《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話 作:タンクトップ桶狭間
その後、アンヌさんは普通に戻ることになった。
実際オレとガラドは双方ともにそこまで怒っているわけでもなかったし、ただ事情を聞いておこうと思っただけ。
「俺は好都合だがな」
「理由は……?」
これもアンヌさんに気を遣っている言葉なのか? ガラドの真意がわからず視線を合わせると……
「こういう噂が流れりゃ、あのオッサンみてぇのが
「うーん、そりゃそうか……?」
「まあそこはガラドの言う通りかもね」
「嘘も方便というし、下手に否定するよりこの噂を利用した方がいいかもしれないね」
リーナとシドニスの助言もあり、オレは納得しておく。
「では私はこれで……」
「あ、アンヌさん。行く前に……ちょっとこっちに」
アンヌさんが仕事に戻ろうとするけど、オレはそれを止めて彼女を連れて部屋を出る。
「
「さっきはリーナの悪ふざけに付き合わせてすみません。それで噂のこと……ガラドが好都合だって言ったんでオレも白状するんですけど……お、オレも別に気にしてねえっていうか……むしろ嬉しかったっていうか……」
もしも彼女が罪悪感を抱いたままじゃ居心地が悪いので、オレも本音を曝け出すことにした。
「だってこの噂が広まれば広まるほど、オレとガラドが恋人になったことが……沢山の人に伝わるから」
なぜならオレは、ガラドと恋仲になれたことが嬉しくて……それを誰かに話したくて、あんな風に饒舌になっていたから。
どんな形であれ、オレとガラドの関係性が広まることが……嬉しくないわけがない。
今日始めてこの噂を聞いた時はびっくりしたけど……同時ににやけそうになってたのも事実。
「そ、それに……ききき、キスって単語を言うのが恥ずかしくて、主語を言わないまま話してたオレも悪かったので……勘違いされても仕方ないっつうか……」
おまけに……オレに一切非がないというわけでもない。羞恥を覚えつつ、オレの事情をアンヌさんに話し終えると、彼女はオレの手を取ってこう言った。
「私、
「アンヌさん……」
「ただ最後に、
「アンヌさん?」
「さっきなんて……もしガラド様が我慢強くなかったら、おっぱじまってもおかしくない雰囲気でしたわ」
「アンヌさん!?」
おっぱ……なんてこと言うんだこの人!?
(でもまあ? オレとガラドはもう恋人同士だし? そういうことをしても、誰も文句言わねえだろうけど……)
それにさっきはシドニスもリーナもアンヌさんもいたから……
けれどもし、二人きりだったら?
昨日みたいにタガが外れたガラドが、大きな腕で捕まえてきて、格好いい瞳で貫いてきて、低く落ち着いた声で囁いてきたら……?
オレにそれを断ることはできないって、もうすでに白状してしまったから。きっと、たぶん……ううん、絶対に。
キスだけじゃ終わらない。その後がある。その先がある。
キスだけでドキドキして心臓が壊れるんじゃないかって思ったのに、呼吸が荒くなってすごく汗をかいて、最後には気を失ったのに。
その先だなんて……きっと死んでしまうと思う。
だって……
『
あんな風に求められたのは初めてで。
『可愛い……!!』
『好きだ……!!』
昨日のことを思い出すだけで、もう……!!
こんなにもドキドキして、止まらないんだから。
「ガラド様に次、
「うぐ……」
さっきガラドが言ってた「お前それ、ほんとマジで……やめてくれ」の意図を、オレはそこで理解した。
メスって言うな! なんてツッコミ、もうできないかも。
だってもう、否定しようがないくらいに。
オレはガラドの
……表情筋ってどう鍛えたらいいんだ?
「そういやリーナとシドニスの方はどうなんだよ?」
「どうって?」
「国王がシドニスと第三王女を結婚させようとするとか言ってたろ? それの対策みてえのは見つかったのかよ?」
部屋の戻るとふと思い出してリーナに聞く。
オレとガラドのあれやこれやが沢山起こりすぎて、つい後回しになっていたが……今後二人にとっての一番大きな障壁はこれだ。
第三王女との結婚を回避する方法。それがなければ、リーナとシドニスは結ばれることはないだろう。
普通に断ってしまえば、反逆罪か侮辱罪にもなりかねないこの問題を、二人はどう解決するつもりなのか。友人として、せめて知っておきたい。
「オレが聞いたところで何ができるわけでもねえけど、一応どうするつもりなのかだけは聞いておきたくてよ」
「どうするも何も……素直に話して説得するつもりだよ」
シドニスは真っ直ぐにそう答えた。
「……いいのかそれで? 反逆罪とか侮辱罪とかなるんじゃ……」
「それは僕単体が拒否する場合だね。でもリーナと結ばれるために、という理由があれば」
「そうか……建国当初から上級貴族で、セルトール王家を支えてきたロクスロード家まで敵に回すわけねえって寸法か」
確かに、シドニスの生家であるアンダウン家は下級貴族だから、第三王女との結婚を拒むことはできない。王家との上下関係はひっくり返すことができないから、それをした時点で打ち首確定の反逆罪となり得る。
だがもしその絶対的な力関係に上級貴族であるロクスロード家が加われば、一気に形勢は変わるだろう。
王家とロクスロード家の双方が、己が娘をシドニスに嫁がせようとする……いわゆる争奪戦の形に変化する。
そして当の本人がロクスロード家のリーナを選ぶというなら、それで決着だ。
それでも王家には、二人の結婚を無理矢理にでも成立させない手段がある。王の勅命だ。
「……それを使ってこねえ保証は?」
「ある。国王陛下ほどの知恵者であれば、僕と全く同じ意見になるからさ」
曰く、王家の評判がガタ落ちになってしまうから、だそうだ。
『国王は勇者シドニスを親族に迎えたいがために、愛する二人を引き裂いた冷酷な独裁者だ』
『勇者シドニスの活躍によって上級貴族の仲間入りを果たしたアンダウン家と、建国当初から上級貴族であるロクスロード家の繋がりが、王家を脅かすかもと臆病風に吹かれたのでは?』
周囲には、そうとしか映らないだろう。そして国民の支持を失う。
魔王討伐の一番の功労者シドニス。そんな彼の幼馴染であり、旅を支えてきた聖女リーナ。
この二人を引き裂いて、シドニスと第三王女を結婚させようと強行すれば、国民の反乱は想像に難くない。それは国王の最も避けたい事態だろう。
だからこそシドニスとリーナの結婚を、国王が阻止することはできない。
「なるほどなぁ……おい良かったなリーナ。……リーナ?」
反応のない聖女様の方を見ると。
「私と結ばれるため……結婚……あ、愛する二人……えへへぇ……」
随分と幸せそうな顔で、シドニスだけを見つめていた。
…………よし。
「リーナ、メスの顔してるぞ?」
「め、メスって言わないで!?」
反撃完了。