霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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5協力要請2

「まっ、しばらく大人しくしておくのが賢明だな」

 

 しばらく教会内部はごたつくだろう。

 ソコリアンダの捜査だけではない。

 

 大司教という立場のある人が殺された。

 となると始まるのは権力闘争だ。

 

 中核都市の教会ではないが、それでも大司教という座を欲する人は多い。

 みんな表面上権力になんか興味ないような顔して、腹の内では地位や立場にどこかで固執しているのだ。

 

 内部から昇進するか、外部から新しく大司教が来るのか。

 ソコリアンダ派閥は解体されて他に吸収されたり、あるいは自分が大司教になるのだと新たな派閥となるか。

 

 しばらく安定して大人しかった欲望が動く。

 ソコリアンダの幽霊と目が合ってしまったことも、俺にとってはゾッとするような不吉なものを感じさせていた。

 

「もしかしたら……悪魔も動くかもしれないな」

 

「何か言った?」

 

「いや、どこかの派閥に勝手に取り込まれないように気をつけろよ?」

 

「……なかなか立ち回りも難しいね」

 

 クーデンドは苦笑いを浮かべる。

 器用な方ではないから色々気苦労もあるだろう。

 

 だが成績優秀で、これからお金の流れを管理する会計課に配属されるとなれば派閥として欲しいと思う人もいるかもしれない。

 少しだけ目を光らせてやろう。

 

「大人しくしててよ、エリシオ?」

 

「俺か?」

 

「奇公子だからね」

 

 クーデンドが少し冗談っぽい目をして笑う。

 こんな時に変なことをするから奇公子なんて呼ばれてしまう。

 

 ただ別に俺としては変な行動だと思っていないのだから、これもまた難しい。

 

「ん? おい、落としたぞ」

 

「あっ……ありがとう」

 

「ウーリエか。…………大丈夫か?」

 

 一人の女性が俺たちとすれ違うように横を通った。

 ひらりとハンカチが落ちて、俺は声をかけて女性を止める。

 

 振り返った赤毛の女性にハンカチを拾い上げて差し出す。

 その女性とはウーリエと言って、俺とも顔見知りな仲の人であった。

 

 泣き腫らしたように、やや目が赤い。

 思わず心配を口に出す。

 

「大丈夫……」

 

「そうか」

 

 大丈夫じゃないだろ。

 そんな言葉が出かかったけれど、大丈夫じゃなかったとしてどうしたらいいのかも分からない。

 

 無理に辛いだろと聞き出すこともできない。

 俺はわずかに湿ったように冷たいハンカチを渡して、それ以上踏み込むことはしなかった。

 

「何か……吐き出したいことがあったら俺は聞くからな」

 

「うん……ありがとう」

 

 ウーリエは寂しげに笑顔を浮かべる。

 ハンカチではなく、指で目尻の涙を拭って軽く頭を下げる。

 

「あの子は? 俺あんまり記憶ないな……」

 

 マルチェラは離れていくウーリエの背中を見つめる。

 俺が普通に会話しているので同期かなとも思ったが、授業なんかで見たこともないと首を傾げている。

 

「ソコリアンダ大司教のお付きの子だよ」

 

 いわゆるメイドみたいなもので、ソコリアンダの身の回りの世話をしているのがウーリエであった。

 聖職者ではなく雇われている使用人という立場で、たまたま俺は会話する機会が少しあったのだ。

 

 年が近くて、仲がいいというほどでもないが挨拶を交わすぐらいの関係になっていた。

 関わることがなければ話すこともないし、記憶にないのも当然の話だろう。

 

「あー、だから目が赤かったのか」

 

「ソコリアンダ大司教様、いい人そうだったもんね。亡くなったらショックを受ける人もいておかしくないね」

 

 ウーリエの目が赤かった理由にマルチェラとクーデンドも納得する。

 

「しっかしさー、ソコリアンダ大司教様の遺産とかどうするんだろうな」

 

 すれ違っただけのウーリエのことを好き勝手に話すつもりはない。

 無言でまた歩き出した俺たちの中で、マルチェラがまた口を開く。

 

「ソコリアンダ大司教様、独身なんだっけ?」

 

 聖職者ではあるが、婚姻は禁じられていない。

 離婚が認められていない、不倫や浮気はかなり重たく見られるなどの側面はあるが、恋愛や結婚は自由なのだった。

 

 ただソコリアンダは独り身だ。

 もういい年なのだが、一度も結婚したことがない。

 

 当然子供もいない。

 聖職者であっても給料は出るし、それなりの立場になると多少色々と収入的なものも発生させられる。

 

 ソコリアンダは普段から質素に暮らしていたので、蓄えがあるだろうとみんな予想している。

 配偶者や子がいればそちらに遺産が行くのは当然なのだけど、いない場合はどうなるのかマルチェラは知らなかった。

 

「教会が持ってくんだよ。一見して派手なお別れだけしてな」

 

 俺が答える。

 身寄りがなく配偶者も子もいなきゃ、教会の聖職者の遺産は教会が持っていくのだ。

 

 立場に相応しい華やかな葬儀を行なっておしまいとなる。

 

「ふーん」

 

 せっかく説明してやったのにマルチェラは興味なさそうに答える。

 

「死んだら終わり……だけど少しぐらいは悼んでもらったりまともに扱われたくはあるよな」

 

 死ねばもうどうすることもできない。

 けれども幽霊が見える俺からすれば、干渉できずとも死んだ後どうなるのか見ていることもあるのだ。

 

 満足するほど丁寧になんてしていられないことは分かっているが、乱雑には扱わないようにしようとは思う。

 

「ソコリアンダ大司教様ならみんな悲しんでくれると思うよ」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 大司教ともなれば満足するほどの丁寧な扱いを受けるだろう。

 だが俺が気にしているのはそこよりも、生霊の方だった。

 

 ソコリアンダの周りに生霊は見えなかった。

 もしかしたら今回の事件には生霊が関わっている可能性もある。

 

 今生霊たちの本体はどうしているのだろうか。

 誰が犯人なのか。

 

 きっとこの後寝てても怒られないのだろうが、気分よく眠れなさそうだと俺は小さくため息を漏らしてしまう。

 

「せめて配属先決まって離れてからにしてくれればいいのにな」

 

 なんだってこんな時期に。

 もう少し待ってくれれば別の教会に異動して、生霊がついた大司教のことなんかすっかり忘れて過ごしたことだろう。

 

 面倒事は勘弁願いたい。

 早く犯人が見つかって事件が解決すればいいのにと俺は窓から薄曇りの空を見上げたのだった。

 

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