《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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鷹は空へ

「それではまず説明をさせていただきます。その後、内容を聞いた上で了承していただけたらこちらにサインを……って氷鷹(ひだか)先生!?」

 

 レミオが丁寧に話を進めていると、言葉を遮る者が現れた。

 

「助手くーん、急いでるって言ったっすよね〜? 真面目なのは君の長所っすけど、間怠(まだる)っこしいのは今はナシっすよ〜?」

 横からレミオに抱きつきながら、彼の持っていた契約書を掻っ攫う氷鷹(ひだか)

 

「彼女にとって今、重要なのは……ウチの発明を信じてくれるなら、最速で雪の里に連れていけるぞってことだけっす。どうすか?」

 前半はレミオに、後半はオレに向けて発言する発明家。

 

 語尾に疑問符を付けてはいるものの、その目は疑いの余地がないほど自信に満ちていた。

 

「ウチの目で見て、忘却って文字が出てきたのは初めてっすけど……直感で言わせてもらうなら、たぶんなるはやで対処すべきっす。あなたも同じ意見っすよね」

 

「ああそうだ。つーわけで、オレらをすぐに雪の里まで連れてってくれ」

 己の頭脳と発明品に絶対の自信を持つ彼女から、契約書を受け取り名前を書く。

 

「はい承ったっすよ。それじゃあ早速、ウチの発明であなたたちを運んであげますよ! 助手くん! 準備開始っす!」

「はい!」

 

 レミオが威勢よく応じると、氷鷹(ひだか)が部屋の反対側へと走り出す。

 離れてゆく氷鷹(ひだか)を横目に、レミオがオレたちに話しかけてきた。

 

「それではお二人とも、部屋の中央にある台座の上へ移動してください」

「おう」「ああ」

 

 レミオの指示に従って、オレとガラドは円形台座の上に乗った。

 それを見届けてから、再度少年が声をかけてくる。

 

「台座の上で、できるだけ近づいて座ってください。はいそれで大丈夫です。そのまま動かないでくださ……」

 

「おおおおーーー!!??」

 レミオが話しながら手元の魔道具を操作していると、台座をはさんで反対側にいる氷鷹(ひだか)が突然大声をあげた。

 

「どうしました!? 氷鷹(ひだか)先生!」

「どうしたもこうしたもないっすよ! 素晴らしい魔力量っす! さっき見たとはいえ、これだけの魔力があれば、雪の里どころかこの国のどこにだって行き放題っす!」

 

 興奮した様子で捲し立てる氷鷹(ひだか)に「もう……驚かせないでください」と悪態をついてからレミオが説明を再開する。

 

「それではお二人とも、動かず……その円盤から出ないようにしてください。氷鷹(ひだか)先生、こっちは準備できました。いつでも行けます!」

 レミオが魔道具の調整を終えた旨を氷鷹(ひだか)に伝え、オレたちは身構える。

 

 

「よーし…それじゃあ、安心安全最速最短! 飛ぶ鳥ぶち抜く()()()()で、雪の里までご案内!! 『ヒダカ・ネオ』起動っす! あポチッとな」

 

 

 発明家の小気味良い音頭を聴き終えると、オレたちの座っている台座の円盤部分がゴゴゴ……と音を立てて上昇する。

 

 開幕から氷鷹(ひだか)のハイテンションやら、謎の目の能力やらで脳みそを占拠されていたオレは、遅まきながら全てを理解した。

 

 あまりにも大きい大砲……もしもダボライが陥落した時の手段……この建物自体が発明品……そして、飛ぶ鳥をぶち抜く、鷹の旅路。

 

 全ての点が繋がり、一つの答えを導き出す。

 

「ま、まさか……」

 口にした言葉を飲み込んだ瞬間、頭上を見上げると……天井が内側に開き、陽光が差し込んできた。天井に乗っかっていたのは、あの見たことのない大きさの大砲。

 

 つまりあれは天井じゃない。巨大な大砲の砲尾だ。

 オレたちはさしずめ……いや、比喩じゃなくそのままの意味で砲弾ということか。

 

 ガコンッと砲尾が閉まり、オレたちを大砲の中に閉じ込めると、念話の魔法によって円盤から氷鷹(ひだか)の声が響き渡る。

 

 

『防護結界、展開完了。風無きの魔法、付与完了。砲身角度……発射術式……オールグリーン。それじゃあお客様、空飛ぶ覚悟はいいっすかー!?』

 

 

 空を飛ぶ。明確に言葉にされたその瞬間、オレは血の気が引いてゆく感覚を覚えた。

「待て待て待て待て、おいおいマジかよ……クソ、ちゃんとレミオの説明聞いとくんだった!」

 

「ど、どうした? ミリア?」

 オレが焦りだすと、ガラドが不思議そうな顔でオレを見つめる。

 

 ああそうかコイツは今、記憶を無くしている。

 覚えてないんだ、レテンによる勇者パーティ分断作戦のことを。

 

 結果としてはどうにか免れたとはいえ……落下死する寸前だったことを忘れているんだ。

 

 あの時はなんとか強がっていられたが、オレはあれのせいで、はるか上空からの景色が、落下死を想起させる高度が……すっかり苦手になっていたんだ。

 

「あー! 聞こえるか氷鷹(ひだか)!? 言ってなかったオレも悪いけど、実はオレ高いとこ苦手なんだ!」

 

『3! 2! 1!』

 

 しかしこちらからの声は聞こえていないらしい。ならば念話の魔法で、とも一瞬考えたが間に合うわけもない。

 氷鷹(ひだか)はそんなオレの心境など知る由もなく、元気な声でカウントダウンを終えてしまった。

 

(クソ! こうなりゃ恥も外聞もあるもんか!)

