《完結済み》勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話   作:タンクトップ桶狭間

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王への謁見。勇者の悪癖

 数日後、王への謁見が許された。

「……よって、リルフィーナ・エル・ロクスロードへの褒美として、以下の領地拡大と褒賞金を下賜することとする。面を上げよ」

 

「はい。喜んで頂戴いたします」

 

 オレ、ガラド、リーナの順で国王様の前で跪き、感謝を述べる。

 ここまでは順調。なんの問題もない。

 肝心なのは勇者だ。

 

「リルフィーナ・エル・ロクスロード様。こちらを受け取り、列へお戻りください」

 近衛騎士団・第二大隊の隊長が、褒美の詳細が書かれた紙を手渡し、リーナをオレたちの横に戻るよう促す。

 

 本来ならばあそこには、くたびれつつも砕けた態度を取るカタウ団長が立っていたはずだが、彼はすでにいない。

 そのせいか、国王様は一度だけふうとため息を吐いた。

 

「……続けよ」

「ハッ」

 

 そのやりとりに一抹の悲しさを感じながらも、今回の目玉、魔王討伐を果たした勇者シドニスの番が回ってきた。

 

「シドニス・アンダウン様。国王陛下の御前へ」

「はい」

 

 シドニスは迷いなく返事をして、流れるような所作で国王様の前に跪いた。

 さすがだ。まるで熟練のダンスのよう。

 

 それを証明するように、謁見の間に列席する貴族から、感嘆の息が漏れる。

 

「シドニス・アンダウンよ。此度の魔王軍幹部および魔王の討伐、これに対する其方の働き、実に見事であった」

「勿体なきお言葉」

 

 そこから王様はシドニスのことを褒め称えた。

 東の四天王ケルメを打ち倒し、異能を希望(ホープ)と呼ばせるに至ったことから始まり、長く流麗な美辞麗句が並べられた。

 

 それはおそらくパフォーマンスの一種なのだろう。

 勇者パーティ……いや、対魔王軍特別行動部隊を編成したのは王様の指示であること。

 

 民衆にとって、勇者パーティの出発点は東の防衛線に間違いない。

 だが本当は、王都の……より詳しく言えば王の命令によるものだと主張しているんだ。そしてそれは紛れもない事実。

 

 それを謁見の間に列席した、おそらく大貴族であろう人たちを証人としつつ、宣言する。

 魔王討伐のそもそものスタートラインは、この王にこそある。それを喧伝するのが目的のようにも見えた。

 

 この謁見は、オレたちへの褒美を言い渡すという目的。だがもう一つの目的として、名のある貴族の承認のもと、魔王討伐の裏の功労者は国王であるという事実確認。という側面も持ち合わせているようだ。

 

「……よって其方(そなた)の多大なる、いや、偉大なる功績を称えて…‥褒美を言い渡す」

 なんて考え事をしていると、王様のスピーチが最終局面へ突入する。

 

 いよいよだ。

 

 

「まず、其方(そなた)の生まれであるアンダウン家にエルの文字を与える。今後より一層の精進を期待しておる」

 まず最初に、上級貴族への仲間入りを出してきた。

 

 名前と家名の間に挟まるエルの文字が、上級貴族と下級貴族の間に存在する、最もわかりやすく、最も大きな違い。

 そしてこれは王様にとって、自分の娘をシドニスに嫁がせるための下準備にすぎない。

 

「そして次に、領地の拡大と褒賞金。詳細はこちらにあるため確認せよ」

 さっきと同じく、第二大隊長が紙を掲げて見せてくる。

 

 そしてリーナとシドニスの予想が正しければ……

 

「そして最後に、シドニス・エル・アンダウンよ。其方(そなた)の功績を真に、正しく評価するため……我が娘、第三王女パールマリアとの婚姻を褒美とする! 面を上げよ」

 

 きた。

 頑張れシドニス、ここが正念場だぞ。

 

