《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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夜と懺悔と女の涙

 そしてオレたちは宿に集合した。

 晩飯を食うにもまだ早い時間帯だが、オレたちはこれくらいの時間に話をすることが多い。話題はそれこそなんでもあって、時には魔族の動きに関する情報だったり、他愛無い世間話だったりもする。

 

 誰かがそうしようと言い始めたわけでもなく、自然とそうなっていた勇者パーティーの習慣。

 今日の買い物なんかの話していると、シドニスが武器屋でオレに合いそうな槍を見つけてくれたらしい。明日はそれを見に行くことにした。

 

 そのあとは特になにもなく時間は過ぎていき、月の明かりが影を作り出す夜。

 オレとリーナは同じ部屋にいる。

 

「いやなんでだよ」

 思わずオレもツッコミを入れてしまう。昨日は普通にあいつらと一緒に寝ていたのだが。

 

「なんでも何も、冷静に考えたら今のミリア君を男性陣と同じ部屋にするわけにはいかないでしょ? かと言ってシド君たちと私とミリア君で分けて部屋を借りたら流石に高くつくし、これもお金の節約よ」

 

「つーかお前はオレと一緒の部屋でいいのかよ。今は女っつってもオレも男のはずなんだが」

「というかミリア君が男性陣の中で一番安全よ。今まで女性に興味持ったことないって言ってたし、それが事実なのはこれまでの旅でわかってるから」

 

 いやオレの場合は女にかまけてる暇がねえくらい、強くなることに執着していただけなんだが、それをコイツに言ったところで通じはしないか。

 

 生まれた瞬間から天才のリーナには、強くなりたいと思う凡人の気持ちは伝わらない。

 

「いやそうじゃなくて……まあそこも重要っちゃ重要だが、オレと同室なのはあいつに妙な勘繰りされるんじゃねえか? リーナも二人組で泊まるってんなら、シドニスと同じ部屋のが良かったんじゃねえかと思ってよ」

 

「そ、そんなことできないわよ!」

「んあー悪かった。これ以上は言わねえよ。人の恋路に踏み入る奴はグラゴモスに食われて死んじまえって言うしな」

 

「そ、そうよ。まあこの話はこれくらいにして、そろそろ寝ましょうか」

「オッケー。オレも疲れたしな」

 主にリーナとの買い物のせいで、というのは口に出さないでおく。

 

 灯火の魔法が込められたあかりを消して、オレたちはベッドの中に入る。

 なんだか寝られない。

 

 リーナの隣だからか? いや、あの筋肉バカのいびきがないからかもしれない。

 

 あいつのいびきはまあそれなりに小さい音なのだが、オレたちは幼馴染で親友だ。あいつと一緒に寝ることは数え切れないほどにある。

 

 寝床に入れば即寝息が聞こえてくるくらいに寝付きのいいガラド。

 あいつのいびきは何故だかリズムが一定で、オレはいつもそれを聴きながら寝ていた。

 

 言うなればオレはあいつのいびきを入眠のルーティーンに組み込んでいたのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、横から声が聞こえてくる。

「ねえミリア君、まだ起きてる?」

 

「どうした?」

「もし眠れないなら、ちょっとおしゃべりしない? 私こういうこと初めてだから楽しくて」

 

 そういえばオレたちが同じ部屋で寝ている時、リーナはいつも一人だったな。

 もしかすると、三人で寝るオレたちを羨ましく思っていた部分もあるのかもしれない。

 

 ならばここで話をすることぐらいしてあげなきゃ、流石に可哀想ってもんだ。

「ああいいぜ。つってもオレにはなんの話題もねえけどな」

 

「そっか……じゃあ面白い話じゃないんだけど、してもいい?」

「おう。なんでも話してくれ」

 

「その……昨日のことなんだけど、ミリア君を追い出したことを謝っておきたくて……本当にごめんね?」

 

「なんだ、そんなことかよ。気にすんな、あの時のオレがお前らの足を引っ張ってたのは、紛れもねえ事実だ。きっと逆の立場だったらオレもお前らと同じ決断をしただろうよ」

 

 本当にそんなことか、と思ってしまった。

 

 追放出戻り事件に関しては、オレ自身そこまで気にもとめていなかったから、何がそこまでリーナの心に引っかかっているのかわからない。

 

 するとオレの言葉に、リーナが首を振る。

 

「ううん。謝りたいのはそこじゃないの。私は……その……どっち付かずなまま、何も言わないまま状況を眺めてただけだったから、それを謝りたかったの」

 

「んー、どういうことだ?」

「その、これはミリア君は知らないだろうけど、シド君はこれ以上ミリア君を戦場に連れて行くのは反対だって、実力の伴わない人を戦いの場に連れて行くことは、殺すことと同じだって言ってたの」

 

 それはオレが少し盗み聞きしてしまったあいつらの会話についてのことだった。

 自分が知るべきではないことを知っていたことに、今更ながら少しの罪悪感を覚えつつオレは相槌を打つ。

 

「そ、そうだったのか」

 

「うん。でね? ガラドはもっとミリア君と一緒に旅がしたいって言って、シド君にかみついたの。当然だよね、子どもの頃からずっと一緒にいた友達を追い出す話をしたら誰だって怒っちゃうよ」

 

 リーナの独白は続く。

 

「最終的にはシド君がガラドを説得して、ミリア君を追い出すのはリーダーの僕がやるって言って、大体の話し合いは終わったんだけどね?」

 

