霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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57友が守りたかったもの1

「こんなところで何してるんですか?」

 

 同じ人に、同じ言葉を再三かけることになることは思いもしなかった。

 朝早く、ウルモンは孤児院から出てきた。

 

 背には小さいリュックを背負っている。

 魔物騒動はタイミングよく駆けつけてくれた聖騎士や悪魔祓いによって素早く鎮圧され、その被害はそれほど大きくはなかった。

 

 町にはようやく平穏が戻り、封鎖も解除された次の日に、一体どこに行こうというのか。

 

「……生きてたのかい」

 

「ご覧の通り。ピンピンしてますよ」

 

 俺は手を広げてみせる。

 回復には数日かかったものの、もう出歩いてもいいぐらいには復活している。

 

 悪魔と内通した孤児院の院長の老婆を相手にすることなんか容易いものだ。

 

「そんなに大勢引き連れて……」

 

 朝早い時間に孤児院を訪れていたのは俺だけでなく、ゲルディットやパシェ、他の悪魔祓いもいる。

 

「そりゃあ……悪魔崇拝者と対峙するんだからな。もしかしたら悪魔そのものの可能性もあるしな」

 

「失礼なことを言うもんだね」

 

「悪魔崇拝者なことは否定しないんですね」

 

「……違うよ。私は悪魔でも、崇拝者でもない」

 

「子供を悪魔に売り飛ばしておいてか?」

 

 ウルモンは俺のことを睨みつける。

 ただその目にはどこか動揺や悲しみのようなものも見られる。

 

「何も知らないくせに……」

 

「ならなぜ売り飛ばしたのか、教えてくれ」

 

「…………ここは元々私設……私が作った孤児院なんだ」

 

 その話は前にも聞いた。

 最初から悪魔に子供を売り飛ばすための目的があったわけではないだろう。

 

「そもそも……なぜ孤児院なんかやろうと思ったか。私の婚約者は悪魔祓いだったのさ」

 

「それは……知らなかった」

 

 神聖力を使って治療をしていたので教会にいたことがあることは予想できていた。

 しかしまさか悪魔祓いの聖騎士と婚約していただなんて、それは知らなかった。

 

「私と結婚するために悪魔祓いを辞めて……ただの聖職者として配置転換を希望していた。だけど……ある時にあの人は悪魔と戦って帰ってこなかった」

 

 悪魔祓いが憎いという理由はなんとなく理解できる。

 ただ悪魔に婚約者を奪われたのだとしたら、悪魔も憎いはずだ。

 

「あの人が死んで……教会を出た私は孤児院を開いた。悪魔によって大切な人を失った子供をどうにかしたくてね……」

 

「そんな思いがあって、どうして悪魔に」

 

「教会から出てみると……世界は思ったよりも寒かったのさ」

 

 ウルモンは悲しげに眉尻を下げた。

 怒りの表情を浮かべている時よりも老けたような気がする。

 

「みんな、自分が大事。今日のご飯、明日の生活を心配して生きている。知らぬ孤児など気にかけてやる余裕なんかないのさ。婚約者であってもまだ結婚はしていなかった。あの人の遺産を私は受け取れなかった」

 

 ウルモンは昔のことを思い出すように目を閉じる。

 俺はただウルモンの話を聞く。

 

「私もそんなにお金はなかった……いつしか貧しさを隠すことはできなくなって、冬は子供と身を寄せ合って寒さに震えて過ごした」

 

 子供にはお金がかかる。

 孤児院をやっていくにもかなりのお金が必要だろう。

 

 婚約者を亡くした衝動に近いものでウルモンは動いたけれど、金銭面であっという間に立ち行かなくなった。

 

「そんな時に……寄付をしてくれる人が現れたのさ」

 

「それがディミトリー……悪魔ですね?」

 

 クーデンドを動員して孤児院のことを調べた。

 謎の貴族からの寄付が毎年あった。

 

 それがディミトリーという名前の貴族だ。

 ディミトリーという貴族を調べてみたけど、どうにも謎が多い。

 

 おそらく悪魔の隠れ蓑になっている。

 今頃ディミトリーの方にも悪魔祓いが向かっていることだろう。

 

「……最初は悪魔だなんて知らなかった。冬を越せるような寄付をしてくれる奇特な人だと思ってた。そんな寄付が何年か続いて……とうとう本性を表した。子供を一人よこせと言い出したのさ」

 

「それに応じたんですか?」

 

「そうだよ」

 

 怒るかと思ったら、なんとも言えない顔をしてウルモンは答えた。

 

「子供たちに言えなかった。来年からまた寒さに震えるなんて……一人…………たった一人犠牲になるだけで、何人もの子供たちが凍えることなく冬を越せる……」

 

 後ろにいる若い悪魔祓いには顔をしかめている人もいる。

 弱々しい老婆の話に同情を禁じ得ない。

 

「だが毎年……子供を要求するようになった。貴族の養子になれるのだと…………私は嘘をついて子供を送り出した……」

 

 ウルモンの手が震えている。

 犯した過ちの懺悔。

 

 ウルモンの姿はひどく小さいもののように見えていた。

 

「もはや……戻れない道を歩んでしまった。ようやく教会が手を差し伸べた時には、何人もの子供を悪魔に差し出してしまった」

 

「……あなたは悪魔崇拝者です」

 

「……そんなものじゃない! 私はただ……」

 

「いいえ、あなたの心には確かに悪魔が巣食っています」

 

 たとえ寒さに震えることがあっても悪魔の手を取ってはならなかった。

 知らない段階のお金ならともかく、子供と引き換えにお金を得てしまったらもうそれは心に悪魔が住み着いてしまっている。

 

「私にどうしろと……」

 

「教会に助けを求めましたか?」

 

「………………」

 

 自分は悪くなかった。

 自分のせいではない。

 

 正当化しようと言葉を並べているが、頼るべき相手が違う。

 

「あなたは教会に助けを求めなかった。違いますか?」

 

 俺の言葉にウルモンは目を泳がせて、返事をしない。

 

「あなたは自らの傲慢のために……悪魔に子供を売り飛ばしたんだ」

 

 子供たちのために。

 そんな言葉を盾にしているのだと、俺は感じた。

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