(そういえばシドニスは素直に話す…‥としか言ってなかったな。詳しく聞いとけばよかったか……ま、大丈夫だろ)

 

 その時のオレは、わかっていなかった。

 シドニスという男の長所と短所を。数少ない勇者の悪癖を。

 

 

「はい。しかし恐れながら国王陛下。僕には一つ……話しておかなければいけない、重要なことがございます」

 

「ふむ、申してみよ」

 王様からの褒美を素直に受け取らなかったシドニスに、けれど不満は出てこなかった。

 

 魔王討伐を成し遂げた、今や大英雄であるシドニスの発言に、どこの誰が「無礼であるぞ」と刃を向けられようか。

 

「寛大なお言葉、感謝いたします。そしてその重要事項とは……昨夜のことでございます」

「ほほう」

 

「国王陛下よりお借りしております、王城内の一室にて……僕、シドニス・エル・アンダウンとリルフィーナ・エル・ロクスロードは……」

「うむ……」

 

 

 

「…‥深く、心を通じ合わせました」

 

 

 

 瞬間、謁見の間にざわめきが広がる。

 

「ま、まことであるか……!?」

「はい、紛れもない……真実でございます」

 

 オレの耳に入る王様とシドニスの会話は、右から入り左へ抜けてゆく。

 だってそれは……

 

 シドニスとリーナがその……そういうことをシたという宣言に他ならないからだ。

 

 貴族は遠回しな言い方を好むらしい。

 そうでなくとも王様の目の前だ。そういった会話は、絶対に直接的な表現はできないだろう。

 

 だが今のシドニスの発言は「昨夜、誰も入れぬ一室で、シドニスとリーナが深く心を通じ合わせた」らしい。

 そしてこのどよめき……きっとオレの予想は正しいはず。

 

 そう、シドニスはこの場で宣言したんだ。

 リーナと体を重ねたから、王女様とは結婚できませんと。

 

(え、マジで? 嘘……いや確かに冗談で既成事実とは言ったけど、本当に……?)

 あまりにも寝耳に水で、思わずオレはリーナの方をバッと見る。

 するとガラドも同じくリーナを見ていた。

 

 こういう遠回しな言い方に詳しくないガラドですらそう感じたということは相当だぞ?

 と思いつつも、リーナは激しく首を横に振った。

 

『けけけ、結婚前の男女が、そそそ、そんなはしたないことするわけないでしょ!?』

 念話の魔法で弁明するリーナ。

 

『じゃあ、今のはどういう意味だよ! シドニスと昨日なにかあったんじゃねえのか!?』

 だがそれは納得いくものではなく、オレはリーナに説明を要求する。

 

『昨日は、その……シド君だけ、謁見の間で国王陛下の褒美を断ることになるでしょ? 王女様とは結婚できませんって』

 

 確かにそうだ。オレたちは「はい」と頷くだけでいいが、シドニスだけは「いいえ」と首を横に振ることになる。

 

『だから、えと……せめてその手助けになれたらって思って、今までシド君にしてもらったこととか、嬉しかった思い出とか……私の正直な想いとか、ちゃんと伝えておこうって……』

 

 それにシドニスも応じて、二人で必ず結婚式を挙げようと誓ったらしい。

 

 それを誇張して話すことで、王様に問いかけているのか。「婚姻前の女性に手を出すような男に、大事な娘を嫁がせていいのか?」と。

 

 いや違う。シドニスはそんな卑怯な真似はしないだろう。するにしても、せめてリーナにだけは伝えて了承を得ているはず。

 そういう様子がリーナにないということは。

 

「これシドニスの天然じゃねえか?」

 小さな声でガラドが結論に辿り着いた。

 

 そしてそれはオレも同意見だった。

 

 

 そう、いつだかリーナが夜中に泣いてしまった時にも、似たようなことがあったじゃないか。

 

 勇者シドニスは、言葉のニュアンスがおかしい時があると。




あと三話。
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