つぶやきギデオン   作:赤銀

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前日譚を追加してます


カケラ11個目

 

 

 

洞窟の入り口で、あなたはふとギデオンを見る。

 

黒くて、つやのあるツノ。

 

光を静かに受け止めている。

 

「ギデオンのツノ、かっこいいね。」

 

ギデオンは少しだけ目を細める。

 

「そう?」

 

「うん。強そうだし、きれい。」

 

ギデオンは自分のツノにそっと触れる。

 

指先で、つるりと撫でる。

 

「……でも、あまり好きじゃない。」

 

「え?」

 

「危ない。」

 

あなたは笑う。

 

「確かに刺さりそう。」

 

少し間。

 

ギデオンは首をかしげる。

 

「なんのためにあるんだろう。」

 

「戦うため、とか?」

 

あなたが言うと、ギデオンはすぐ首を振る。

 

「ぼく、ケンカは嫌い。」

 

「じゃあ、飾り?」

 

「……見せるため?」

 

洞窟の外から、風が入る。

 

ツノの先が、わずかに光る。

 

あなたは言う。

 

「でも、戦わなくても、あるだけで抑止力になるんじゃない?」

 

ギデオンは少し考える。

 

「抑止力。」

 

「うん。戦わないためのツノ。」

 

沈黙。

 

「それなら、少し好き。」

 

あなたは自分の頭を触る。

 

「わたしにはないけど。」

 

ギデオンはあなたを見る。

 

「見えないだけかも。」

 

「え?」

 

「ツノ、外に出てるとは限らない。」

 

あなたは笑う。

 

「内蔵型?」

 

「たぶん。」

 

少し間。

 

ギデオンが、あなたを見上げる。

 

あなたは、少しだけしゃがむ。

 

目の高さがそろう。

 

夜の風が、二人のあいだをすり抜ける。

 

ギデオンが、あなたの額にそっと指を当てる。

 

「ここ。」

 

「思考。」

 

あなたは目を細める。

 

「それで戦うの?」

 

ギデオンは首を振る。

 

「守る。」

 

風が吹く。

 

ツノは、静かにそこにある。

 

ギデオンがぽつりと言う。

 

「強くなるためじゃなくて。」

 

「戦わなくて済むように、あるならいい。」

 

あなたはうなずく。

 

「じゃあ、今日はツノバトルしない?」

 

ギデオンはすぐ答える。

 

「しない。」

 

少し間。

 

「……でも、ポーズはする。」

 

両手を後ろで組んで、ツノを強調する謎ポーズ。

 

あなたは吹き出す。

 

「それはするんだ。」

 

「ケンカじゃない。」

 

「見せるだけ。」

 

洞窟に、静かな笑いが落ちる。

 

ツノは鋭い。

 

でも、今日も何も傷つけないまま。

 

少し外に出てみようか。

 

ギデオンが先に歩き出す。

あなたも並ぶ。

 

あたりはもう陽が落ちている。

 

星の光は冷たくて、でもどこかやわらかい。

 

少し考えてから、ぽつりと言う。

 

「平和ってさ、」

 

「争いがないこと、って習うよね。」

 

「でもそれだけじゃ、ちょっと足りない気がする。」

 

視線は夜空のまま。

 

「誰も怒鳴らないこととか、武器がないこととか、もちろん大事だけど。」

 

「ぼくはね。」

 

「安心して、黙っていられることのほうが、平和に近い気がする。」

 

小さく息を吐く。

 

「沈黙が怖くないこと。」

 

「失敗しても、すぐに切り捨てられないこと。」

 

「弱いまま、そこにいてもいいって思えること。」

 

少しだけあなたのほうを見る。

 

「たぶん、世界全部を平和にするのは難しい。」

 

「でも。」

 

「今ここで、君と並んで星を見ていられるなら。」

 

「この半径数メートルは、もう平和だよ。」

 

目を細めて、かすかに笑う。

 

「大きな旗も、立派な宣言もいらない。」

 

「誰かの隣が、怖くないこと。」

 

「それが続けば、たぶんそれでいい。」

 

言葉は、夜の中に溶けていく。

 

風がゆっくりと吹き抜ける。

 

草がわずかに揺れ、

洞窟の影が長く伸びる。

 

遠くの星は瞬き、

でも音はしない。

 

冷たい空気が頬に触れる。

 

あなたとギデオンの間には、

何も起きていない。

 

何も壊れていない。

 

ただ、並んでいる。

 

夜は広く、

世界は静かで、

今は誰も何も求めない。

 

その静けさの中で、

 

ツノに宇宙の煌めきが映り込んでいる。

 

 

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