《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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夜と勇者とニュアンスと

 オレは泣き疲れて眠ったリーナをベッドに横たわらせ、顔を確認してみる。

 

 涙を流したせいで目元は赤く少し腫れているかもしれないが、寝息は穏やかで、なんとも満足げな表情にも見える。

 

 この顔を見る限り、どうやらオレの言葉はそこまで間違ったものじゃあなかったようだ。

 

「まったく……これじゃほんとに赤ん坊だぜ」

 こんなリーナは本気で初めて見た。

 元からオレたちの中では一番感受性が強く、よく他者に共感するタイプで、おまけに女らしく繊細な部分がある奴だったのは知っている。

 

 だが、仲間を一人追い出すというだけでここまで後悔するほど優しいとは知らなかった。

 いや優しい奴だということはわかっていたが、これほどオレに対して友情を抱いてくれてるとは思っていなかった……という方が正しいか。

 

 希望(ホープ)を持って生まれ、環境に恵まれた才媛(さいえん)としてのリーナを見ることが多かった弊害なのかもしれない。

 

 ただでさえオレたちの中で唯一の女だったんだ。

 これからはこいつにももう少し気を遣ってやらねえとな。

 

 なんてったって今のオレには余裕がある。

 いつだって仲間に置いてかれねえように必死こいて強くなろうとしてたオレはもういねえ。

 

 周りが見えるようになったオレは、もっとパーティーの役に立てる。

 こういう形で仲間の負担を少しでも解消できるんなら、それも悪くはねえな。

 

 そう思いながらオレは物音を立てないように服を脱いで着替える。

 なぜなら胸元に水の魔法を食らっちまって冷たいから。

 

 着替えが終わるとさっきまで感じていた眠気が無くなって、かといって何かすることがあるわけもなくベッドの中で睡魔の到来を待っていると、扉の方から控えめな声が聞こえる。

「……二人とも? 起きてるかい?」

 

 この声はシドニスか。オレはそっと立ち上がり、扉に近づいて返事をする。

 

「リーナは寝てるぞ? どうした?」

「ミリアだけかい? じゃあよかった。少し話せるかい?」

 オレはこんな時間にどうしたんだと思いながら、シドニスとガラドの部屋に移動した。

 

 そして今は男性陣の部屋。ガラドはその寝付きの良さを充分に発揮して、規則的ないびきを奏でている。

 

「んで、どうしたんだ? お前がこんな時間にオレを誘うなんて」

「ちょっと聞きたいことがあってさ、さっきの泣き声のことなんだけど……」

 

 オレはその言葉で頬をぽりぽりと搔く。

「あー、それのことか……」

 まああれだけ大きな声で泣き続けりゃ隣の部屋に聞こえもするか。

 

「もしよかったら、何があったのか話してくれないかい?」

 あれほど泣き叫ぶリーナは初めてで、その様子をシドニスに伝えてもいいのか。

 

 そう思わなくもなかったが、シドニスの真剣そうな顔に負けてオレはさっきのことを話した。

 

 

「……そうか。そのあとリーナはどうしたんだい?」

「ああ、泣き疲れて眠っちまったよ。満足そうな顔して寝てたから、たぶんだがしっかり解決したと思うぜ」

 

 オレがそう伝えるとシドニスも安心したように息を吐く。

「そうか、それならよかったよ」

 

「まあこれでもし明日も落ち込んでたら、そんときゃシドニスに頼るとするかな」

「大丈夫だと思うけどね。あ、そうだ」

 

「どうした?」

「これも言っておこうと思って。もしミリアが良ければなんだけど、これからもリーナのことを頼んでもいいかい?」

 

 思い出したように意味のわからないことを言うシドニスにオレは突っかかる。

「はあ? あいつのフォローはお前がしろよ。そっちのがリーナも嬉しいだろうしよ」

 

「まあ落ち着いてくれ。ちゃんと理由があるんだ。実はリーナは昔から姉が欲しかったと言っていたし、これまではパーティー内でたった一人の女性だったけど、今はミリアがいるだろう?」

 

「そりゃたしかにそうだが、オレが女の気持ちに寄り添うような奴に見えるか?」

 何を言っているんだこいつは。オレはそんな気持ちを隠さずにシドニスに言葉を投げかける。

 

「うん見えるよ。現にさっきリーナを慰めてくれたじゃないか」

「そりゃたまたまだろ。毎度今日みたいに上手く相手できる自信なんざねえぞオレは」

 

 こうなるとシドニスは強情だ。意思の固いことを示すように、オレの目を真っ直ぐに見据えてくる。

 

「いいや、君はいつも自分のことを過小評価しがちだけど、それは間違いだ。君はかなり器用な方だよ、僕とは違って」

 

 戦闘に於いて誰からも頼りにされているシドニスにそう言われるのは、まあ悪い気はしない。

 

「現状彼女にとって同性の仲間は君だけなんだ。だからこそ気兼ねなく話ができるだろうから、リーナと仲良くしてあげてほしい」

 

 そこまで聞いてオレは(ん?)と首を傾げる。

 もしかするとこいつの言い分はオレの想像とは違うのかもしれない。確かめてみるか。

 

「なあちょっといいか? リーナを頼むってのはよ、あいつになんかあったらオレが助けてやってくれって意味か?」

「いいや? ただ単純にあの子と仲良くしてあげてってことだけど……」

 

 その瞬間、オレは大きなため息を吐く。

「はぁーーーー……なあシドニス? リーナを頼むって言われたらよ。あいつが今日みたいに落ち込んだり傷ついた時は、真っ先に助けてやってくれって意味にならねえか?」

 

「え? ……ああ、たしかにそう伝わるね」

「お前はほんと……口下手っつうか、ちょっとニュアンスがずれてんだよな。まあいいや。そういうことなら問題はねえよ」

 

 実を言えばこいつの言い分もわからなくはない。リーナを頼むと言われれば、たしかにその言葉の中には「リーナと仲良くなってくれ」という意味も含まれるだろう。

 

 だがオレはついさっきリーナが弱って泣いているところを見たのだ。そしてそれを慰めもした。

 

 それを踏まえてこのタイミングで言われたら当然「今日のように弱っていたら、その時はリーナを助けてくれ」という意味合いにしか聞こえないだろう。

 

 思い返せば、シドニスはこういったことが多かった気がする。

 

 相手を不快にさせることはそうそうないが、話の中でちょっとしたすれ違いを生じさせたり、細かな表現のズレで勘違いされることもあった。

 

 戦っている時は誰よりも頼りになる男だが、こう、なんというか……少し天然な部分がある。

 

 そのくせ仲間のためであれば気遣いができたりする。それこそオレの時のように、自分を悪者にすることも厭わず、相手に責任を感じさせないように気を配ることだってできる。

 

 真面目で優しい人柄のくせに、どことなく掴めない部分も持っている。

 それがシドニスという男の特徴なのだ。

 

「そうかい? ありがとう、恩に着るよ」

「おう、んじゃオレはもうそろそろ寝るぜ」

 

 そう言ってオレは部屋に戻り、リーナのすやすやという穏やかな寝息を聞きながら、眠りについた。

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