《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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理性と本能

「本当に悪かった」

「別に気にしてねえって……っつうかオレも、その、ガラドのチ……を見ちまったわけだし、謝るならオレの方だろ?」

 

 その後、宿の一室にて。

 オレの前でガラドは、全身で謝罪を表現していた。

 

 あれは不幸な事故だったし、そんなことをいえばオレこそ頭を下げるべきだろう。ガラドの下半身については言葉にしようとして詰まってしまった。

 

 ついこの前までオレにも付いてたはずのものを、なぜか声に出すのは憚られた。

「だから頭を……」

 

 と、胸中を隠そうとしつつ言葉を繋げようとするオレを見て、ガラドがゆっくり顔を上げる。

「そうか……雪月(ゆづき)が気にしてねえなら、まあ……」

 

「オレも…‥風呂場でのこと、ごめん」

「それこそ変だろ? 雪月(ゆづき)が謝るとこなんてどこだよ」

 

 そう言われて、オレはこれまでのことを思い返す。

 風呂場で起きた色々な出来事が、順番に脳内に現れた。

 

 ガラドに先を譲りつつ、後から騙し討ちのように風呂場に突撃したこと。

 ガラドが自分の本心を吐露し、それを聞きながらもオレから近づいたこと。

 

 そしてガラドの背中に触れ、無防備な姿を晒した。

 極め付けに、オレの内側で燃え広がる熱が心臓の音量を限界まで高めて、ガラドがそれを聞いてしまったこと。

 

 付け加えるならば、脱衣所でモタモタしている間にガラドが来てしまい、故意ではないとはいえ下半身を直視してしまったことも。

 

 まあ故意でなくとも恋ではあるが……なんて、そんな益体もないことを考えてしまうのはどうしてだろう?

 ガラドとのことを思い出して顔が熱くなってしまっていることから、意識を逸らそうとしているのか。

 

 自分の体と心だというのに、浮ついて、浮き足だって、熱に浮かされて……まるで思い通りになってくれない。

 地に足つかず、どっちつかずであちらこちらに思考が飛んでしまう。

 

(クソ……今はオレの心情なんてどうでもいいだろ。ガラドの言葉になんて返せばいい……?)

 

 改めて考えると、謝るべきことは前述したうちのどれなのか。

 全てそうである気もするし、全て違う気もしてくる。

 

 悩んでいると、ガラドが歯を見せてきた。

「ほらな。謝るとこが出てこねえだろ? なら雪月(ゆづき)も気にすんなよ」

 

 頼むから、優しく笑いかけてこないでくれ。

 まずい。まただ……広がる熱が、焼き尽くす炎が、オレの体を勝手に動かす。

 

 ガラドの右手に目が照準を合わせる。まるで吸い寄せられるかのように、オレは両手を動かした。

 心の奥底から伸びる糸が、オレの体を支配している。

 

 けれどそれに逆らおうとは思えない。思いたくない。

 今度は逃げない。逃がさない。

 

 さっきと違い、服を着ているから?

 それとも、ガラド寛大な態度を見せてくれたから?

 

(ダメだダメだろそんなこと。恋人がするような行為を、まだ言葉にすらしてないのに……)

 

 理性と本能が真正面からぶつかり合う。動きかけた両手にストッパーをかけて、宙ぶらりんなオレの手が空気を掴んだ。

 

 心が体を勝手に動かすなら、頭でそれを静止させればいい。

 だがそれは決して簡単なことではなく、気を抜けばすぐにでもオレはガラドの手を取ってしまうだろう。

 

 自分の胸を焦がすこれが恋心だと、オレは理解している。ガラドもきっと嫌だと突き放したりしないだろう。

 それでも勝手に接触するのは、もうやめにしたい。

 

 風呂場で、心の赴くままにガラドの背に触れ……わかった。わかってしまった。

 この想いは際限なく巨大化するだろう。ガラドから受け取る言葉や優しさを貪欲に喰らい尽くし、心と体を支配する。

 

 だとしても、それのなにがダメなんだ?

(だってそれは、恋人同士がすることだろ。まだちゃんと伝えてすらいないのに……)

 

 なら言葉にして、自分の口を動かして告白してしまえばいい。

(それができりゃ、こんなことで悩んでねえよ……)

 

 発言すら困難なら、行動で示すことも悪手ではないはず。

(そりゃそうだけど……ガラドの優しさにつけ込むみたいで、良くねえだろ)

 

 ならガラド自身はどう思っている? オレに触れられるのを拒絶したか?

(……してない。たぶんこれからも拒絶しないだろうな)

 

 そう……なぜならガラドは、オレを異性として意識していると白状したから。そんな相手が望んで触れようとするなら……男であれ女であれ、嫌なはずがない。

 

 オレの本能が、理性をねじ伏せようとしてくる。

 そしてそいつは本能のくせに、いやになるほど論理的にオレを追い詰めてくる。

 

 ダメだ。またオレの体がガラドへ照準を合わせてしまった。

 体が動いてしまう。宙吊りのまま手持ち無沙汰だったオレの両手が、本能に突き動かされるままにガラドの右手に吸い寄せられた。

 

 あとほんの少しで、互いの手が触れ合ってしまう。

 オレの本能が喜び、理性が悲鳴を上げる。

 

 その刹那。

 

 

雪月(ゆづき)ちゃん! ガラドさん! 近くの森でグラゴモスが出たって聞いた!? 危ないから宿から出ない……」

 

「よっしゃ行くぞ雪月(ゆづき)!」

「……うおーーー!!」

 

「って、ええ!? ちょっと!?」

 

 知らせをくれた女将(おかみ)さんを尻目に、オレたちは宿を飛び出した。

 好都合のような、そうでないような。

 

 なんともいえない感情を振り払うように、雄叫びをあげてガラドと共に出陣する。




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