「悪いガラド!」

 

 オレはすぐ横に座っているガラドの胸にダイブし、両腕を背中に回してがっちりホールドする。そして目は思いっきり瞑っておく。

 どれだけ高所であろうとも、見なければそれを認識し恐怖することもないだろう。

 

『ファイアーー……!!』

 

 

 

 氷鷹(ひだか)の声は、オレの耳からどんどんと遠ざかる。

 いや違うか。念話の魔法が刻まれた円盤から、オレたちが離れているんだ。

 

 つまりもう、オレたちは大砲から発射された後ということ。

 本来、砲弾を撃ち出す発射音は凄まじいが、オレの耳にそんな爆音は聞こえなかった。

 ということは人を飛ばすために音量調節をしているのだろう。

 

 足元の感触は金属製の円盤から、結界内部の独特の触り心地に変わっている。

 高速で移動する時の体に負荷がかかる感覚がない。ここもなんらかの魔法によるものか。

 

 防護結界ごと発射するということは、人をまるっと包み込む大きさの物を撃ち出すということ。

 結界が大きいほど風の影響をモロに受けて、着地点がズレてしまう。それを風の魔法で微調整している可能性も高いか。

 

「あーー……ミ、ミリア?」

 

 ガラドが話しかけてくるが、オレは今それどころではない。

 何か他の事を考えておかないと、自分が空中にいる事を自覚してしまう。

 

 そうなればオレは、最悪の場合しょんべん漏らす事すら有り得るかもしれない。

 ガラドの目の前で、それだけは絶対ゴメンだ。

 

「あーそうか、どこからあんだけ大量の金属を持ってきたのか気になってたが……ダボライで使わなくなった大砲を集めたのか……砲弾は鉄の塊だから鋳直(いなお)して武器にできるが、発射の術式が込められた大砲は魔道具扱いだもんな」

 

「な、なあ?」

 ガラドが再度声をかけてくるが、オレは現状から気を逸らすのに精一杯で反応する余裕はない。

 

「鍛冶屋だと解体費用を払う形になるし、あんだけ外壁が大きけりゃ何門あるのか。鍛冶屋に頼めば、大砲の処理だけで大金が吹き飛ぶもんな……領主様も大砲の処理に困ってたら……なるほど氷鷹(ひだか)はそれで、無料(タダ)同然で材料をもらったって感じか……」

 

「お、おい?」

 オレが必死で気を逸らしているというのに、ガラドが三度目の声かけをしてくるものだから、オレもたまらず大声をあげた。

 

「うるせーー! オレはいま必死で他の事考えてんだ! 雪の里に着いたら教えろ!! それまで絶対に、ぜーーったいに、お前から離れねえからなーー!!」

 

 余裕のないせいでガラドに八つ当たりしてしまったが、こっちもこっちで大変なんだ。

 少しの間、抱きついている事くらい許容してほしいもんだ。

 

 無理やり剥がそうとしたって離れるもんか、とオレはまた両腕に力を入れてガラドに意思表示する。

 すると困惑した様子で、ガラドが返答した。

 

 

「あー、その……()()()()()ぞ?」

 

「……え?」

 

 

 その言葉を脳みそが理解した途端に、オレは周囲に人の気配を感じ取った。

 

 バッと勢いよくガラドから離れて顔を上げると、民家が視界に入ってくる。

 その手前には低い柵が横に繋がっていて、オレたちの目の前にある門で区切られている。

 

 そして門の前には当然のごとく槍を持った男性が立っており、オレたちを見てから咳払いをした。

 

「んっん、その……ようこそ、雪の里へ」

 気まずそうに声をかけるのを躊躇ってから、定型分の歓迎を示してきた。

 

 とても……それこそ筆舌に尽くし難いほどには、恥ずかしい体験だった。

 だがこれだけならまだ我慢はできた。致命傷ではあるが気まずいだけで済んだのだが……

 

 なんともタイミング悪く、門の近くにいた女の子と母親らしき人が、

 

「ねーおかあさんみてー。あの二人ラブラブだね」

「あら本当。離れたくないって抱きつくなんて可愛いわね」

 

 という会話をしたことで、オレの羞恥心は限界を迎えて絶命に至った。

 

「うぐぐ……違うんだぁ……」

 羞恥に耐えかね、どうにか口をついて出たのは、そんな消え入るような言い訳だけだった。

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