《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話 作:タンクトップ桶狭間
「そういや、部屋一緒でいいのか?」
「なんだよガラド、気ぃ遣ってんのか?」
宴会のような時間を終え、オレたちは部屋に戻ってきた。
入るやいなや、ガラドが問いかけてくる。
「いや気遣いっつうか、お前はこれからずっと女でいるつもりなんだろ? 寝床が隣じゃ嫌なんじゃねえかと思ってよ」
「そういうのを気遣いって言うんだよ。気にすんなって、今まで何回一緒に寝てきたと思って……」
オレが言いつつ、ベッドが置かれているスペースに目線を移すと、
そこには、夫婦用の大きなベッドが鎮座していた。
「
オレは叫びとともに部屋を飛び出し、女将さんのいる受付へと駆け込んだ。
「あらー
「どうしたもこうしたもないですよ! ななな、なんですか、あの大きなベッドは!」
勢いをそのままに女将さんの肩をガシッと掴んで問う。
「なにって……若い男女が同じ部屋で寝るなら、そういう関係ってことでしょう?」
まるで当然のことのように聞き返してくる女将さん。
「そういう関係って……ち、違いますよ! オレとあいつは、別にそんなんじゃ……」
否定しようとすると、なぜかその先を言えなくなる。
それを言ってはいけないような気がして、言葉に詰まっていると、女将さんが訳知り顔で頷いた。
「あー……なるほど。わかったわ、じゃあ別の部屋にする?
「いや、そうするとお金がかさむから、一緒の部屋で、ベッド二つにできますか?」
正直なところ、お金は大きな問題じゃない。
オレたち勇者パーティは、王国からかなりの金額を受け取っている。
国の存亡がかかった特別な部隊みたいなものだし、当たり前と言えば当たり前なのだが。
だから部屋を一緒にしたいのはお金の問題じゃない。
先ほど
ガラドの言動をきっかけに湧き出てきた謎の感情。それと向き合うには、同じ部屋である方が都合がいい。
けれどそれを素直に女将さんに言うのは憚られた。
「了解よー、そしたらそうね……二つ隣の部屋がいいかしら。こっちの鍵を持ってって。お友達と移動したら、さっきの部屋の鍵を返しにきてちょうだい」
すると女将さんは、それ以上の詮索はせずに、オレに鍵を渡してくれた。
「おーい、
そうこうしているとガラドが受付まで歩いてくる。
「あらちょうどいいわね。じゃあ前の部屋の鍵はそのまま私にちょうだい。一緒に部屋に忘れ物がないか確認したら、新しい方に移りましょう?」
〜〜〜〜〜〜
「んで、なんで部屋変えたんだ?」
「なんでって……お前は知らなくていいんだよ!」
別の部屋に移り、オレたちはそれぞれベッドに座る。
別に夫婦用のベッドをガラドに隠す意味なんて無いはずなのに、なぜかそれを伝えるのを躊躇ってしまった。
「今日は本当に色々あったから、もうオレは疲れた。ほら寝るぞ」
「おう、そうだな」
とにかく今は、この疲れを明日に持ち越さないように……
「なあ
「なんだよ藪から棒に」
瞼を閉じて眠ろうとした矢先、隣のベッドで座るガラドが話しかけてきた。
「いや、やっぱちゃんと言っておいた方がいいだろ? お前が色々頑張ってくれたから、俺は記憶を取り戻したんだからよ」
「ほー、ならオレに感謝しまくってくれていいぜ?」
珍しく真面目な雰囲気を纏ったガラドの声に、オレは冗談めかして返事をする。
「ああ、俺が記憶をなくして、きっとお前を傷つけただろ? 俺だって、もし大切な誰かに自分のこと忘れられたら、傷つくなんてもんじゃねえだろうし」
するとオレの言葉を真に受けたガラドは、ゆっくりと話し始めた。
「現実の俺も、夢の中でも、何度も知らねえって反応をして、それもお前を傷つけちまっただろうな。ごめん」
真面目な顔でオレを見つめるガラドの姿に触発されて、オレもベッドの上で姿勢を正す。
「き、気にすんなよ。っつーかなんだよ真面目な目しやがって、なんか……」
その目で見られると、どこか居心地が悪くなってくる。
いつもふざけたり笑っていたりするガラドだが、こうして向かい合うと意外に精悍な顔立ちをしているなと思ってしまう。
「そんで、雪の里に行って龍神様に会って、俺のことを助けてくれた。ありがとうな、きっと
感謝しまくってくれていい、とは言ったが、実際にちゃんとお礼をされると、なんだかむず痒く思ってしまう。
じっとオレを見ているガラドの顔を、なぜか見ていられない。
「お前を傷つけて……泣かせちまってごめん、色々頑張ってくれてありがとう」
「なんだよもう……あーくそ、どういたしまして! ほらこれでいいか!?」
真っ直ぐにオレを見つめてくる視線に導かれるように、オレは声を出した。
そして気付く。いつの間にやらオレの鼓動が足を早めていたことを。
心の奥に宿る火が、
ただお礼を言われただけ、そのはずなのに。
まるで戦いに備えている時のように、その火は全身に熱を届ける。
ガラドはただお礼を言ってきただけ。
オレはその感謝を受け取っただけ。
そのはずなのに、燃え広がる熱は勢いをそのままに、オレの顔まで熱くさせた。
「……どうしたんだ
それを自覚すると同時に、オレの鼓膜が音を拾う。
「えっ……あっ……な、なにが?」
言葉に詰まりつつガラドの疑問に聞き返すと、
「いや、ボーッとしてんだろ? なんか考え事か?」
とこちらの顔をうかがってきた。
「べっ、別になにもねえよ! ほら寝るぞ」
その視線に耐えきれず、オレはベッドに寝転がり毛布で顔を覆い隠す。
ガラドに背中を向けるとそうだな、と短い返答とともにガラドが横になる気配を感じ取った。
胸の中に居座る、赤熱する鋼のような気持ちは絶えず燃え盛っているが、眠ってしまえばそれもすぐに消え去るはずだ。