洞窟の奥で、あなたは巻物を広げる。
青い光が、じわりとにじむ。
「また、なの。」
光が弾ける。
ぽん。
ギデオンが、二人になる。
少しだけ間。
二人同時にあなたを見る。
そして。
両手を伸ばす。
肘をくねくね。
謎の歓迎ダンス。
息ぴったり。
左右対称。
完璧な無表情。
あなたは吹き出す。
「なんでそんな揃ってるの。」
片方が言う。
「同期。」
もう片方が言う。
「共有。」
くねくね。
ぴたり。
止まる。
何事もなかったように、二人は石卓の方へ歩く。
あなたはまだ笑っている。
洞窟の中央。
石の床に、ドミノがずらりと並んでいる。
一人のギデオンは、腕を組んで立っている。
少し胸を張って。
もう一人は、床にしゃがみ込み、
せっせとドミノを並べている。
あなたは状況を理解しきれずに立ち尽くす。
「分裂したら、まずそれ?」
腕組みのギデオンが言う。
「拡張実験。」
しゃがんでいるギデオンが言う。
「効率化。」
あなたは小さく笑う。
あなたは腕を組んでいる方を見る。
「手伝わないの?」
腕組みギデオンは、ゆっくり瞬きをする。
「監督。」
しゃがんでいる方が、小さく言う。
「現場。」
あなたは少し眉を上げる。
「監督って、何するの?」
腕組みギデオンは真顔で答える。
「全体を見る。」
「今、何見てるの?」
少し間。
「美。」
しゃがんでいるギデオンの手が一瞬止まる。
「……置くのは、ぼく。」
あなたはしゃがんでいる方の隣に座る。
「ほんとに大丈夫?」
置くギデオンは、小さくうなずく。
「速いから。」
その瞬間。
腕組みギデオンが、こつ、と最初のドミノを倒す。
ぱた。
ぱたぱたぱた。
連鎖が始まる。
しゃがんでいるギデオンが、超高速で動く。
すっ。
すっ。
倒れてくる直前に、新しいドミノを差し込む。
ぱたぱたぱた。
腕組みギデオンは、少しだけ満足そう。
「いい流れ。」
あなたは言う。
「やっぱり置くほうが大変じゃない?」
ぱたぱたぱた。
置くギデオンが、ほんの少しだけ息を整える。
腕組みギデオンが、少しだけ視線を逸らす。
「……役割。」
あなたはにやりとする。
「じゃあ、交代ね。」
ぴたり。
ドミノが途中で止まる。
二人のギデオンが顔を見合わせる。
腕組みギデオンが、ゆっくりしゃがむ。
「監督も、現場を知る。」
置く側だったギデオンが、腕を組む。
「美、見とく。」
あなたは笑う。
「それでいい。」
幾分か、2人のギデオンが交代した後。
しばらく、誰も倒さない。
三人で、ただドミノを並べる。
倒れる前の形。
まだ何も起きていない、まっすぐな列。
洞窟の中は静かだ。
さっきまでの高速も、役割も、競争もない。
ただ、等間隔に置かれていく小さな板。
あなたはふと思う。
増えたからって、急がなくていいのかもしれない。
腕を組んだギデオンが、列を眺める。
しゃがんでいるギデオンが、最後の一枚を置く。
少し曲がっている。
誰も直さない。
少しだけ不揃いなまま、並んでいる。
「倒す?」
あなたが聞く。
二人は顔を見合わせる。
少し考えて。
同時に首を振る。
「今日は、見てるだけ。」
洞窟の奥で、青い光の残りが、まだかすかに揺れている。
ドミノは倒れていない。
でも、そこにある。
三人の影が、床に重なる。
増えた分だけ、影も少し濃い。
誰も急がない。
それでも、列はちゃんと続いている。
洞窟の外で、風がひとつ鳴る。
まだ倒れていないドミノの列は、
静かなまま、そこにある。
崩れないことも、
ひとつの形なのかもしれない。
二人のギデオンは何も言わない。
あなたも言わない。
ただ、並んだままの景色を見ている。