霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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79遠征4

「今の声は……幽霊だ」

 

 どこからともなく聞こえた声に俺はゾワリとするものを感じた。

 ただの声なのに、何か人のものとは違うものがある。

 

 これは幽霊の声だ。

 

「倒した魔物の幽霊……? いや、それよりもだ……」

 

 仮に幽霊だとして、その声が聞こえることは時々ある。

 しかし今の幽霊の声は明らかに語りかけてきた。

 

 話しかけてきたということよりも、何に気をつけろといったのか。

 その内容の大事だ。

 

 だが周りを見ても幽霊の姿はない。

 

「……もう成仏してしまったのか?」

 

「どうしたの?」

 

「……パシェ」

 

 俺が周りをキョロキョロしていることが気になったのか、パシェが声をかけてきた。

 

「少し周りを警戒してくれ」

 

「警戒?」

 

「幽霊の警告だ」

 

「幽霊の……警告」

 

「前に教えてやったろ? 俺には見えるって」

 

 パシェには幽霊が見えると教えたことがある。

 どう思っているのかいまいち分かりにくいが、とりあえず信じるとは言ってくれた。

 

「どこを警戒する?」

 

 パシェは細かい説明もしていないのに剣に手をかける。

 無駄な説明をしなくてもいいのはありがたい。

 

「どこかは分からない。何かも分からない。ただ気をつけろと言われた」

 

「何を気をつければ……」

 

「そうだな……こんなところに隠れる場所もないし……」

 

 周りの見通しは悪くない。

 敵が隠れるような場所もない。

 

「何がいるなら……それこそ川ぐらい。…………川?」

 

「エリシオ、川から何か!」

 

 川の水面が不自然に波打った。

 

「ヤバい! みんな逃げろ!」

 

 次の瞬間、川の中から手が飛び出してきた。

 水に濡れてぬらぬらとした黒ずんだ手が伸びていく。

 

「えっ……きゃああああっ!」

 

 手が伸びた先にいたのはクレンシアのペアだった女の子。

 足首を掴むと抵抗することもできずにクレンシアのペアの子が引きずられていく。

 

「くっ……!」

 

 周りを警戒していて一瞬早く気づいた俺とパシェが走り出す。

 しかし、川から出てきた手が引っ張る速度の方が速い。

 

「くそっ!」

 

 クレンシアのペアの子は、そのまま水の中に引きずりこまれていく。

 どうなったのか。

 

 他の人がそれを確かめる前に俺には結果が分かってしまった。

 水面からクレンシアのペアの子の幽霊が飛び出してきた。

 

『助けて……!』

 

 クレンシアのペアの子の幽霊が黒い手に捕まって、再び水の中に引き込まれる。

 そして、クレンシアのペアの子の死体が川に浮かび上がってきた。

 

 おそらく他の人にはただ黒い手が宙を掴んだようにしか見えていないだろうが、俺には見えてしまった。

 

「パシェ、止まれ!」

 

 俺はパシェの鎧を掴んで止める。

 飛び込んで死体を回収してあげたい。

 

 川の中にいる何かに刃を突き立てて魂を助けてあげたい。

 胸の中に怒りが燃える。

 

 けれども心は熱くしても、頭は冷静にならねばならない。

 このまま川の中に突っ込んで戦うのは無理だ。

 

 パシェも同じく川に突っ込んでいきそうだったので、俺は残り少ない冷静さを総動員してパシェを止める。

 

「全員川から離れろ!」

 

 悪魔か、はたまた新手の魔物か。

 どちらかは知らないが、敵だ。

 

 川の中から手が伸びてくる。

 

「パシェ、支援する!」

 

 パシェが魔力の黒いオーラをまとい、俺はパシェに神聖力を流し込む。

 伸びてくる手にパシェが剣を振る。

 

 まるで意思でも持っているように腕はうねり、剣をかわす。

 

「……悪魔だ!」

 

 ただ腕は剣をかわしきれずにわずかに掠めた。

 まるで焼けるような音がして、少しの煙が上がる。

 

 銀のオーラに対する過剰な反応は悪魔のものだ。

 魔物では銀のオーラに対して強い影響を受けないが、悪魔は銀のオーラが苦手で強く反応がある。

 

「あっちの魔物を倒して、ガキどもを避難させろ!」

 

 ゲルディットが聖騎士たちに指示を出す。

 もう一体の魔物の方はまだ倒されておらず、研修生たちが戦っている。

 

 急な出来事、悪魔という言葉にせっかく優位に戦えていた研修生たちの動きが硬くなっている。

 ゲルディットの指示で、聖騎士たちが魔物に向かう。

 

「エリシオ、俺たちを支援しろ! みんなが下がる時間を稼ぐんだ!」

 

 ゲルディットも剣を抜いて俺たちのそばに駆け寄ってくる。

 

「分かりました! おい、お前らは川から離れろ!」

 

「え……でも……」

 

「あいつはもう死んでる!」

 

 クレンシアは川を流れていくペアであった子に視線を向ける。

 今は川に入れない。

 

 死体を回収してやることでさえ困難だ。

 

「ペリフェ、引きずってでもいいからクレンシアを連れてけ!」

 

 クレンシアのペアの子が引きずり込まれたのだから、クレンシアやペリフェのいる位置まで手は届く。

 早く避難して、早く戦いに集中することが死体を素早く回収するためにも必要なことだ。

 

「行こう……」

 

 鬼気迫る俺の指示にペリフェはクレンシアの肩に手を置く。

 泣きそうな顔したクレンシアはためらいを見せるが、ぐっと唇を結んで川から離れていく。

 

「これは面倒だな……」

 

 ゲルディットも俺の神聖力と自分の魔力を混ぜて銀色のオーラに昇華させる。

 川の中からニョロニョロと手が二本出てきた。

 

 どうやら本体は川の中にいて、出てくるつもりがないようだ。

 流石のゲルディットも水中戦は得意としていない。

 

 水中なんて人間が戦うフィールドではないのだ。

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