霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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73薄氷の平和2

「残り五本、片手でも数えられるな」

 

 流石の魔物でも折られた腕がすぐに回復するわけじゃない。

 

「おっと……あんまり余裕ぶってもいられないかもな」

 

 痛みに怯むこともなく、ナナフシ馬魔物は左側の三本の腕を突き出す。

 そのうちの一本が俺の頬をかすめた。

 

 擦れるチッという音がして、俺の頬が切れる。

 見た目には細っこい腕をしているのに、膂力は人間を超えた魔物らしい力をしているようだ。

 

 まともに攻撃を喰らうとヤバいかもしれない。

 

「はっ! 大丈夫かい!」

 

 盾を構えた聖騎士が、俺のことを掴もうとしたナナフシ馬魔物の腕を横から切り裂く。

 

「全く無茶なことを……」

 

「小言は後にして、今は魔物を倒しましょう!」

 

 俺には魔物にまとわりつく幽霊の姿が見える。

 泣き喚くような幽霊が数体。

 

 結構うるさい。

 腕が六本あるということは少なくとも三人は犠牲になっている魔物だ。

 

 早く解放してやりたい。

 

「これぐらいの怪我、なんともないしな」

 

 俺にはクレンシアの神聖力がある。

 今は身体能力の強化として神聖力が送り込まれているが、ある程度治療の力としても働いてくれる。

 

 頬の傷はもう塞がっていた。

 残りの腕が四本となったナナフシ馬魔物に俺は殴りかかる。

 

 襲いくる四本の腕を掻い潜って、馬面の鼻先を狙う。

 

「体長いんだよ!」

 

 けれども俺の拳は届かない。

 ナナフシ馬魔物の胴体が長くて顔の位置が高い。

 

 軽く体を逸らすだけで、頭の位置はかなり遠くなってしまう。

 

「こちらのことを忘れられては困るな」

 

 魔物だって素手で襲いかかってくる馬鹿野郎は初めてだろう。

 俺に釘付けになってもおかしくはないが、魔物を相手にしているのは俺だけじゃない。

 

 黒いオーラをまとうペリフェが、後ろからナナフシ馬魔物のことを斬りつける。

 

「いいぞ!」

 

 腕を折られてもあまり怯まなかったが、胴体をざっくり斬られれば流石に痛みに体が強張るように動きが止まった。

 その隙をついて聖騎士も追撃を狙う。

 

「よっと!」

 

 俺は聖騎士に向かって神聖力を送り込む。

 聖騎士の体が白いオーラに包み込まれ、振り下ろされる一撃が鋭さを増す。

 

「まずは一体」

 

 聖騎士の一撃でナナフシ馬魔物の胴体が切り裂かれる。

 嫌な悲鳴をあげながらナナフシ馬魔物が倒れていく。

 

 聖騎士はしっかりと頭も斬り落として完全にトドメを刺す。

 

「グイント!」

 

 こちらは一体撃破した。

 けれども他の方では魔物も一人の聖騎士を倒している。

 

 見開かれた目は俺でもなく、ただ虚空を見つめていた。

 また、救えなかった。

 

「……チッ!」

 

 首が完全に逆の方を向いた聖騎士はそのまま力なく地面に倒れてしまう。

 聖騎士たちだって弱くはないだろうが、腕が六本もある魔物を一人で相手にするのは大変そうだ。

 

「騎士さんとペリフェはあいつを! 俺は別の方に向かう!」

 

 他に一人で戦っている聖騎士も旗色は悪そう。

 一体ずつ戦力集中してという余裕もなさそうだった。

 

 聖騎士を倒してフリーになった魔物は、ペリフェと今助けた聖騎士に向かってもらう。

 そして別の魔物で、危なそうなところに俺は向かうことにした。

 

「クレンシア、お前は大丈夫か?」

 

「は、はい!」

 

 神聖力も無限の力じゃない。

 使えば消耗するし、尽きれば回復するまで使えない。

 

 研修で魔物を相手にする分にはクレンシアも平気そうだったけれど、今は命のかかった本気の戦いである。

 少しばかり顔色が悪いのが気になった。

 

 ただ優しく休んでいろといえる余裕もない。

 大丈夫だというのならそれを信じて俺は戦うしかない。

 

「くっ……!」

 

「大丈夫ですか!」

 

 六本の腕をなんとかガードする聖騎士のところに駆けつけて胴体を蹴りつける。

 先に殺された聖騎士のところに行って剣を借りて来ればよかったなと反省したのだが、もう取りに行くにも遅かった。

 

「助か……」

 

「ああ! 油断するから!」

 

 俺が駆けつけて聖騎士はほんの少し気を緩めてしまった。

 ナナフシ馬魔物に胸を殴りつけられて、聖騎士がぶっ飛んでいく。

 

 鎧を身につけているので死にはしないだろうが、すぐに復帰するのは厳しそうだ。

 

「……こいつを一人で相手にすんのはなかなかな……」

 

 武器があるなら余裕でやってやる。

 しかしこちらは今魔力を使うわけにもいかず、丸腰なのだ。

 

 やられるならせめてこっちにぶっ飛んできて剣ぐらいくれよと普通に舌打ちしてしまう。

 

「ほっ!」

 

 襲いかかってくる六本の腕をかわす。

 好きを狙い、一本の腕を腕と脇でホールドし、そのまま無惨にへし折る。

 

 骨の折れる鈍い音が聞こえてくるものの、ナナフシ馬魔物はそのまま折れた腕も振り回して攻撃を続けてくる。

 

「剣だけじゃなくてナイフも持って来ればよかったな……」

 

 せめてナイフぐらいでもあれば違うのに。

 ナナフシ馬魔物の指が引っかかって、俺の脇腹のところの服が大きく破かれる。

 

「遅れて申し訳ありません。これで、少しは楽になるでしょう」

 

「これは……!」

 

 俺の体に強い神聖力が流れ込んできた。

 もう一段階体が強化されて、疲労を感じ始めていたのが楽になる。

 

「あの人は……」

 

 見ると神官服に身を包んだ中年の男性がいた。

 どこかで見たことがある。

 

「枢機卿、エリオルゴール・ヒンシュタン!」

 

 男はこの都市に来た時に全体の挨拶で前に並んだ枢機卿の一人だった。

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