいっ! もちろんでございます、慈愛の聖女様! この腐りきった街の真実を、すべてお話しいたしましょう!」

 

 親父が、熱に浮かされたような顔で、その口を大きく開いた──。

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