霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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4協力要請1

「……教会の中で殺しか」

 

 教会は騒然となっていた。

 早朝、聖堂の真ん中で人の遺体が発見されたからだ。

 

 殺されたのは大司教であるソコリアンダ。

 

「恋多き大司教が死んだ」

 

 例の生霊に憑かれていた大司教であった。

 胸をナイフで一突きにされて、うずくまるようにして倒れていたところを発見された。

 

 聖堂の中は血まみれになっていて、朝の掃除当番だった聖職者が見つけたのだと話を聞いた。

 大きな悲鳴を目覚ましにされたので、俺はちょっと不機嫌になっている。

 

「申し訳ありません! 本日、教会は事情により参拝はお断りさせていただいております!」

 

 もうすでに教会の前には敬虔な人たちが集まり始めている。

 そのために、一般客は入らないように規制が始まっていた。

 

 しかし教会の関係者は何が起きたのか、現場を見ようと聖堂に押しかけていた。

 

「なっ、もっと前行こうぜ!」

 

「やなこった。チッ……こんな騒ぎならもうちょっと寝てても許されるところなのに……」

 

 俺もそんな野次馬の一人だった。

 ただ俺は大司教が死んだなんてことにあまり興味はない。

 

 それなのに聖堂で野次馬の後ろの方にいるのには理由がある。

 理由は簡単で、連れてこられたから。

 

「マルチェラ……お前が一人で前に行ったらいいだろ」

 

「そうだね……僕はあんまり血とか見たくないかな」

 

 俺もクーデンドもあまり騒ぎに首を突っ込むタイプではない。

 俺とクーデンドを連れてきたのはマルチェラという茶髪の青年で、クーデンドと同じく同期の見習い聖職者の騒がしい奴だ。

 

 性格の明るい男であるが、その反面落ち着きがない。

 大司教の事件を聞きつけて、勝手に行けばいいのに俺とクーデンドを引きずるようにして聖堂までやってきたのだ。

 

 血を見るのが好きではないので、クーデンドなんかは一人だったなら絶対に見にくることはなかったただろう。

 

「いいじゃんよ〜。こんなこと滅多にないだろ?」

 

「滅多になくとも楽しむようなことじゃないよ」

 

 クーデンドが肩をすくめてしまう。

 ニュースの少ない教会内で起きた珍しい事件であるが、人が一人死んでいる。

 

 少なくとも喜ぶようなことではない、とクーデンドは呆れていた。

 まあ、見に行きたい気持ちが湧いてしまうことは多少理解できる。

 

 実際に絶対拒否ではなくここまで来ているのだから、最終的にはマルチェラと大きくは変わらない。

 少し興味があったことは否定できないのだ。

 

「まあ、そうだけどさ。でも気になるものは気になるだろ?」

 

 他の場所からいざ知らず、教会の中で殺人が起きたのだからどんな状況なのか気になるのは人として当然だとマルチェラも開き直る。

 

「犯人だって捕まってないんだろ?」

 

 今もうすでにソコリアンダの殺人事件は大きな騒ぎになっている。

 だが発見されたのは遺体だけであり、犯人はまだ見つかっていない。

 

「何も知らなきゃただ不安になるだけだ。何事もちゃんと知るのは大事ってガイド様も言ってただろ」

 

「そういうことじゃないと思うけどな……」

 

 今のところソコリアンダが殺されたという話の他に情報はない。

 つまり殺人犯が野放しになっている。

 

 ちょっとした情報でも、知ることができるなら知るべきだとマルチェラは主張する。

 何かを知っていれば、それだけでリスクを避けられる可能性があるのは確かだけど、今は野次馬しているだけ。

 

 死体を見たって何が分かるわけでもない。

 

「間違っちゃいないかもしれないけど……こんな白昼に襲われることはないだろ」

 

「まだ近くにいるかもしんないだろ?」

 

 危険かもしれないとマルチェラは言うけれど、もう日が昇る前の時間とは違う。

 昼間になると、教会の中は人がいないところを探すことの方が難しく、殺人犯が教会の中に隠れていることはないと断言してもいい。

 

 俺は呆れて軽くため息を漏らしてしまう。

 

