つぶやきギデオン   作:赤銀

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ガヴィア登場回。
地層、土の哲学を持ってます。


カケラ12個目

 

 

ギデオンは、海の底を歩いている。

 

足元は砂。

 

ふわりと舞う。

 

海藻が、ゆっくり揺れる。

 

上を見ると、水の天井。

 

光がゆらゆら揺れている。

 

太陽は遠い。

 

でも、ちゃんと届いている。

 

あなたが隣を歩く。

 

水の中なのに、

 

息ができる。

 

話もできる。

 

少しだけ泡が出る。

 

ゴポ。

 

あなたが笑う。

 

「今の、泡。」

 

ギデオンも少し笑う。

 

「…勝手に出ちゃう。」

 

魚の群れが通る。

 

銀色。

 

一瞬で形を変える。

 

雲みたいに。

 

サンゴが広がっている。

 

赤。

 

橙。

 

紫。

 

小さな生き物が、そこに住んでいる。

 

ギデオンは立ち止まる。

 

しばらく見ている。

 

ぽつり。

 

「……ここなら。」

 

あなたが聞く。

 

「何?」

 

ギデオンはサンゴを見たまま言う。

 

「混ざれるかな。」

 

小さな魚が、サンゴの隙間から出てくる。

 

すぐまた隠れる。

 

あなたは少し考える。

 

「どうだろう。」

 

ギデオンは、少し首をかしげる。

 

「黒いの、目立つかな。」

 

あなたは笑う。

 

「サンゴだって、いろんな色あるよ。」

 

少し間。

 

ギデオンは自分の体を眺める。

 

黒い。

 

光を吸う色。

 

でも、水の中では、

 

少しだけ青く見える。

 

魚が近くを通る。

 

逃げない。

 

ギデオンが小さく言う。

 

「……怒らない世界なら。」

 

泡がひとつ浮かぶ。

 

ゴポ。

 

あなたが言う。

 

「怒らないの?」

 

ギデオンは少し考える。

 

それから小さく言う。

 

「怒ると、疲れる。」

 

海藻が揺れる。

 

光が揺れる。

 

魚の群れが、もう一度通る。

 

サンゴ礁の町みたい。

 

静か。

 

あなたが聞く。

 

「住む?」

 

ギデオンは少し考える。

 

長い間。

 

それから言う。

 

「……たまに来る。」

 

「どうして?」

 

ギデオンは上を見る。

 

遠い水面。

 

光。

 

「帰る場所、あるから。」

 

泡がひとつ浮かぶ。

 

ゴポ。

 

そして。

 

ギデオンは少し笑う。

 

「ここは、きれいすぎる。」

 

海の中で、

 

光がゆらゆら揺れている

 

泡が、もうひとつ浮かぶ。

 

ゴポ。

 

光が揺れる。

 

海藻が揺れる。

 

魚の影が通る。

 

――

 

ちりん。

 

風鈴の音。

 

ギデオンは洞窟の入口で座っている。

 

少しぼんやりした顔。

 

視線は遠く。

 

あなたが声をかける。

 

「何見てるの?」

 

ギデオンは少し瞬きをする。

 

それから、ゆっくり言う。

 

「……海。」

 

あなたは首をかしげる。

 

「ここ山だよ。」

 

少し間。

 

ギデオンは小さく笑う。

 

「頭の中。」

 

風が吹く。

 

風鈴が鳴る。

 

ちりん。

 

ギデオンはまだ少しだけ

 

遠いところを見ている。

 

そのとき。

 

洞窟の奥の土が、少し動く。

 

音はほとんどない。

 

土が、やわらかく盛り上がる。

 

そこから、ゆっくり顔が出る。

 

ガヴィア。

 

土の匂いをまとったまま、

 

ぼんやりと周りを見る。

 

「……ん…」

 

あなたが言う。

 

「ガヴィア。」

 

ガヴィアはギデオンを見る。

 

少し首をかしげる。

 

「……遠い……」

 

ギデオンが少し笑う。

 

「海、見てた。」

 

ガヴィアは少し考える。

 

それから、地面に手を置く。

 

指先で土を触る。

 

ぽつり。

 

「……ここも……海……」

 

あなたが首をかしげる。

 

「え?」

 

ガヴィアは地面を軽く押す。

 

「……深い……」

 

少し間。

 

「……静か……」

 

ギデオンが地面を見る。

 

ガヴィアはさらに小さく言う。

 

「……沈む……」

 

「……似てる……」

 

意味がよくわからない。

 

沈黙。

 

洞窟の奥で、水滴が落ちる。

 

ぽつん。

 

ガヴィアが、もう一度土を触る。

 

「……泡……」

 

ギデオンが言う。

 

「海の?」

 

ガヴィアは小さく首を振る。

 

「……時間……」

 

沈黙。

 

風が吹く。

 

風鈴が鳴る。

 

ちりん。

 

ガヴィアが、ぼそりと。

 

「……ここ……混ざってる……」

 

ギデオンが少し笑う。

 

「いいね。」

 

ガヴィアは小さくうなずく。

 

「……ん、」

 

洞窟の外で、

 

風がまた鳴る。

 

ちりん。

 

ギデオンはもう、

 

遠くを見ていない。

 

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