販売ページ置いておきますね...。
28日くらいには入庫されるはず…。
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電子書籍はもう少しだけお待ちください。
それでは最終話です。
カツン
洞窟の奥。
いつもより、少し散らかっている。
黒い岩が、ところどころに置きっぱなし。
削りかけの破片。
粉。
机の上にも、床にも。
ギデオンは石卓の横に座っている。
腕を組んだまま。
あなたは入口で立ち止まる。
「……どうしたの。」
ギデオンは少しだけ目を上げる。
「別に。」
視線はすぐ床に落ちる。
足元の石を、つま先で少し押す。
ころ。
転がる。
止まる。
「片付けないの?」
少し間。
「あとで。」
でも、動かない。
あなたは部屋を見回す。
いつもは、きちんと並んでいる石たち。
今日は、ばらばら。
途中で投げ出した形。
あなたは一つ拾う。
丸い石。
机の上に置く。
ギデオンがちらりと見る。
何も言わない。
あなたはもう一つ拾う。
少し尖っている。
その隣に置く。
また一つ。
また一つ。
洞窟の中に、
石の音だけが小さく響く。
こつ。
ころ。
こつ。
ギデオンがぽつりと言う。
「……意味ない。」
「何が?」
「並べても。」
「また崩れる。」
あなたは次の石を拾う。
少し考えてから、
前の石と少し離して置く。
「崩れるの前提で並べれば?」
ギデオンが少しだけ眉を動かす。
「前提?」
「うん。」
あなたは笑う。
「倒れるドミノみたいに。」
「最初から。」
「崩れてもいい形。」
少し間。
ギデオンは床の石を一つ拾う。
見つめる。
そして、
あなたが並べた石の横に置く。
少しだけ曲がっている。
「……きれいじゃない。」
あなたは肩をすくめる。
「今日はいいんじゃない?」
沈黙。
洞窟の奥で、水滴が落ちる。
ぽつん。
ぽ……ん。
ギデオンが小さく言う。
「……今日は。」
少し間。
「疲れた。」
あなたはうなずく。
「うん。」
石をもう一つ置く。
丸。
尖り。
欠け。
少しずつ並ぶ。
完璧じゃない列。
ギデオンがもう一つ置く。
今度は少しだけ整える。
「……これ。」
あなたを見る。
「意味ある?」
あなたは少し考える。
それから言う。
「いま、二人で並べてる。」
少し間。
ギデオンは目を細める。
「……それは。」
小さく息を吐く。
「悪くない。」
洞窟の中に、
不揃いな石の列ができている。
まだ途中。
丸。
尖り。
欠け。
まっすぐでもない。
でも、途切れてもいない。
ギデオンが、もう一つ石を置く。
あなたも、ひとつ置く。
そのとき。
洞窟の奥の土が、少しだけ動く。
音はほとんどない。
土が、やわらかく盛り上がる。
そこから、ゆっくり顔が出る。
ガヴィア。
土の匂いをまとったまま、
ぼんやりと周りを見る。
「……ん、…」
あなたが手を振る。
「ガヴィア。」
ガヴィアは列を見ている。
しゃがむ。
「ん…」
指で石を一つ触る。
少し考える。
ぽつり。
「……流れてる……」
ギデオンが首をかしげる。
「石?」
こくり。
「……重い……のに……」
意味がわからない。
ガヴィアは石の列をたどる。
指先で、順番に触る。
丸。
尖り。
欠け。
ぽつり。
「……落ちたもの……」
少し間。
「……並んでる……」
あなたは言う。
「さっき置いたの。」
ガヴィアは首を小さく振る。
「……違う……」
沈黙。
「……沈んできた……」
ギデオンが眉を寄せる。
「沈む?」
ガヴィアは地面を指さす。
「……上は……落ちる……」
次に、石の列を指す。
「……下は……並ぶ……」
意味がわからない。
あなたは少し笑う。
「どういうこと?」
ガヴィアは少し考える。
そして、
小さく言う。
「……まだ……動いてる……」
石を軽く押す。
ころ。
少しだけ転がる。
止まる。
「……止まってない……」
ギデオンが列を見る。
「動いてないよ。」
ガヴィアはまた首を振る。
「……ゆっくり……」
「……ずっと……」
沈黙。
洞窟の奥で水滴が落ちる。
ぽつん。
ぽ……ん。
ガヴィアがさらに小さく言う。
「……並べたんじゃない……」
指先で土を触る。
「……集まった……」
あなたは少し困る。
「?」
ガヴィアは列を見ている。
長い間。
それから、
ぽつり。
「……いい……」
少し間。
「……重い……」
あなたが聞く。
「何が?」
ガヴィアは石を指す。
そして、
あなたとギデオンを指す。
「……時間……」
沈黙。
ガヴィアは、もう一度石を触る。
「……積もってる……」
少し考える。
それから、
小さく。
「……忘れた……」
沈黙。
あなたは笑う。
ギデオンも、少しだけ笑う。
石の列は、
さっきより長くなっている。
まっすぐじゃない。
でも、
途中で終わっていない。
そして、
まだ少しだけ、
続いている。
洞窟の前。
風鈴が鳴る。
ちりん。
ギデオンが言う。
「また風、変わった。」
あなたは笑う。
ガヴィアは地面を触る。
「……積もってる…」
何がかは、
誰も聞かない。
遠くで水が流れる。
まりもは水槽の中で、ゆっくり転がる。
凧は洞窟の壁に立てかけてある。
少し破れたまま。
みかんの木は、
まだ小さい。
でも、
去年より少し高い。
ギデオンが空を見る。
「終わりってさ。」
少し間。
「続くことかもしれない。」
ガヴィアが小さく言う。
「……沈む……」
風が吹く。
ちりん。
風鈴が鳴る。
洞窟の中には、
今日も静かな音が残っている。
物語は終わる。
でも。
時間は、
まだ積もっている。
「 」
どこかで音がした気がする。