「こうして英雄アルバートは黒竜の片目と引き換えに命を落とし黒竜はオラリオから離れ竜の谷へと姿を消すことになりました。そして、その後多くの神がオラリオに降りたり新しい時代『神時代』が始まることとなりました。」
何度聞いたかわからないこの世で一番有名な英雄譚英雄アルバートの物語。テミスのその語りは何度聞いてもその輝きが消えうせることはなく、逆にどんどんと解像度が上がりよりきれいで美しく、かっこいいものに見えてくる。
はじめて古代の英雄たちの話を聞いたのがいつかは分からない。しかし記憶のある限り俺の人生のすべてにおいて英雄たちはくっついていてある意味俺の人生、まだ僅か八年ほどではあるが、そのものといっていいのかもしれない。
「じゃあ、アーサー王は? 僕あれが一番好きだよ」
俺の隣で熱心にテミスの話を聞いていた物心ついてからの幼馴染―あるいはずっと同じ屋根の下で暮らしているので兄弟と呼んでもいいかもしれない―であるアジルが彼のお気に入りのアーサー王の物語をねだる。数多の精兵と十二人の円卓の騎士と呼ばれる精強な騎士をひきつれ古代のオラリオでダンジョンのモンスターたちと激闘を繰り広げたアーサー王の物語である。
自分自身も含め英雄と聞くと一騎当千の個人にあこがれるものが多いがどうやらアジルにとってのそれは膨大な数の兵士を束ねる将軍の像にあてはまるらしい。
勿論アーサー王の物語も面白く何度聞いても聞き飽きないような話だ。だがそれは適度な頻度で聞いたらの話でありアジルの熱狂的なアーサーファンぶりのせいで毎日一回、悪いときは二回三回と聞かせられると段々飽きてくる。
しかもテミスはねだられたら断るということを知らないから何度でも嬉々として語ってくれるのでこの日二回目で人生もしかしたら数万回目になるかもしれないこの話が回避することはできなさそうだ。
さすがにそんなに聞いていたらノイローゼになって病んでしまいそうだ。
「ちょっと外で遊んでくる!」
なんとか話から逃げたいときは外で遊ぶのに限る。体を動かすのは好きだ。それに俺たちにとって外で遊ぶと言ったら英雄ごっこだ。そこら辺にある棒を使ってアジルと戦ったり自分が英雄になった時を想像して見えない黒竜と鎬を削ったりする。古代の英雄たちに思いをはせその憧れはだんだんと強いものになっていくのだ。最近、ヴァンに闘い方を教えてくれるよう何度も頼み込んでいるがまだ何も教えてもらっていない。なんでもまだ早すぎるそうだ。たまりにたまった英雄への憧れと渇望は妄想の中で満たすとしよう。
「ちょっとまてよ! おれもいく!」
どうやらアジルも同じようだ。
✥✥✥
「よお! ひさしぶり!」
その日の夜、俺たちのぼろいホームのぼろい扉をたたいたのは下層へと遠征に行っていた俺たちの団長、ヴァンだった。下層ともなると日帰りで行って帰ってということは難しい。ヴァンのレベルは3でありサポーターを雇っているとはいえ戦闘要員は一人だけだ。かなりの危険を伴っているのは確かだろう。しかしその分ヴァンが稼いでくる額はかなり多い。サポーターへ払うお金などそこまで大きなものではない。
「お疲れ様。でも今日は遅かったわね。今日のお昼ぐらいには帰ってくるとおもってたの。」
テミスがヴァンをねぎらう。
ヴァンは基本的に計画を立てて遠征に行っている。一回の遠征でそれなりに稼いでくるので甘利頻度は高くない。しかしその分自身の身を守るために毎度綿密な計画を練っている。今回は珍しく半日ほどずれたようだ。
ヴァンが帰ってくる日は夕食が少し豪華になる。俺たちはもう食べてしまったが今日の晩御飯は厚いステーキだった。テミスがヴァンのために晩御飯を作りにキッチンのほうへと歩いて行った。
ヴァンは俺とアジルの頭をごつごつとした大きな右手でガシガシと撫でて少し言葉を交わした後風呂場のほうへと消えていった。
ヴァンが取り合えずリビングに置いた大剣を見つめる。ヴァンの大剣は黒い色の素人から見てもわかるほどには手入れがいきとどいたきれいな大剣だった。
武器というのは難しいものだ。何かを強くしようとすればその分何かが弱くなる。大剣は確かに破壊力においては抜群だがその重量から扱いは非常に難しい。特に防御となるとかなりの技量と力を必要とする。かといって重量を軽くしてレイビアや直剣などを使えば今度は威力を出すのが困難になる。
そんなことを暫く考えているとヴァンが風呂から出てきた。かなり疲れていたのだろう、ソファーにぐったりと寝転んで目をつむっている。
「ああ、そうだ。」
ヴァンが急に起き上がって俺に言う。
「グラム、アジル、お前ら冒険者になりたいんだろ? まだダンジョンは早いだろうがちょっとずつ教えていってやるよ。」
「「え⁉」」
