つぶやきギデオン   作:赤銀

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カケラ7個目

 

 

冬の空気は、透明で、少し硬い。

 

洞窟の外、白い息がゆっくり溶けていく。

 

ギデオンは石の上に座っている。

 

片手のひらに、みかんをひとつ乗せて。

 

じっと見つめている。

 

あなたが近づく。

 

「何してるの?」

 

ギデオンはみかんを見たまま言う。

 

「……どうしたいか、訊いてる。」

 

「みかんに?」

 

うなずく。

 

「食べてもらいたいんじゃない?」

 

あなたは笑いながら答える。

 

ギデオンは少し首を傾げる。

 

「そうなのかな。」

 

「でも、置いておいても腐っちゃうよ。」

 

少し間。

 

ギデオンはみかんを両手で持つ。

 

「わかった。」

 

その場で、皮をむく。

 

ぱり、と小さな音。

 

柑橘の匂いが、冷たい空気に広がる。

 

一房ずつ、丁寧に口へ運ぶ。

 

瑞々しい香りが吹き抜けていく。

 

「……あまい。」

 

最後のひと房に、小さな種が入っている。

 

かち、と歯に当たる。

 

ぽとり。

 

白い地面に落ちる。

 

あなたは言う。

 

「捨てる?」

 

ギデオンは少し考える。

 

それから、むいた皮を見つめる。

 

「これは、持って帰る。」

 

「なんで?」

 

「……記念。」

 

種はそのまま。

 

雪の上に、小さく沈む。

 

やがて冬はゆるむ。

 

雪が溶け、地面が顔を出す。

 

冷たい風が、少し柔らかくなる。

 

凍っていた土は、ゆっくりと息を吹き返す。

 

昼の光が少しだけ長くなり、影はやわらかく伸びる。

 

水は細い糸のように流れ出し、雪の名残を抱えたまま土へ染みていく。

 

見えなかった時間が、何も言わずに積み重なっていく。

 

地面はまだ冷たい。

 

それでも、奥のほうで、なにかがほどけはじめている。

 

 

 

 

 

ー春。

 

洞窟の外で、ギデオンがあなたを呼ぶ。

 

「ねえ。」

 

しゃがみ込んでいる。

 

あなたも隣にしゃがむ。

 

小さな緑。

 

細い芽が、地面から顔を出している。

 

まだ頼りないのに、まっすぐ空を探している。

 

その根元に、見覚えのある場所。

 

「あ。」

 

あなたが言う。

 

「当たってた。」

 

「何が?」

 

ギデオンは芽を見つめたまま。

 

あなたは微笑む。

 

「食べてほしかったって。」

 

沈黙。

 

ギデオンは少し考える。

 

それから、静かに言う。

 

「……ちがうかも。」

 

「え?」

 

「食べられたかったわけじゃない」

 

風が、芽を揺らす。

 

その芽はひと冬を越えたとは思えないほど、小さかった。

 

「ここまで、来たかった。」

 

あなたは芽をそっと見つめる。

 

冬のあいだ、見えなかった時間。

 

腐らなかったもの。

 

残っていた種。

 

ギデオンは言う。

 

「なくなったと思っても。」

 

少し間。

 

「形、変わるだけかも。」

 

春の光が、芽を照らす。

 

みかんの皮は、洞窟の中で乾いている。

 

甘い匂いは消えたけれど、

 

あの日の冬は、ちゃんと残っている。

 

完結したら同人誌にしようか迷ってる

  • 本で持ちたい
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