 そこまで言うと、何故だかリーナの声が震えてきた。

 

「それでね? わたしだけなにも言わなかったの……シド君の言ってることも、ガラドの怒りも、どっちもミリア君を大切に思ってるから出てくるの。なのにわたしだけ……」

 

「なあ……リーナ? つれえなら無理に言わなくても……」

「……ぐすっ。ううん、言わせて? 言わなきゃいけないと思うから……」

 

 鼻水をすする音がする。

 今が真っ暗でよかった。女の涙との向き合い方が、オレにはわからないから。

 

「それで、結局シド君がミリア君を追い出すってことになっても、最後まで私は賛成も反対もしないで、しょうがないことだって考えて黙ってたの……」

 

 震えた声が鼓膜を叩く。

 リーナの言葉はまるで罪の告白、懺悔(ざんげ)だった。

 

「なのに、ずっと黙ってたくせに、ミリア君が戻ってきてくれた時に……ああ、よかった……って思ったの。シド君とガラドが言い合う時も、シド君がミリア君を追い出すって時も、ずっとそれを眺めていただけのくせに……」

 

 声に怒りが混じる。それは言うまでもなく自分自身へと向けた感情だ。

 

「ミリア君の話をしている間……ずっと私は傍観者(ぼうかんしゃ)だったのに、ミリア君が帰ってきたら当事者のふりをして喜んじゃったの。仲間を追い出す苦痛も知らないくせに、親友が出て行くのを見過ごすしかない悲しみも知らないくせに……」

 

 後悔と懺悔と、怒りと苦しみ。

 いろんな感情がないまぜになって、あの事件がリーナの心を縛り付けていた。

 

「ごめんなさい……ミリア君……わたしだけ、シド君もガラドも……ミリア君を大切に思って意見を出してたのに、わたしだけは何も言わないで、そのくせミリア君が戻ってきてくれたことを無責任に喜んじゃって……ごめん、なさい……」

 

 泣きじゃくるリーナに、オレは何をしてあげられるだろうか。

 

「本当は私も何か言わなきゃいけないのに……何もしてないくせに結果だけ喜んで……シド君はしっかり謝ったし、ガラドはミリア君が帰ってきたのを誰よりも喜んでて、本当に……わたしだけ……なにも……!」

 

 後悔の言葉は、自分へと向けた刃。

 自傷行為にほど近いそれは、リーナの涙を加速させる。

 

 何かしてあげたいとは思うんだが、昔から友人は男だらけだったし、女性との向き合い方がわからない。深く関わった女性なんてリーナと母ちゃん……くらいか。

 

 そこまで考えて、オレはベッドから起き上がり、リーナのベッドに近付く。

 

「なあリーナ。ちょっと起きてるくれるか?」

「……うん」

 

 オレの言葉を素直に聞いて、リーナは上体を起こしてオレの方を見る。

 ここまで近くにくれば、リーナの顔が見える。いや、目が暗闇に慣れただけかもしれないが。

 

 リーナの顔は今までに見たことがないほど、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。

 自分だけ何もしなかったとか言いながら、オレのことを考えてここまで泣いてくれるじゃねえか。

 

 胸に温かなものを感じながら、オレは昔母ちゃんにしてもらったことを再現してみた。

 いわゆる、ハグだ。

 

「……うぇ?」

 

 そしてオレは、かつてないほどに思考回路を高速回転させて、言葉を捻り出す。

 

「なあリーナ。お前はオレに何もしてねえっつってるけどよ。今こうしてオレにために泣いてくれてるじゃねえか。シドニスとガラドのどっちにも賛成しなかったのも、リーナが優しいからじゃねえのか?」

 

 オレはリーナの顔を見てしまわないようにと考えて、女になって局所的に大きくなったオレの胸にリーナの顔をうずめる。

 こればっかりは女になったことを有り難く思おう。

「……優しくなんか、ないよ……」

 

 リーナがしゃべる度に胸がもぞもぞするが、まあそんなことは些細なもんだ。

 

「いいや優しいぜ。だってよ、どっちかに賛成すればどっちかに反対することになるだろ? リーナはきっとどっちの言い分もわかるから……あいつらを否定したくないから、何も言えなかっただけなんじゃねえのか?」

 

「そんなことない……わよ」

「まあオレはリーナのことを全部理解してやれねえけどよ? 少なくともオレは今、オレのことでこんなに涙を流してるリーナに感謝してるんだぜ?」

 

「え?」

「だってそうだろ? さっきのこと全部黙ったまんまで、この先ずっと話さなけりゃ楽だったはずなのによ。なのにリーナは全部話してくれただろ? リーナがずっと目を逸らしてても誰も気付かないことを、こうして面と向かって言ってくれたんだ」

 

 オレの胸の中で、リーナはこちらを見上げる。

 キョトンとした顔には、少しの困惑が見られた。涙も今は止まっている。

 

「今のお前は、すげえ格好いいと思うぜ」

 そしてリーナを元気づけたくて出たその言葉で、リーナは滝のように涙を流し始める。

 

「うおお!?」

 なんでだ!? 結構元気づけられたと思ったんだがな!?

 

「うああああああん!! ミリアくううううん!!」

 泣き叫ぶその姿は、まるで赤ん坊にも見えて。

 

「……っく、ふはは。泣きすぎだろ? ったくよ」

 思わずオレも笑ってしまった。

 

 そのあとリーナが泣き止んで、いや泣き疲れて眠るまでオレは解放されることはなかった。

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