霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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72薄氷の平和1

「ほんと、菜食主義じゃなくて助かったよ」

 

 復讐のために教会に入った。

 だがもし教会の教義として食事に制限がかけられていたら、俺は教会には入らなかったかもしれない。

 

 清廉な体を保つために肉は食べません、なんて宗教もあるが、今のところ食事に制限はない。

 町中のレストランもちゃんと肉が出る。

 

「流石はオススメのお店、美味しかったですね」

 

 少し視線を向けてみれば城壁と西門が見えるようなところにあるレストランは、オススメというだけあってなかなか美味しかった。

 

「あとは……わっ!?」

 

「…………悲鳴?」

 

 午前中にもおおよその買い物は終えてある。

 さっさと残りを買って帰ろうと思っていたら、西門の方から悲鳴が聞こえてきた。

 

 命の危険がかかったような、嫌な悲鳴だった。

 

「よし、帰ろう」

 

「えええっ!?」

 

「エリシオらしいね……」

 

 俺の素早い判断にクレンシアが驚く。

 クーデンドは俺らしいと苦笑い。

 

「おい、何があった?」

 

「魔物が現れた!」

 

「魔物が?」

 

 西門の方から走ってくる男にペリフェが声をかける。

 どうやら魔物が現れた騒ぎのようだ。

 

 魔物という言葉に俺たちの間にも緊張感が走る。

 

「聖騎士連中が他のところに行ってて人手が足りないみたいなんだ!」

 

 思い出すのは先ほど走って行った聖騎士たち。

 何があったのかは知らないが、今西門にいる聖騎士が少ないことは容易に予想できる。

 

「帰ろ……」

 

「エリシオさん、ペリフェさん、手伝いに行きましょう!」

 

 俺は帰りたい。

 邪魔にならないように帰ろうぜ、と提案する前に俺の言葉はクレンシアの声にかき消される。

 

「行くつもりか?」

 

「困っている人を放ってはおけない」

 

 明らかに行く気のクレンシアを止めてくれないかなと期待してペリフェの方を見るが、ペリフェのいくつもりのようだ。

 

「あー、そういうタイプか」

 

 アテが外れた。

 寡黙でイケメンなのは俺と同じだが、中身は割と正義に溢れている感じのようだ。

 

 望んで聖騎士になったタイプのようで、クレンシアの意見に賛同してくれた。

 

「クーデンド、お前は大教会に帰れ」

 

 俺の言葉はどうしてもため息混じりになる。

 クーデンドは聖騎士ではない。

 

 俺たちと一緒に西門に向かっても邪魔になるだけだ。

 クーデンドもこういう時に俺が変な冗談を言わないことを理解していて、あっさりと頷いた。

 

 こんな時ばかり非戦闘員が羨ましい。

 

「エリシオ、気をつけてね!」

 

「ああ、お前も転ぶなよ」

 

 クーデンドと別れて西門に向かう。

 人々が逃げ惑っていて、状況がいまいち分からない。

 

「戦ってますね!」

 

 開かれた門の向こうで聖騎士が魔物と戦っている。

 

「気持ち悪」

 

 俺は魔物の姿を見て素直な感想を漏らす。

 遠目で見たら虫のナナフシのよう。

 

 だが近づいてみるとそんな可愛い物でもない。

 細長い胴体の先に馬のような頭がついていて、胴体には長い六本の人のような腕が生えている。

 

 それが何体もいる。

 聖騎士たちは町に入るための検問を受けようとしていた一般人たちを守るように戦っていた。

 

 魔物一体につき、聖騎士一人。

 なかなか状況としては厳しそうだ。

 

「こりゃ倒した方が早いな」

 

 人手が足りないというから、避難誘導ぐらいはと思った。

 だがそんなことしている間に聖騎士の一人や二人やられてしまいそう。

 

 こうなれば聖騎士の手助けをしてやった方が事態は早く収拾できそうだ。

 ただ問題がある。

 

 俺たちはともかく、クレンシアとペリフェは武器を持っていない丸腰なのだった。

 安全な聖都の中で買い物するのに武器は持たない。

 

 武器を持つのは俺のような変人だけだ。

 

「ペリフェ」

 

「おい、お前はどうするんだ?」

 

 俺は腰に差していた剣をペリフェに渡す。

 

「心配しなくとも死ぬつもりはない。お前は魔だろ? 一人でもいけるな?」

 

 ペリフェは魔の聖騎士である。

 つまり魔力が扱えて、自己強化ができる。

 

「クレンシア、俺に神聖力を」

 

「わ、分かりました!」

 

「まずは一体倒すぞ」

 

 ペリフェは俺のことをじっと見ている。

 武器も持たずにどうするのだと顔に書いてある。

 

 どうするのか聞かれてもないものはない。

 なら素手でどうにかするしかない。

 

「いくぞ!」

 

 クレンシアの神聖力を受けて、俺の体が白く光る。

 そのまま俺は近くにいる魔物に向かって走り出し、ペリフェは慌てて後を追う。

 

「キモい見た目してんじゃねえよ!」

 

 俺は飛び上がると拳を振り上げる。

 他人の神聖力でも体に与えてもらったものはある程度コントロールできる。

 

 拳に神聖力を集めて、ナナフシ馬魔物の馬の頭を殴りつける。

 

「馬なのに、鹿みたいに鳴くんだな」

 

 殴られたナナフシ馬魔物は、鹿のような声を上げて鳴く。

 

「き、君たちは……」

 

「軽く手助けに来ました。武器ないんで期待はしないでください」

 

 ナナフシ馬魔物の血走った目が俺のことを睨みつける。

 殴られてお怒りだ。

 

「はぁっ!」

 

 駆けつけたペリフェが剣を振り下ろす。

 黒い魔力をまとった剣がナナフシ馬魔物に襲いかかるも、ギリギリところでかわされてしまう。

 

「おっと……俺が狙いか」

 

 どう見たって俺は素手である。

 殴られた恨みもあるのか、ナナフシ馬魔物は俺のことを見ていた。

 

「来いよ」

 

 武器がない以上メインアタッカーにはなれない。

 それならナナフシ馬魔物を引きつける役割を担うしかなく、ちょうど良い。

 

「ただ……俺も攻撃しないわけじゃないからな」

 

 ナナフシ馬魔物は俺に向かって細長い腕を伸ばす。

 武器がないから安全だと思っているなら好都合。

 

 俺はナナフシ馬魔物の手首を軽く掴むと、肘を曲がらない方向から殴りつける。

 

「うわぁ……すごい……ですね」

 

 鈍い音がしてナナフシ馬魔物の肘が曲がっちゃいけない方向に折れ曲がる。

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