つぶやきギデオン   作:赤銀

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カケラ9個目

 

洞窟の入り口に、風鈴を吊るす。

 

細い紐で結び、石の出っ張りにかける。

 

まだ、鳴らない。

 

夏は、ゆっくり近づいている。

 

光が強くなり、影が濃くなる。

 

ある日。

 

ちりん。

 

小さな音。

 

ギデオンが顔を上げる。

 

「……鳴った。」

 

風が、少し変わった。

 

あなたは言う。

 

「風鈴ってね、占いの道具だったって知ってた?」

 

ギデオンは首をかしげる。

 

「どうやって?」

 

「わからない。でも、音で何かを読むんだって。」

 

風が吹く。

 

ちりん。

 

少し長く揺れる。

 

あなたは目を細める。

 

「海に行きたいって、言ってる気がする。」

 

ギデオンは風鈴を見る。

 

「……暑い。」

 

日差しは強い。

 

石も、少し熱を持っている。

 

「行く?」

 

「うん。」

 

坂道は、長い。

 

ギデオンは少しバテている。

 

「……まぶしい。」

 

あなたはしゃがむ。

 

「乗る?」

 

少し迷ってから、肩に手が置かれる。

 

軽い。

 

でも、体温が近い。

 

坂道を上る。

 

汗がにじむ。

 

風が、遠くから匂いを運ぶ。

 

「……潮。」

 

頂上に着く。

 

「見えたよ。」

 

青が、広がる。

 

海。

 

波の音。

 

ざあ、と繰り返す。

 

風は強く、風鈴よりも大きな音を鳴らす。

 

砂浜に降りる。

 

石を拾う。

 

丸いもの。

 

白いもの。

 

縞のあるもの。

 

ギデオンが何かを見つける。

 

そのとき。

 

砂の上を、ささっと影が走る。

 

小さなカニ。

 

横歩きで、ぎこちなく、それでも速い。

 

二人の気配に気づいたのか、

 

ぴたりと止まり、

 

次の瞬間、岩の隙間へ消えていく。

 

「……逃げた。」

 

ギデオンがつぶやく。

 

波打ち際には、動かないものもいる。

 

透きとおったクラゲが、潮にゆだねられて揺れている。

 

ヒトデは、星の形のまま、砂に半分埋もれている。

 

逃げるもの。

 

とどまるもの。

 

「みんな、違うね。」

 

あなたが言う。

 

ギデオンはうなずく。

 

「近づいていい距離、ちがう。」

 

風が強く吹く。

 

潮の匂いが濃くなる。

 

その足元に、ひとつ転がっているものがある。

 

「これ。」

 

法螺貝。

 

少し欠けている。

 

持ち上げると、カラカラと音がする。

 

中に、何か入っている。

 

木片が覗いている。

 

取り出そうとする。

 

出ない。

 

「……取れない。」

 

あなたは笑う。

 

「このまま、持って帰ろう。」

 

ギデオンは法螺貝を耳に当てる。

 

波の音は、しない。

 

代わりに。

 

カラカラ。

 

小さな乾いた音。

 

でも、潮の匂いがする。

 

「……海の、におい。」

 

あなたも耳に当てる。

 

音はない。

 

でも、風と日差しと、汗の匂い。

 

あの坂道の暑さ。

 

肩の重み。

 

全部、残っている気がする。

 

ギデオンが言う。

 

「音、なくても。」

 

少し間。

 

「残る。」

 

風が強く吹く。

 

遠くで、波が砕ける。

 

洞窟の入り口の風鈴も、きっと今鳴っている。

 

海の音とは違う、小さな音。

 

ふと見上げると

 

白い入道雲が、静かに育っている。

 

崩れそうで、崩れないまま。

 

夏はまだ、そこにある。

 

 

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