あと3話くらいで完結します。
アンケート協力いただいた方はありがとうございました!
書籍も電子も両方作ろうと思います。
刊行したら、あとがきを投稿しますね。
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焚き火は、ぱちぱちと静かに鳴っている。
夜は冷えているけれど、炎のまわりだけが丸くあたたかい。
あなたは芋を手に持つ。
包んだそれを、そっと灰の中へ沈める。
ギデオンが枝の位置を整える。
火が強くなりすぎないように、少し間を空ける。
ガヴィアは、少し離れた土にしゃがみこんでいる。
芋は灰の中。
外からは、何も変わっていない。
あなたは少し不安になる。
「ほんとに、焼けてるのかな。」
ギデオンは炎を見つめたまま言う。
「わからないよ。」
「え?」
「焼いてる間は、中身は見えない。」
ぱち、と火の粉が跳ねる。
「途中で割ったら、まだ固い。」
「でも、割らないと確かめられない。」
ギデオンは首を振る。
「確かめられない時間があるんだと思う。」
少し間。
「成長も、たぶん似てる」
あなたは灰を見る。
静かだ。
「外側は、黒くなるだけ。」
「変わってないように見えるし、むしろ悪くなったみたいに見える。」
ガヴィアが、土に指を埋める。
「……沈むと、ほどける。」
ギデオンは小さく笑う。
「うん、たぶんね。」
そして続ける。
「中で変わってるときって、自分でもわからないよ。」
「甘くなってる最中は、わからない」
「ただ、じわじわ熱いだけ。」
火は静かに続く。
「焦ると、途中で出したくなる。」
「でも、それはまだ途中なんだ。」
あなたは思う。
今の自分みたいだ、と。
「ちゃんと変わってる保証は?」
ギデオンは少し考える。
「保証はない。」
正直だ。
「でも、熱が消えてないなら、たぶん大丈夫。」
ガヴィアがぽつり。
「……音、変わる……」
「音?」
「……中で……」
ギデオンが頷く。
「外からは聞こえない音。」
ぱち。
ぱち。
時間が燃えていく。
しばらくして、あなたが土を掘る。
湯気が立つ。
甘い匂い。
割る。
中はやわらかい黄金色。
ギデオンが目を細める。
「……できた。」
ガヴィアが芋を見つめる。
「……音、変わった。」
「音?」
「……重さの音。」
意味はわからないけど、否定できない。
三人で分けて食べる。
ほくほくと、静かに。
あなたは思う。
焼いている最中は、不安だった。
でも、割ってみて初めてわかる。
ちゃんと変わっていた。
ギデオンが焚き火を見る。
「火、消そうか。」
あなたは水を少しずつかける。
じゅ、と音。
白い煙。
ガヴィアが土をかぶせる。
「……消えるの、遅い。」
炎はもうない。
でも、炭は赤く残っている。
あなたは燃え滓を見つめる。
ガヴィアが灰に指を近づける。
触れない。
「……終わってない。」
「え?」
「……形、変わっただけ。」
ギデオンが静かに言う。
「燃えたあとって、きれいだね。」
ガヴィア。
「……軽くなった重さ。」
意味がわからない。
でも、灰の下はまだあたたかい。
あなたは灰をならす。
熱が、かすかに残っている。
ガヴィアがぽつり。
「……中は、まだ昼。」
夜なのに。
誰も訂正しない。
火は消えている。
でも、あたたかさは残っている。
三人の影が、静かな灰の上に重なる。
ガヴィアが最後に言う。
「……待つと、燃えない。」
少し間。
「……燃えないと、甘い。」
意味は、たぶん。
たぶん、わかる。
でも、完全には説明できない。
それでいい。
それがいい。
三人の間には、
白い煙が
まだ残っている。