ギデオンは、石の段差に腰を下ろしていた。
目の前には草地が広がっている。風が通るたび、草がゆっくりと揺れる。
その動きを見ているうちに、だんだんと現実の輪郭が薄くなる。
草はいつのまにか波になり、波は雲になり、雲はほどけた毛糸のように空を漂う。
ギデオンはその毛糸を指でたどるような気持ちで、ぼんやりと空を見ていた。
もしあの雲を引っぱったら、どこまでほどけるんだろう。
空いっぱいに広がって、街の屋根を越えて、遠い山まで続くかもしれない。
誰かがその毛糸を巻き取って、また新しい空を編むのかもしれない。
「……。」
ギデオンはしばらくその空想の中にいた。
ふと、視線の端に影が入る。
ガヴィアが立っていた。
何をするでもなく、少し離れたところからギデオンを見ている。
いつからそこにいたのかは分からない。
ギデオンはしばらくそのまま見ていた。
ぼんやりと。
ガヴィアは動かない。
ただ静かにそこにいる。
少しして、ガヴィアの耳がうっすら赤くなる。
「……なに。」
小さく言った。
ギデオンは瞬きをして、ようやく現実に戻る。
「ううん。」
視線を外してから、少し考える。
「にらめっこしよう。」
ガヴィアは少しだけ首を傾けた。
「……。」
意味を考えているようだったが、やがて小さくうなずいた。
「……ん。」
二人は向かい合って座る。
草の匂いがする。
「にらめっこしよう。あっぷっぷ。」
ギデオンが言う。
ガヴィアは真剣な顔でギデオンを見る。
数秒。
何も起こらない。
十秒。
まだ何も起こらない。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
ギデオンはぼーっとしていた。
ただガヴィアの顔を見ている。
ガヴィアは少し眉に力を入れている。
二十秒。
三十秒。
沈黙。
ガヴィアの口元がわずかに動いた。
「……んんんん……。」
低く、押し出すような声が出る。
ギデオンは少し首を傾けた。
「いまの、なに。」
「……。」
ガヴィアは答えない。
まだ続けているつもりらしい。
また静かになる。
しばらくしてギデオンは思う。
――これ、終わらない。
ガヴィアは真面目にやっている。
たぶんずっと耐えるつもりだ。
ギデオンは少し考える。
それから、突然目を寄せた。
口を横に引っぱり、ほっぺを膨らませる。
かなり変な顔。
ガヴィアは一瞬だけ目を細めた。
耐えている。
でも次の瞬間、
「……っ」
小さく息が漏れた。
肩がわずかに揺れる。
ガヴィアは顔をそらした。
負け。
ギデオンは普通の顔に戻る。
「勝った。」
ガヴィアは少しだけ赤い顔で戻ってくる。
「……変だった。」
「変顔。」
「……そう。」
また少し沈黙。
草が揺れる。
ギデオンはガヴィアを見ていた。
でもすぐに視線を外す。
さっきの顔を少しだけ思い出す。
「……。」
少しだけ、頬があたたかかった。
二人はしばらく何も言わずに座っていた。
風が通るたび、
草がゆっくり揺れる。
さっきと同じ景色なのに、
少しだけ、
面白くなっていた。