つぶやきギデオン   作:赤銀

7 / 27
カケラ6個目

 

 

雪が溶けきらない草原で、あなたは凧を持ち上げる。

 

骨組みは細い枝。

 

和紙の代わりに、薄い布。

 

ギデオンは糸を巻いた木枠を持っている。

 

「どっちが遠くまで飛ぶかな。」

 

あなたが言う。

 

ギデオンは少しだけ目を細める。

 

「風、読む。」

 

先にあなたの凧を上げる。

 

風を待つ。

 

ふわ。

 

持ち上がる。

 

少し揺れて、落ちかけて、また上がる。

 

糸が伸びる。

 

ギデオンも凧を放つ。

 

こちらはすっと上がる。

 

少し安定している。

 

「ずるい。」

 

「風。」

 

空に二つ、小さな影。

 

どちらが高いか比べる。

 

糸が伸びる。

 

もっと。

 

もっと。

 

そのとき。

 

強い風。

 

ぶわっ。

 

凧が大きく揺れる。

 

糸が震える。

 

あなたが叫ぶ。

 

「あっ。」

 

ぷつん。

 

音は小さい。

 

糸が切れる。

 

凧は一瞬、自由になる。

 

落ちると思った。

 

でも、落ちない。

 

風に乗って、すっと遠くへ流れていく。

 

手を伸ばしても届かない。

 

ただ、浮いている。

 

「……飛んでる。」

 

ギデオンが言う。

 

あなたは少し悔しい顔をする。

 

「切れちゃったのに。」

 

「でも、飛んでる。」

 

凧は小さくなっていく。

 

やがて点のようになり、見えなくなる。

 

沈黙。

 

「いつか落ちるよね。」

 

「うん。」

 

「でも、遠くを旅する。」

 

ギデオンはそう言う。

 

あなたは少しうなずく。

 

失った。

 

でも、奪われたわけじゃない。

 

飛んでいった。

 

夜になる。

 

翌朝。

 

洞窟の前に、何か落ちている。

 

鳥が、つんつんと啄んでいる。

 

あなたが近づく。

 

「あ。」

 

凧だ。

 

布の端が少し破れている。

 

でも、戻ってきた。

 

ギデオンが拾い上げる。

 

「あれ。」

 

布に、見覚えのない羽根が挟まっている。

 

小さな種が、糸に絡まっている。

 

どこかで引っかかったのか、少し色がついている。

 

あなたが笑う。

 

「デコられてる。」

 

ギデオンは凧を見つめる。

 

「遠くを、見てきた。」

 

「……帰ってきた。」

 

あなたは凧を持ち上げる。

 

少し傷ついている。

 

でも、前より少し賑やか。

 

「飛ばさなきゃ、こうならなかったね。」

 

ギデオンはうなずく。

 

「切れなきゃ、帰らなかった。」

 

風が、やわらかく吹く。

 

二人はしばらく、何も言わずに凧を見ていた。

 

布の擦れた跡や、糸のほつれを指でなぞる。

 

昨日まではまっさらだったはずなのに、

 

今は小さな傷や、知らない色がついている。

 

風に揺れた時間や、

 

どこかの枝に引っかかった瞬間が、

 

ちゃんとそこに残っているみたいだった。

 

あなたは凧を見上げる。

 

「失うのって、全部なくなることじゃないのかもね。」

 

ギデオンは少し考えてから言う。

 

「戻るとき、変わってる。」

 

あなたは凧を抱える。

 

昨日より、少しだけ好きになる。

 

遠くを旅した痕跡ごと

 

 

完結したら同人誌にしようか迷ってる

  • 本で持ちたい
  • 電子書籍がいい
  • ここだけで十分
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。