霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~ 作:犬型大
「裏切り者は?」
「森に逃げたそうです」
焼却場を出た俺はゲルディットに簡単に報告する。
外はひどい状況だ。
倒された魔物がそこら中に転がっている。
必死に戦っていた聖騎士もデラのおかげで死んじゃいないが服がぼろぼろになったりしている。
さらに俺の目には立ち上る幽霊たちが見えていた。
魔物から解放されて成仏していく。
これだけの魂が囚われていたのだと思うと、酷いものだと感じてしまう。
魂を喰われず魔物の中に幽閉されているだけマシなのかもしれないが、マシというだけで最悪な部類に入ることは間違いない。
「……そうか。お前はパシェと追いかけろ。こっちは任せておけ」
「分かりました。行こうか」
俺はパシェと一緒に森に向かう。
足が健在ならマーデルはもう遠くに逃げているかもしれない。
だが一度でも悪魔に手を貸して相手を逃すわけにもいかないので、森の中を捜索する。
「うああああっ!」
「悲鳴?」
何か痕跡でもないか、と目を皿のようにして探していたら、森の中に悲鳴が響き渡る。
「男の声、だね」
「ああ、行ってみよう」
俺たちは悲鳴の方に走っていく。
「来るな……!」
「おっと……」
木に寄りかかって杖を振るマーデルの姿が見えた。
マーデルの目の前には魔物がいる。
悪魔のいなくなった魔物は制御されない。
たとえ悪魔と協力していた悪魔崇拝者だろうと、知能が低い魔物は区別できない。
ただ悪魔も全ての魔物を意識的に制御しているわけではなく、中にははぐれたり戦い途中でどこか行ってしまうものもいる。
エダモスディが解き放った魔物の何体かはまだ森の中にいるのだろう。
そんな一体とマーデルは鉢合わせてしまった。
「残念ながら嘘が現実になったな」
マーデルの右足が無くなっている。
対面する魔物の口には足が咥えられている。
ひどく鈍い音を立てながらバリバリと足を噛み砕いて食べていく。
足が悪い、というのももはや疑いようもなくなってしまった。
「パシェ、頼めるか?」
「うん」
パシェが剣を抜いて魔物に向かって走っていく。
俺はパシェに向かって手を伸ばし、神聖力を送る。
「ふっ!」
なんてことはない。
足を食べるのに夢中になっている魔物を後ろから一撃で斬り倒す。
「どうも、マーデルさん」
「くっ……!」
ほんの一瞬だけ助かったという顔をしたけれど、俺をみてマーデルは顔をしかめる。
「お元気そうで何よりです」
「そっちも悪魔と戦ってよく無事だったものだな」
「すいませんね、マーデルさんのお友達倒しちゃって」
足を引きちぎられて相当痛いだろうに、マーデルは喚くようなこともない。
ただ痛みは強いのか、細かく震えながら強く鼻で呼吸を繰り返している。
「プニマッツさんのお腹に穴まで空けて、言い逃れはできませんよ」
「そんなもの……するつもりはない」
「逃げておいて何言ってるんですか?」
俺は呆れてしまう。
「なぜ、悪魔に手を貸したんですか?」
もはや処罰されることに疑いはないが、なぜ裏切るのか理由は気になった。
少しの間とはいっても同僚として働いたのだから、理由を尋ねてみる。
「…………足が悪かった時期があるのは本当なんだ」
マーデルは俺のことを睨みつける。
話さないならそれでもいいと思っていたが、深いため息をつくとゆっくりと話し始めた。
「司教の昇進がかかった時期だった。俺は魔物に襲われて……足を悪くした。そのせいでライバルに遅れをとった」
「そのせいで悪魔に手を?」
むしろ逆じゃないか。
魔物に襲われて司教にならなかったのなら魔物の方を恨むべきだ。
悪魔となんて手を組むことはないだろう。
「……問題はその後さ。俺は司教になれなかった。それはしょうがないのだが……司教になったアイツは足の悪くなった俺を閑職に飛ばしやがった!」
マーデルは怒りのこもった目をしている。
ただその視線の先には俺ではない誰かを見ている。
「焼却場?」
「その時はまだ違う……だがライバルだった俺を厄介払いしたんだ」
「ふーん……厄介払いされて……その先が最終的に焼却場か」
教会内の政治にマーデルは負けた。
魔物が原因なことはあるものの、マーデルのライバルは徹底した性格だった。
政治争いに勝った後もライバルであったマーデルを蹴り落としたようだ。
「でも足悪いフリしてたんですよね?」
「どうせ上がる目はないからな。それなら足の悪いフリをしておけば周りは嫌でも優しくしてくれるのさ」
「くだらないですね……」
「くだらなくとも……俺に使える武器はこんなものしか残ってなかったんだ」
「まともな足があるならまた歩ける。たとえ蹴落とされようとも這い上がることはできたはずだ」
「お前に何が分かる!」
マーデルが怒ると足の傷口から血が噴き出す。
いつの間にか顔がかなり青くなってきている。
出血が激しいようだ。
「なんも分からない。諦めて……弱さを武器にした奴の事なんてな」
「そうだ! 弱さを武器にして何が悪い! お前に底まで落ちた人間の気持ちが……」
「それは分かるさ」
「なん……」
マーデルは俺の目を見て言葉を飲み込んだ。
俺も順風満帆に生きてここにいるのではない。
全てを失って、それでも這い上がってここにいる。
俺が失ったものを考えれば、マーデルなんかよりも遥かに底に沈められたものであった。
愛するものを失って、なんの力もなく雨に打たれる無力感を経験してみろってもんだ。
「だからって悪魔に?」
「……焼却場に配属されて腐ってたら、突然エダモスディが訪ねてきた。驚いたさ」
マーデルはフッと笑う。
「アイツに復讐してくれるというから……手を貸した。一度きりのつもりだったが、一度でも手を出したら終わりだったんだ」
「……司教はどうなった?」
「死んださ。魔物に襲われて、な」
マーデルの顔に反省なんてものは見られない。
もう完全に心は悪魔に巣食われている。
「悪魔に手を貸すのに崇高な考えなんてないと思っていたけど……やっぱりどうでもいいような言い訳じみた考えだったな」
「うっ!?」
俺はマーデルの足の付け根を掴む。
流石に足は生やせない。
だが神聖力で止血ぐらいはできる。
強く掴んだせいでマーデルは痛みに顔を歪めた。
「お前がどんな感情を抱こうが知らないけれど、だからといって死体を弄んでいい理由にはならない」
「くっ……なら殺せ」
「嫌だね。これからあんたは本当に底に落ちるんだ。残りの人生……自分の犯した罪を考えて生きるんだな」
マーデルはもう年だし片足を失った。
罪を償うことなどできはしない。
だが死んで終わりなど簡単な終わりにはさせない。
「歩け、自分の足で」
俺はマーデルの首根っこを掴んで、無理にでも自分の足で移動させる。
「くっ……」
マーデルは残った足を跳ねるように動かしてなんとか移動する。
そして駆けつけた聖騎士たちにマーデルのことを引き渡したのであった。