洞窟の外で、風が強くなり始めたのは夕方だった。
最初はただの風だった。
草が少し揺れて、雲が速く流れるくらい。
でも空はだんだん低くなり、
遠くの山の向こうで雷が光った。
あなたは洞窟の入口から外を見ている。
「嵐、来るね。」
ギデオンは外の空を見上げた。
灰色の雲が重なり合って、
空がゆっくり折りたたまれていくみたいだった。
「……うん。」
少しして、雨が落ちてくる。
最初はぽつぽつ。
すぐに音が増える。
ざあああ、と水が地面を叩き始める。
洞窟の中まで、湿った空気が流れ込んでくる。
あなたは入口の石に座る。
ギデオンも隣に座る。
雨はどんどん強くなる。
風が吹き込み、
草が倒れ、
水が斜めに降る。
雷が遠くで鳴る。
しばらく、二人は黙って見ていた。
嵐の中の景色は、少し不思議だった。
いつも流れている川が、
今は少し荒れている。
水面に雨粒が無数に当たって、
世界が細かく揺れている。
ギデオンはその様子を、ぼーっと見ていた。
目の前の景色を見ているのか、
少し違うところを見ているのか、
よくわからない顔。
あなたが言う。
「怖くない?」
ギデオンは少し考える。
「……ちょっとだけ。」
でも顔はあまり変わらない。
雨はさらに強くなる。
洞窟の天井からも、水滴が落ち始める。
ぽつん。
ぽ……ん。
外の音は大きいのに、
洞窟の中は少し静かだった。
しばらくして、ギデオンが言う。
「嵐って、好き。」
あなたは少し驚く。
「そうなの?」
ギデオンはうなずく。
「……世界が、同じになる。」
外を見る。
雨は全部を濡らしている。
草も、石も、川も、木も。
遠くの山も、近くの地面も。
全部同じ雨の中。
「みんな、濡れる。」
ギデオンは小さく言う。
「だから、少し安心する。」
あなたはその言葉を聞いて、
嵐の外を見る。
確かに、景色は全部同じ色だった。
灰色と水。
境界がぼやけている。
雷がまた光る。
少しだけ洞窟の奥が明るくなる。
そのあと、低い音。
ごろごろ、と山を転がる。
あなたは腕を抱く。
少し寒い。
ギデオンはそれを見て、少し考える。
それから自分の毛布を、あなたの肩にかける。
「……濡れてないから。」
あなたは少し笑う。
「ありがとう。」
また沈黙。
嵐はまだ続いている。
でも、さっきより少し落ち着いてきた。
雨の音が、少し遠くなる。
川の流れも、ゆっくり元に戻っていく。
ギデオンは外を見ながら言う。
「嵐のあとって、きれい。」
「どうして?」
「全部、洗われるから。」
少し考える。
「昨日とか、前の日とか、
そういうの、流れる。」
あなたは雨の向こうを見る。
雲の切れ目に、少しだけ明るい色が出ている。
嵐は終わりかけていた。
水の匂いが強くなる。
濡れた土の匂い。
川の匂い。
草の匂い。
世界が少し新しくなる。
ギデオンはぽつりと言う。
「嵐のあとが、一番好き。」
あなたはうなずく。
「私も。」
雨はだんだん弱くなる。
ぽつ。
ぽつ。
やがて、音はほとんど消える。
雲の隙間から、月が出る。
濡れた草が光る。
川はまた静かに流れている。
ギデオンはしばらくその景色を見ていた。
それから小さく言う。
「……嵐、終わった。」
あなたは立ち上がる。
洞窟の外に一歩出る。
空気が冷たい。
でも、どこか澄んでいる。
ギデオンも隣に立つ。
世界はさっきより静かだった。
二人は少しの間、
その新しい夜を見ていた。