《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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終戦を

「ハァ……ハァ……!」

 

 一般兵の言葉を聞いたオレは一も二もなく走り出す。傷だらけの体に魔力を纏い、闘気術を使って無理やり足を動かした。

 

 魔力はまだ余裕があるが、ついさっき体力が限界を迎えてぶっ倒れたばかり。とても全速力を出せる状態じゃない。

 それを証明するように体はあちこち悲鳴を上げる。

 

 だがオレは足を止めない。止めちゃいけない。

 

(嘘だ…‥嘘だ嘘だろおい! アイツがまさか……)

 

 さっきの状況から考えて、四天王ナーグは前線に合流しなかったはずだ。つまり倒されているはずなんだ。

 

 アイツは絶対に勝つって約束を守った。誓いを果たしたんだ。

 でも、前線に戻ってきてないってことは……まさか、

 

(相打ち……!?)

 

 最悪の結末が頭をよぎる。さっきから嫌な汗が止まってくれない。

 ウェービスの火焔槍に焼かれた皮膚が、その熱さを思い出したかのように、オレの服を汗で濡らしてゆく。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! ガラド……ガラド兄ちゃん!)

 いつだってカッコ良くて、いつだって頼りになる、オレにとっての最強(あこがれ)

 あんな男になりたくて、喋り方まで真似してた。

 

 あの人を追いかけることが、あの人と肩を並べられるくらい強くなることが、ボク(オレ)の目標なのに……。

 

「ハァ……ハァ……」

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。考えがまとまらない。

 最悪の想定がこびりついて離れてくれない。もうどれくらい走っているのかすら、正確に把握できていなかった。

 

 そうして走っていると、ようやくガラドとナーグが戦っていた場所に辿り着く。

 開けた戦場だ。周りを見渡す必要もない。視界に飛び込んできたのは、地面に倒れ込むナーグの姿と……

 

 

 ……同じく地面に転がるガラドの姿だった。

 

 

「……あぁぁ、ぁぁぁああああああ!!」

 どこか遠くから、女の悲鳴が聞こえてきた。それはどうやらオレの口から出ているようで、涙が視界を歪ませる。

 

 足に力が入らない。と認識した途端(とたん)に膝が地面についてしまう。体力の限界だろうか。

 いや、分かってる。そうじゃない。

 

 これは精神の限界だ。

 嗚咽が漏れ出て止まらない。涙が溢れて(こぼ)れ落ちる。

 

 最悪を想定しながら、まだ確認していない以上、ガラドが生きているかもしれないと思い込んでいた。

 

『いやーミスったぜ! 魔力を使いすぎて身動き一つ取れねえんだなこれが!』

 なんて言いながら笑いかけてくれると、心のどこかで期待していた。

 

 けれどそれは所詮(しょせん)、幻想にすぎなくて。ガラドとナーグは相打ちになり、一切動かない。

 遠目に見てもわかるだろう。ガラドの体は逆袈裟に切り裂かれ、胴体は血塗(ちまみ)れで……

 

 そこまで注視してある違和感を感じる。

 涙で滲んでわからない。肉眼でわからないのなら、魔力視認だ。

 

 すると見えてくる。違和感の正体。

 わずかに、蝋燭(ろうそく)の灯火に似た、か細い魔力が、まだガラドの体に宿っている様子が。

 

「生き……てる……」

 言葉にすることで遅まきながらその事実を理解した。

 

 ならばまだ助けられるかもしれない。オレは涙に塗れた自分の顔を乱暴に拭って、力の入らない足を引きずりながらガラドに近づく。

 

(ああ……! クソ、速く…‥動け……!)

 なんとか這いずって彼の元まで行くと、小さな、それこそ風に消え入るような呼吸音が耳に届いた。

 

 やっぱりそうだ、見間違いなんかじゃない。まだ生きている。

 

 歓喜に咽び泣こうとする衝動を抑え、すぐさまオレは治癒魔法を発動した。

 

 オレの体力はもう限界だ。いつまた気を失うかわからない。

 ならばこの残った魔力を全部使って治癒魔法の効果を限界まで引き上げる。

 

 図式魔法は、大きく描けば規模を広げることができ、魔力を多く注いで濃い魔力線で描けば効果を上昇させる。

 

 治癒魔法の段階は上中下の三種類。オレは迷いなく上級治癒魔法の図を描き出す。

 瞬きの間に完成した治癒の魔法図が淡く光り、ガラドを優しく照らす。

 

 効果のほどを確かめようとした刹那、オレの体が糸の切れた人形のように地面に倒れ込む。

 

 体力の消耗に追い打ちをかけるような魔力消費。

 それが最後のダメ押しになり、意識がオレを見放すように、肉体から精神体が分離していく感覚がする。

 

(クソ…‥どうだ……間に……あった、のか?)

 閉じる瞼に抗えず、オレは意思に反して意識を手放した。

 そして遠のく意識の中、最後に聞こえたのは、誰かの足音だった。

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