《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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成長

 そして翌日。

 

「はっはっは! 強くなったな、雪月(ゆづき)!」

「負けてから言うもんだぞ、そういうセリフは!」

 

 オレたちはいつものように戦闘訓練をしていた。

 雪の里から少し離れた開けた場所で、オレは氷の棒を振り回している。

 

 ガラドは拳でそれを弾き、わずかな間隙を縫ってオレに蹴りを捩じ込んできた。

 腹部に直撃する寸前、オレは障壁魔法を小さく展開してガラドの蹴りを受け止める。

 

「フッ!」

「オラ!」

 

 同時に振り抜く右拳、正面からかち合いオレの体だけが後方へ押し出される。

(クソ、手が痛え……だが距離ができたなら……)

 

 密着した白兵戦では氷王の両眼(アイス・アイズ)は使いづらい。出来ないわけではないが、ガラドほどの戦士であれば避けるなど容易いだろう。

 

 だがこうして距離が離れれば、オレの視界も広くなる。

 つまり氷王の両眼(アイス・アイズ)を回避するための移動距離も広がるということ。

 

 オレと対象の距離が離れるほど、回避は困難になる。

 そしてオレが音もなく希望(ホープ)を使用すると、ガラドは氷像へと早変わり。

 

 だが全身に虎魄(こはく)を纏うガラドはすぐさま体表の氷を砕いて行動可能だ。

 だから目的は凍らせることじゃなく、一瞬だけ五感を封じること。

 

 ガラドが体を覆う氷を砕くまでの一瞬の猶予、オレは両者の間に横たわる空間を一足で埋め、棒を胸に向けて突き出す。

 

「どわっ!?」

 そして大きな破砕音とともに、ガラドが驚きの声を上げる。

 一瞬視界を封じられて、気が付いたら正面から攻撃を食らっているのだから当たり前の反応だろう。

 

「よっしゃ!」

 そしてようやくガラドに一撃届いたことに、オレは喜びを隠せなかった。

 

「クリーンヒットか、久しぶりって感じがするぞ」

 こちらに目線を合わせつつ、ガラドが嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「オレ史上、最高の白星だぞ……! やっ……ったぜー!!」

 そしてオレは、それを追い越すほどの喜びに包まれる。

 

 ことガラドとの戦闘訓練において、オレは今までまともに勝ったことがない。

 まあそれはリーナやシドニスに対しても言えることだったが、ガラドに関してはその次元が違う。

 

 ガラドは接近戦に限れば最強と言っていい戦士だ。それはシドニスすらも認めるほどの強さ。

 

 追いつくことのできない速度、比べることもできない膂力、戦士として必要な全てを高水準で持ち合わせたガラドに、オレが一撃与えられることなど二、三度ほどしかなかった。

 

 戦闘訓練に際して、リーナやシドニス相手に運良く勝ったことは数回あっても、ガラドに対しては二、三回しかない。

 

 シドニスたちに出会ったのが成人して防衛軍に志願した後、ガラドと特訓してきたのは子どもの頃から。期間の差を鑑みれば、いかにガラドに勝つのが難しいか、想像がつくだろう

 

 至高の域に到達し得る速度、力、体術の練度。それだけでも充分すぎるが、ガラドは獣人族の中でも飛び抜けた危機察知能力を持つ。

 

 嗅覚が受け取る匂い、肌に触れる風の流れ、人並みはずれた動体視力、小さな音も聞き逃さない聴覚。そして本人ですら説明しきれない本能的な部分。

 

 それらが全て合わさって、ガラドの動きをさらに研ぎ澄ませ、最強の戦士たらしめている。

 そんな……オレにとっての憧れであり、強さの象徴みたいなガラドに一撃与えたとなれば、嬉しさもひとしおというわけだ。

 

「やるなぁ雪月(ゆづき)。凍らせるのは一瞬の隙を作るだけじゃなくて、俺の感覚を邪魔するためか」

 

「まあな、氷で全身覆われたら嗅覚、触覚、聴覚も視覚も全部、情報を受け取れなくなるだろ? その一瞬が命取りってわけだ」

 

 実際、ウェービスとの闘いでこれを狙ったタイミングは何度もあった。

 だが魔眼持ちのアイツには氷王の両眼(アイス・アイズ)の発動タイミングを察知されて、全身凍結は不可能だった。

 