俺たちはヴァンのもとに駆け寄ってごろごろしているヴァンに飛び乗る。「じゃあいまから。」と嬉々として叫ぶ。ようやく夢の舞台に一歩だけ近づいたような気がした。
「あぁ、わかったからちょっとゆっくりさせてくれ。また明日な。」
さすがに疲れた体に鞭を打つ俺たちが鬱陶しかったようだ。払われてソファーの上から落ちてしまったが俺たちの興奮は全く収まらない。俺とアジルは興奮冷めやらぬなかレスリングでもしているかのようにじゃれあった。
「ちょっと、あんたたちうるさいわよ! もう遅いんだからさっさと寝なさい!」
どうやら騒ぎすぎてしまったようで、激怒したテミスの拳で黙らせられそのまま寝室に投げ入れられてしまった。ベッドに投げ込まれて「こんな時に寝られるか」と息まいていたのだが子どもの脳というのは単純なもので五分ほどたってしまえばそんなこと脳から消え去り気づかぬうちにぐっすりと深い眠りについてしまった。
✥✥✥
「本当に良かったの? もうあの子たちをそっちの世界に連れて行って」
グラムとアジルが寝静まった後、テミスは暖かいミルクを飲みながら晩御飯を食べているヴァンに尋ねる。
「どうせ行く道なんだろう? じゃあ早いほうがいい。いかに経験を積めるか、そしてそれをその身に刻めるか、それがダンジョンで生き残るうえで一番大切だ。」
大きな一口でステーキをほおばりながらテミスの問いにこたえる。
「確かにあの子たちはこの後の世界において重要な役割を果たすことができる器よ。でも早すぎるってことはないの? それに私が知っているのはその器であってそれ以上ではないわよ。」
「幼いころからダンジョンにもぐることで命の危機に陥りやすいのは確かだ。でも俺がいる。それに命が危ない状況がいっぱいあるってことはその分成長した時の生存率にかかわってくる。それにすぐダンジョンに行こうってわけじゃないんだ。俺の遠征の合間にちょっと教えて遠征に行ってる間に多少自分たちで何かできるようにするだけさ。」
先の展望をつかみ取ったのかテミスはヴァンにうなずく。
「私もちょっと失敗しちゃったって思ってるの。あの子たちはダンジョンに夢を見すぎてる。ほいほい乗せられて英雄譚を語りすぎたんじゃないかって。」
テミスが不安そうにそうこぼす。
「はっ。そんなん気にすんな。それぐらいがちょうどいいよ。現実は嫌でも知ることになる。それを知る前に死ぬなんてことは俺がさせねぇよ。」
✥✥✥
武器とは不思議なものだ。使い手の精神を表している。武器が人を決めるのが人が武器を決めるのかはっきりしないところがある。それは勿論良い武器が使い手を選ぶということでもあるし、あるいは槍や大剣、もしくは弓や盾などという種類で見てみてもそうだろう。大剣を使っている奴はだいたい同じような顔で同じような体形で同じようなバランスのステータスをしているものだ。それを極めていったものが大成する。もしくはそれをすべて無視して自分だけの道を進んだものもまた大成するかもしれない。
ともかく武器を決めるというのは冒険者としての人生を決定づける大切な選択なのだ。勿論、色々な武器を試すこともできる。しかしそれはその分技術の成熟が遅くなることを意味する。確かに色々な武器を使うことでえるものもあるが基本的に戦う相手がモンスターである以上何かの武器に決めてそれを極めることが好ましい。
さて、俺は今ホームの近くの空き地で、ヴァンが広げた様々な種類の武器から一つを選ぼうとしている。アジルは即断即決といった感じですぐに大剣を選んだ。以外でも何でもなく予想通りだった。普段からアジルは大剣にあこがれている素振りを見せていたからだ。ヴァンが使っているということもあるし、何より彼の好きな英雄たちはなぜかみんな大剣を使っている。彼が大剣を使うのはどこか既定路線のように見えた。
しかし俺の場合はそうでもない。そもそもこれは命をあずけるものとなり、ある意味命そのものとなるのだ。昨日までは心を躍らせていた鍛錬もいざ一夜を開けてその日を迎えると結局命を削ろうとしているのだという実感がわいてきた。だから怖気づいたわけではない。慎重に考えねばならぬと思ったのだ。
俺の前にあるのは大きく分けて三種類、弓、剣、そして槍だ。生き残るためにどれが一番確率が高いかと考えると一番高いのはやはり弓だろう。遠距離からの攻撃はリスクは少ない。しかし逆に接近された場合一番もろいのも弓だ。となれば却下だろう。そもそも俺たちは大規模なパーティーを組めるようなファミリアじゃない。基本的に短距離での戦闘を考えたほうがいいだろう。
そしてアジルのことも考えなければいけない。あいつは大剣を選んだ以上一番手に位置することになるだろう。となれば俺の役割は二番手、あいつが一番前で敵をひきつけている間に横やりを入れてダメージを与える、と考えるのがいいのではないか。
