《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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最悪の再会

 オレたちがあらゆる準備を終え、王都外壁の北東部分で最終確認をしていると、外壁上部で遠見の魔法を使っていた兵士から報告が届く。

 

『王都北東より接近する魔王の姿を確認しました! 各自配置についてください!』

 王都に危機が迫ることなど、オレの知る限り一度もない。念話の声には焦りと緊張が漂っていた。

 

 無理もないか。オレたちが死ねば王都丸ごと消え去ってしまうのだから、緊張も焦りも当然のこと。

「さて、行くか」

「おう」

 

「じゃあシド君……行ってくるね」

 不穏な風を感じながら、オレたちは立ち上がり出発の準備をする。

 

 シドニスはリーナの声に返答しなかった。

 いや、答える余裕がないと言った方が正しいか。

 

 シドニスの切り札『薄刀(はくとう)』は、尋常ではない集中を必要とする。

 瞑想する僧侶のように、あるいは神に祈りを捧げる牧師のように、目を閉じて座する体勢から動かない。この状態からもうどれほどの時間が経ったか。

 

 両手を左腰のあたりで固定して、魔力でできた柄を握りしめ、刃はいまだ形成されておらず……それがあるべきところには濃密な魔力が形を成そうと集っている。

 

 揺らめく魔力が蜃気楼に似ている。実態を伴う寸前であるのがわかるほど、肉眼ですら視認できる。

 

 魔王を討ち取る最後の希望(きぼう)は、勇者シドニスの手の内にある。

 オレたち三人は、瞑想して身じろぎ一つしないシドニスに目配せしてから、外壁から飛び出した。

 

 

 

「魔王が高く飛び上がったら注意しろよ」

「言われなくても」

 

 オレがガラドと話しつつ、地を駆ける。

 一人の騎士から伝えられた魔王の切り札についての情報は値千金だった。

 

 もちろん実際に見たわけではないが村一つを消し飛ばした事実から想像できる通り、防御に優れたカタウ団長の泡風船(バブル・バルーン)を容易く破壊するほどの威力。

 カタウ団長は最大出力で泡の防壁を作ったことで、なんとか大勢の騎士を守り切ったらしいが……オレたちの中にそれほどの防御性能の技を持つ奴はいない。

 

 ガラドの虎魄(こはく)でさえそこまでの防御は不可能だろう。つまりそれを使われたら終わり、使わせないように立ち回る必要が出てくる。

 

 そして魔王との接敵は早く、もうオレとリーナの探知範囲内に突入してきた。

 ガラドに目で合図をすると、

 

「行くぜ」

 と短い単語で返事をする。ついでに全身に獣化を施し、臨戦態勢をとって北東へ突撃した。

 

「オラッ!!」

 地面を蹴り砕く音と同時に、目で捉えるのも困難な蹴りを魔王の反応地点に繰り出すガラド。

 硬質な衝突音が響いて、忌々しい魔王の声がオレの鼓膜をノックした。

 

「おお、お主らか! 待っておったぞ。余の宴を盛り上げるには、やはり相応しい者がおらねばならんからのぅ」

 ガラドの蹴りを防いだ火葬槌(かそうつい)の向こうから、やけに楽しそうな声が届いてくる。

 

 喜ぶ魔王の纏う異常な魔力量には、微量な減少こそあるもののそれほど衰えは見られず、その体には小さな傷も見当たらなかった。

 

 近衛騎士団は王国の盾の役割を持つ。そのため攻撃に秀でた集団というよりは、守りに秀でた集団であり、そういった側面もあって時間稼ぎを有利に進められただろう。彼らの奮闘によってオレたちは金よりもなお価値ある時間を手に入れた。

 彼らがしていたのは守るための戦いであった。それは明白だ。

 

 しかしそれでも彼らは一流の騎士たち。近衛騎士団・第一大隊が死力を尽くして戦ったはずだというのに、魔王の体にはただの一撃も届かなかったのか。

 

 その事実が鎌首をもたげてオレたちを睨みつけてきているような錯覚に陥る。いったいどれだけの攻防を終えて、なおも無傷でいられるというのか。

 

 魔王の底知れぬ力……これを相手に、シドニスが切り札の準備を終えるまでオレたち三人で戦うというのか。

 

 いや、違う。

『接敵確認、魔法掃射開始!』

 

 オレたち()()で戦うんだ。

 

 リーナの念話が聞こえた直後、王都外壁から無数の魔法が音とともに飛来してきた。

「フン! 木っ端の横槍など意味をなさぬぞ!」

 