 今思えば、クーゴとの決着で氷王の両眼(アイス・アイズ)を見せたのは失敗だったか。それで最大限警戒されてしまったのだろう。

 

 まあこれは相性の問題か。

 オレのような搦手(からめて)を使う戦士じゃなく、ガラドのように直接的な戦闘を好む戦士であれば、もっとウェービスを楽に倒せたかもしれないしな。

 

「いやぁマジで強くなったなぁ」

 思考を巡らせていると、ガラドが嬉しそうにしみじみ呟く。

 

「……んだよそれ。大怪我させないようにってルールが無けりゃ、お前の方が勝ってただろ?」

 

「わかんねえぞ? それに俺が言いてえのは、手足を獣化させた俺に、お前が一発当てたんだぞって事だ。勝ち負け以前にめっちゃ嬉しいぜ俺は」

 

 言葉通り心底嬉しそうに……歯を見せて屈託なく笑う。

 真っ直ぐに褒められてしまい、オレが放った捻くれた言葉さえも受け止めてみせる。

 

 その優しさが、笑顔が、オレを見つめる目が、胸の奥に火をつける。

(まただ……)

 

 心拍数が跳ね上がる。火が燃え広がり全身を熱くさせる。

 だが落ち着かなかった昨日と比べて、今日のオレは余裕があった。

 

 ガラドに触れさえすれば、この気持ちは徐々に勢いを失う。

 なら……

 

 スッ……とオレは右手を上げる。

 誰でもわかるハイタッチの要求だ。それを察したガラドも、同様に腕を動かす。

 

 互いの努力を讃えあう、あるいは単純に友情を確かめるために、幾度となく交わした手。

 パァン! と心地よい音が響き渡り、ガラドが口角を上げてニヤリと歯を見せる。

 

 しかしそんなガラドの表情とは裏腹に、オレは動揺を隠せなかった。

(なんで……ガラドに触ったのに……!?)

 

 昨日寝る前はこれでおさまってくれたのに、オレの胸に宿る炎は一向にその大きさを失わない。

 どころか、昨日よりももっと巨大に膨れ上がっている気さえしてくる。

 

「どうした雪月(ゆづき)?」

 考え込んでいると、ガラドがオレの顔を覗き込んでくる。

 至近距離、顔と顔が向かい合い、その距離感はまるで……

 

「……って近えよ! なんでもねえ!」

 その答えに行き着く前に、オレは後ろに飛び退き距離を取る。

 

 心拍数が収まらない心臓に文句をつけるように、ゆっくりと何度か深呼吸を繰り返してみるが、まるで効果はない。

 接触が有効的な手段でないとは思わない。実際昨日はこれでなんとかなったのだから。

 

(単純に接触時間を増やすか……)

 あるいは接触面積を広げるかの二択、といったところか。

 

 なら、最適な方法が一つ……ないこともない。

「あ、あー……やっぱ動くと汗かいちまうなぁ、風呂入るか……」

 

 思いついたことを試すためにガラドに聞こえる声量で声を出すが、どうにもわざとらしく呟いてしまう。

(クソ…‥もっと自然に言葉が出てこねえのかオレの口は……!)

 

 自身の発声器官に文句をつけつつ、横目でガラドを見ると、

「そうだな、じゃ宿に戻って軽く風呂入るか。先に雪月(ゆづき)が入っていいぞ」

 と背を向けて宿に歩き始める。

 

 しかしそれでは意味がない。一緒に風呂に入れば、なにかと理由をつけてガラドに触れることが容易くなる。

 そのための提案なのだ。

 

 ひどく打算的で、女性に無理やり触れようとするスケベなおっさんのような発想だが、ガラドに触れなければ、おそらくこの気持ちは落ち着くことはないだろう。

 

 そうして心の中で言い訳をしつつ、オレは口を開く。

「あー、先にガラドが入れよ。オレの方が後でいいからさ」

 

 今度はなんとか自然に言えた。オレが内心ホッとしているとガラドが、

「そうか、ならパッと入っちまうか」

 と答える。

 

 そうしてオレたちは戦闘訓練を終えて、宿に戻ることにした。




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