「早朝に人気のない聖堂で人を殺した。しかも死体も刺したナイフも残ってる。つまり計画的なものじゃなく、突発的な犯行だ。人目のあるところで襲われはしないよ」

 

 俺は大きなあくびをしながら不満顔のマルチェラの疑問に答える。

 近くに殺人犯がいるかもしれないという不安は理解してやってもいい。

 

 しかし多くの場合で殺人事件は特定の相手を狙ったもので、無差別に不特定多数の人を殺し回る大量殺人なんて話の方が少ない。

 

「もし大量殺人が目的なら早朝の掃除をしに来たシスターが被害に遭っていてもおかしくないし、わざわざ最初の狙いを目立つ大司教にする必要もない」

 

「なるほど」

 

 俺の推理にクーデンドが納得したように頷く。

 

「シスターは無事だし他の殺人も起きていないなら、狙われたのはソコリアンダ大司教だったんだ。つまり、俺たちは狙われないんだよ」

 

 連続した殺人が発生する様子もなく、人目もある。

 ソコリアンダ殺人事件は連続殺人なんてことにはならずに終わるのだろう。

 

「どいてください!」

 

 遺体がある聖堂の真ん中の方から声が聞こえてきて、野次馬が二つに割れる。

 俺もゆったりと道を開ける。

 

「あっ、ヤバっ!」

 

 俺は割れた野次馬に目を向けていて、慌てたように顔を逸らす。

 布を被せられたソコリアンダが担架に乗せられて運ばれていく。

 

「どうかしたの?」

 

 クーデンドも最初は死体から目を逸らしていた。

 けれど布で覆われていたので見ても平気だった。

 

 それなのに、血が平気なはずの俺の方が目を逸らしている。

 それが不思議だったのだ。

 

「いや、なんでもないよ」

 

 俺は首を振って曖昧に笑顔を浮かべる。

 どうして俺がソコリアンダから目を逸らしたのか。

 

「チッ……まさか目が合うとはな」

 

 ソコリアンダと目があってしまった。

 当然遺体は顔も布で覆われている。

 

 だから目は合わないはずだ

 だけど俺だけはソコリアンダと目があったのだ。

 

 なぜ目があったのかというと、遺体のそばにソコリアンダが立っていたからである。

 うっすらと透けて見える姿、遺体があるはずなのにそばにいるのは、幽霊としてのソコリアンダであった。

 

「はぁ……最悪だ」

 

 失敗したと深いため息をつく。

 ソコリアンダは、ぼんやりと周りを見ていたのではない。

 

 うっすら透けて見えるソコリアンダは何かの意思を持って周りのことを確認していて、俺とたまたま目があってしまった。

 何を探していたのか知らないが、幽霊が意思を持っている。

 

 そして幽霊と目が合う。

 そんな時はだいたいロクなことが起こらないと相場が決まっている。

 

 目を逸らし、ドキドキしながら警戒していたが、ソコリアンダの幽霊は自分の死体にそのままついていってしまった。

 

「ふぅ……」

 

 ひとまず俺はホッと胸を撫で下ろす。

 時として目があった幽霊がそのまま自分の後ろをついてくる、なんてこともありえないわけではない。

 

 ただ通り過ぎる時に、ソコリアンダが俺の方を見ていたような気がする。

 少し、嫌な予感がする。

 

「うわぁ……」

 

「大丈夫か?」

 

 ソコリアンダの死体を運ぶのに人が割れたせいで、現場の光景が見えてしまった。

 床には大きく血痕が残っている。

 

 クーデンドが血痕を見て顔を青くする。

 残された血痕もダメなようだ。

 

 これじゃあ、神聖力を使った人の治療なんかを行う部署に行くのは無理だろうな。

 

「もう行こう。ここにいたってなんの話も聞けやしない」

 

 きっと他の人も同じで、野次馬として見物していた以上の情報はない。

 

「まあ、そうか」

 

「今日は達しがあるまで各自部屋で待機するように! 変な噂話はしないように静かに過ごすんだ!」

 

 もう離れて部屋に戻ろうとしていたら、教会の規律を守る騎士が解散を促す。

 これ幸いにと俺たちも部屋に戻る。

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