 魔王が火葬槌(かそうつい)細斬華(さざんか)で迎撃態勢を整える。

 近衛騎士の魔法が通じなかった魔王に、一般兵士の魔法が通じるはずがないのは道理だ。

 

 だが魔王は気付いているのだろうか。

 襲い掛かろうとする数多の魔法の……その全てが。

 

 ()()()であることに。

 

氷王の両眼(アイス・アイズ)

 外壁から飛んでくる魔法たちが魔王の呪装操作範囲に入る前に、オレの希望(ホープ)で強化する。

 そして氷王の両眼(アイス・アイズ)で強化した氷魔法は、オレに支配権を明け渡す。

 

 空中で静止した氷槍の魔法を一つ、オレの元へ近づけてそれに乗り、オレは高く上空へ移動する。

 

 これが、シドニスの作戦の要。

 

 すなわちオレの能力の最大活用だ。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

雪月(ゆづき)の最大の長所はその眼だろう。けれど僕の知る限り、君は希望(ホープ)を戦いの最中に補助的に使うことしかしていない」

 

「そりゃまあ……完全凍結は魔力消費が多いからな。オレの魔力量ならそうそう無くなることはねえけど……なんかダメか?」

 

 シドニスが作戦の要はオレだと言った直後、シドニスはさらに言葉を続けていた。

 

「君は槍術を軸に、魔法と氷王の両眼(アイス・アイズ)を要所要所で差し込む戦い方をしている。戦闘中の選択肢は一番目が槍、二番目が魔法、三番目が氷王の両眼(アイス・アイズ)だ。違うかい?」

 

 魔将軍ウェービスとの戦いでも、オレはそんな風に戦っていた。決着もオレの槍がウェービスの胸を貫いたから。確かにオレの戦い方は、槍による攻防が主体となっているのは自明の理。

 

 迷わず縦に頷いたオレと対照的に、シドニスが首を横に振る。

「それを逆にするんだ。君は氷王の両眼(アイス・アイズ)を主軸に、槍術と魔法を補助的に使うべきなんだ」

「そうは言ってもなぁ…‥オレはずっとこうやって……あっ」

 

 言いながら気付く。ガラドは戦いの時、闘気術こそ使っているが、戦闘の主軸は獣王の拳(ビースト・フィスト)による獣化。それに伴う身体能力と身体強度の爆発的な上昇がガラドの強さを支えている。

 

 リーナもそうだ。戦うとなればすぐに治癒の翼(ヒーリング・ウィング)で空に飛び上がり、敵が攻撃を当てづらい高所から魔法を繰り出し、展開の有利を作る。

 

 そして言わずもがなシドニスも、剣王(ソード・ロード)で作り出した複数の魔力剣を操作して、近距離と中距離を制する強みが最大限活かされている。

 

 オレ以外の三人とも、希望(ホープ)を持続的に使いこなし、最大限の強さを引き出している。

「そう……君は最近になって希望(ホープ)持ちになったから仕方ないところもあるけど……その戦い方は、希望(ホープ)()()()()()()人のものだ」

 

 しかしそもそも氷王の両眼(アイス・アイズ)は瞬間的にしか使えない能力。持続的に使いこなすなんて……

 

「いや、そうか。他人の氷魔法に氷王の両眼(アイス・アイズ)を使った時は……支配権をオレに移した上で強化できる……!」

 

「それを使うんだ。そしてそのための氷魔法は……騎士と養成学校生に用意してもらう」

 

 氷王の両眼(アイス・アイズ)の二つ目の能力、氷魔法への強化はそれほど大きな負担ではない。

 それは魔力量としても、氷王の両眼(アイス・アイズ)の使用限界にしてもだ。

 

 完全凍結はメリットもデカいが負担も比例してしまう。魔王に対して有効打になる可能性もあるが……なにせ奴の呪装に付きまとう不確定要素が邪魔をしてくる。

 

 絶対に成功したであろう絶好のタイミングですら、四天王の呪装がオレの完全凍結を防いできた。

 そして呪装の維持と再展開を苦にしない魔王の……異常としか形容できない魔力量を相手にそれを続けるのは自殺行為だ。

 

 まず間違いなくオレの氷王の両眼(アイス・アイズ)の使用限界が先に来てしまう。

 だが氷魔法強化に使えば、その負担は大きく減るだろう。さらに魔法を味方に用意してもらえれば、輪をかけて状況は良い方向へ進むはず。

 

雪月(ゆづき)はこれから槍使いとしてではなく、魔法使いとして戦うべきだ」

 

 その言葉でオレは再度自覚した。

 

 オレの魔力量はすでに、ここにいる四人の中で一番なのだということを。

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