こんにちは
小石1個目
あなたは洞窟に入る。
こつ。
こつ。
石の音。
ギデオンがいる。
「……来たんだ」
前より、少しだけ自然な声。
あなたはうなずく。
沈黙。
少しして、あなたは袋を置く。
中から、釣り道具を取り出す。
竿。糸。餌。
ギデオンがそれを見る。
「……釣り?」
少し首をかしげる。
「するの?」
あなたはうなずく。
少し間。
ギデオンは洞窟の入口の方を見る。
外は、明るい。
ほんの少しだけ目を細める。
「……明るいの、ちょっと苦手だけど」
少し考える。
「木陰がある場所なら、大丈夫」
池。
木に囲まれて、光がやわらかく落ちている。
水面は静かで、風もあまりない。
ギデオンは木陰に座る。
少しだけ安心した顔。
「ここなら……平気」
あなたは竿を出す。
糸を伸ばす。
餌を、糸に巻きつける。
針はつけない。
巻きつけるだけ。
ギデオンがそれを見る。
「……それでいいの?」
あなたは少し笑う。
「うん」
糸を垂らす。
水面に、やわらかく触れる。
波紋が広がる。
沈黙。
水の中は見えない。
でも、
なにかがいる気配だけがある。
あなたはぽつりと言う。
「あのさ」
少し間。
「頑張ってもさ」
水面を見る。
「うまくいかないこと、あるよね」
ギデオンは何も言わない。
ただ、聞いている。
「ちゃんとやったつもりでも」
「手順も守って」
「みんなのためって思って」
少し間。
「でも、違うって言われたり」
水面が、少し揺れる。
「なんでだろうね」
沈黙。
そのとき。
水の中で、影が動く。
魚。
糸の近くに、寄ってくる。
触れそうで、
触れない。
「……来るね」
ギデオンが言う。
「でも、捕まらない」
沈黙。
魚は、少し離れて、また戻ってくる。
あなたは糸を少し動かす。
魚も動く。
追いかける。
でも、
途中でやめる。
「うん…」
ギデオンが言う。
「これくらいの距離、ちょうどいいこともある」
水が、少しだけ揺れる。
あなたは何も言わない。
糸を垂らしたまま。
魚は、また戻ってくる。
「捕まえたら」
ギデオンが言う。
「終わっちゃうし」
少し間。
「来なくなるかもしれない」
沈黙。
水の音。
ぽつ。
ぽつ。
あなたは糸を持ったまま、少しだけ座る。
魚は、まだいる。
水面の下で、
見えないまま、
そこにいる。
あなたは小さく言う。
「見えないところでやってることって」
少し間。
「誰にもわからないよね」
ギデオンは水面を見る。
「……うん」
ぽつり。
「でも、なくならないよ」
魚が、また近づく。
糸のそばで、
つつく気配。
ゆっくり動く。
「ちゃんと、そこにある」
沈黙。
風はここまで来ない。
水だけが、ゆっくり動いている。
あなたは糸を少し持ち上げる。
魚は離れる。
糸に餌を巻きつける。
また垂らす。
戻ってくる。
それを、何度か繰り返す。
「ねぇ」
ギデオンが小さく言う。
「無理に近づかなくても」
少し間。
「来るものは、来るよ」
沈黙。
水面が、わずかに揺れる。
さっきと同じ場所に、
さっきと同じように、
魚がいる。
あなたは、糸を垂らしたまま、
もう少しだけそこにいる。