となれば剣は剣でも短剣、槍は槍でも短い槍となる。この二つで考えたら槍のほうが良い気がする。短剣は少し威力が物足りない。槍はいくら短いものを使うといってもリーチがあって短剣よりは威力も戦い方のレパートリーも増えそうだ。
「よしっ。俺は槍にするよ。」
ヴァンがそこらへんで適当に買ってきた槍、かなりの年代物で実戦で使うための者ではないそうだが間違いなく俺にとって初めての武器。まだ出会ってほんのわずかであるがもう愛着がわいてきた。
✥✥✥
それからというもの俺たちは訓練と座学に明け暮れることとなった。
ヴァンに教えられた動きや体力トレーニングを来る日も来る日も繰り返した。
またダンジョンにもぐる上では知識も非常に大切である。敵を知らなければ有効な対策もとれない。そのため俺はギルドが発行している上層と中層におけるモンスターの生態や対策をまとめた本での勉強を始めた。
アジルはどうもそういったことが苦手できらいなようで俺が本を読んでいたりしても一人で逃げるように外に体を動かしに行ってしまう。
さて、それはそれとして今日は俺たちにとって待ちに待った日なのだ。
冒険者がそんじょそこらの一般人たちと一線を画する戦闘力を持っている理由である
それに比べてレベルは1つ上がっただけで破格の効果なのである。
そしてステイタスを獲るということはある意味レベルが1上がるということと同じ意味なのだ。
「じゃあ、まずはグラムからね。こっちの部屋に来て。」
テミスが俺を部屋に呼ぶ。ようやく俺の冒険者人生が始まるのだ。
そんな期待を胸にテミスの部屋に入る。テミスの部屋は少し薄暗い。テミスの纏う雰囲気もどこかいつもと違う。いつもよりも緊張しているような真剣な雰囲気だ。
「まずは貴方の想いを聞かせてほしい。どうしてわざわざ危険の伴う冒険者を目指すの?」
「俺の夢だから。それに誰も成し遂げていないことをしたい。三大冒険者依頼という古代の置き土産もある。それが俺と古代の英雄、つまり俺の夢とを結び付けてくれる。それにリスクのないことなんてないし俺は簡単に死ぬつもりもない。」
すこし恥ずかしいが何とか言葉にして伝えられた。すこし顔が紅潮しているのを感じる。でもそれを隠すのも何かかっこ悪いような気がして、知らないふりをしてテミスの目を見つめる。
「いい目よ。さあ、その服を脱いで背中に刻むから」
俺は着ていたシャツを脱いでベッドにうつぶせになって寝転がる。
テミスが
「よしっ。終わり。これがステイタス。まさか初めから魔法があるなんてね。」
テミスが俺にステイタスが写された紙を手渡す。
ステイタス
グラム lv1
力 I0
耐久 I0
器用 I0
俊敏 I0
魔力 I0
〈魔法〉
【悪魔の剣(グラディアス・ディアボル)】
詠唱式「パトス」
炎属性
付与魔法
【】
〈スキル〉
予想もしていなかったが何と俺には初めから魔法があるようだ。これは、色々とコンゴが変わってきそうだ。しかし、詠唱式がとても短い以上、高火力はあまり期待できないかもしれない。
「まあ、まずは体を慣らすところからね。ヴァンも言ってたと思うけど、すぐにダンジョンに行けるわけじゃないわ。貴方たちを無駄死にさせるわけにはいかないしね。」
「そりゃもちろんわかってるよ。」
一緒に部屋を出てアジルを呼んでくる。アジルもさすがに緊張しているようで俺に何か言うまでもなくすぐにテミスの部屋へと入っていった。
ともかくまずは体がどれほど変わったかを知らなければならない。俺はソファーに寝転んでいたヴァンをたたき起こし家の隣の空き地に急いだ。
✥✥✥
グラムとアジルがステイタスを得た日の夜。二人が寝静まったころ、ヴァンとテミスが二人きり、ココアと紅茶を片手にテーブルを囲んでいた。
「まさか、あそこまでとは思ってなかったわよ。」
テミスがグラムとアジルのステイタスが書かれた紙を見ながら呟く。
「アジルの魔法が興味深い。【砂塵の皇帝】か。砂でできた兵を生み出してそいつらを想いのままに操れる。今日見た感じじゃ、あれは化けそうだぞ。あいつの技量と頭次第ではどこまでも行ける。でもなかなか難しそうだな。特に脳のリソースが割かれすぎる。」
ヴァンはじっくりとその効果を見ながら言う。しかし険しそうな声の割にその顔には笑みがこぼれていた。
「鍛えがいがあるってもんだよ。」
「ヴァンらしいわ。」
テミスがもヴァンの笑みつられて笑う。明日から一段とアジルとグラムの日々は厳しくなるだろう。だがその先に二人は栄光を確かに見つけている。
✥✥✥
アジル・ルージュ lv1
力 I0
耐久 I0
器用 I0
俊敏 I0
魔力 I0
〈魔法〉
【砂塵の王】
詠唱式「目覚めよ」
砂でできた兵を召喚しそれを操る。自身の熟練度に応じて召喚できる砂の兵が増加する。
アジルの魔法と名前の元ネタはlolのアジールです。でも特段何かあるわけじゃないです。