霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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8会話なき会話

「まずは挨拶して……お前を引っ張り出して……それから捜査して。ああ、先に遺体の確認だな。やることが多い」

 

 教会前までゲルディットを連れてきた。

 ゲルディットはぶつぶつとやるべきことを呟いて、ため息をつく。

 

 元より体を動かして働いていた人だ。

 あまり頭を使うのは好きでないみたいだった。

 

「あれは……」

 

「どうした?」

 

 馬を預けようとまず教会の横に回り込んで厩舎に向かっていた。

 途中には花壇がある。

 

 ソコリアンダが毎日水を上げていた花壇だ。

 今は誰が管理しているのかも分からない花壇の向こうに人の姿を見た。

 

 そこには何もなく、突っ立っている理由などない。

 幽霊だと、俺の本能が告げている。

 

「このまま先に行けば馬係がいるので」

 

「まあ、頼んだのは教会までの案内だ。何かするなら好きにすればいい」

 

「悪いけど、また後で」

 

 俺はゲルディットと別れて、花壇の向こうの人に向かう。

 花壇の間を抜けていく。

 

 ソコリアンダが普段から手をかけて育てていた花々は、小さいものが多いが美しく咲いている。

 まるでソコリアンダの良いところだけを抜き出したかのようだ。

 

「境界線……そうか、大司教の魂でも教会には入れないのか」

 

 近づいてみると幽霊の顔がよく見えた。

 俺の予想通り、立ち尽くす幽霊はソコリアンダだった。

 

 ソコリアンダは、思っていたよりも花壇から離れていた。

 てっきり花を見ているのかと思って、視線を辿ってみると教会を見ているようだ。

 

 教会を見るのにどうしてかなり離れたところにいるのか。

 幽霊は基本的に神聖力によって退けられる。

 

 教会は神聖力に満ちている。

 そのために幽霊は教会に入ることはできない。

 

 敷地も含めてだ。

 それはたとえ大司教だった人でも変わらないみたいだった。

 

「何を見てるんですか?」

 

 聖堂で見た時には目が合ったものだけど、今ソコリアンダはひたすらに教会を見ている。

 誰かを見ている?

 

 窓から見える人影は忙しく、様々に移り変わっていく。

 

「返事はないか……」

 

 幽霊もさまざまな状態がある。

 ベラベラと話をするものもいれば、押し黙ったように静かな幽霊もいる。

 

 聖堂で見た時には割と生前に近い感じかと思っていたが、今の状態は意思の疎通がうまく取れない感じのようだ。

 ただ目はまだ意思がある。

 

 何かの呼び水があれば、きっと通じることは可能だろう。

 

「ふむ……」

 

 俺はソコリアンダの顔を観察する。

 死んでいると気づかない幽霊もたまにはいるが、聖堂のソコリアンダは自分の死体を見ていた。

 

 死んだのだと自覚はあるはずだ。

 

「怒りはない」

 

 ソコリアンダは怒っていない。

 殺された人は怒り、恨みを抱えていることも少なくない。

 

 だがソコリアンダは何かに怒っているような感じではない。

 

「悲しみ? 心配?」

 

 どちらかといえば何かを悲しんでいるような、あるいは心配しているとも思えるような表情を浮かべている。

 

「誰があなたを殺したんですか? ……なぜ、そんな悲しそうなんですか?」

 

 俺はソコリアンダに問いかける。

 だがソコリアンダは答えない。

 

「悪魔ですか?」

 

 ソコリアンダが俺を見る。

 目が合っている。

 

 ただ幽霊のソコリアンダはうっすらと体が透けていて、見つめ合っていても向こうが見えた。

 

「悪魔ですか……どうやって……」

 

 悪魔も神聖力を嫌う。

 幽霊のように入れないということはないけれど、敵地である教会の中に入り込んでくることはないだろうし、入り込んでくれば気づく。

 

 ソコリアンダはただ地位だけの大司教ではなく、能力としてもしっかりと証明を重ねてきて大司教になった人だ。

 悪魔がいれば分かるだろう。

 

 まして不用心に刺されることなんかない。

 よほど強い悪魔なら、単独で入り込んできてソコリアンダを殺すこともできるかもしれない。

 

 ただそうする理由がないのだ。

 そんなことすれば悪魔にとっても追われるリスクになる。

 

 相当悪魔に対して強行的な行動でもとらない限り、教会の中で殺されることはないだろう。

 

「何があったんですか?」

 

 もう一度問いかける。

 今度は俺の質問が届いたようで、ソコリアンダは悲しそうに眉を下げて首を振る。

 

 そのジェスチャーを何を伝えたい?

 必死に考えてみるけれど、ソコリアンダと親しくもない俺では意図は読めない。

 

「ただ怒ってないんですね。じゃあ……何があなたを幽霊にした?」

 

 ちゃんと弔われないことによって幽霊になる人も多いが、やはり幽霊であり続けるには幽霊であるだけの思いが必要だ。

 怒りや恨みはわかりやすく、強い。

 

 だけれどもソコリアンダにそんな感情はない。

 強い心残りが何かある。

 

「早く逝かないと悪魔に狙われますよ? 何があなたをこの世に繋ぎ止めているんですか?」

 

「…………愛する……人」

 

 蚊の鳴くような細い声で、ソコリアンダは答えた。

 

「愛する人? それは誰のこと……あっ!」

 

 ようやく返事があった。

 少し前進したと思った瞬間に教会の窓が光る。

 

 花が揺れ、ソコリアンダの姿が消えてしまう。

 

「あの光は神聖力……? 何が……」

 

 強い神聖力が放たれてソコリアンダが消し飛んでしまった。

 正確には神聖力は幽霊を退けるだけで、除霊する力はないので自力で成仏しなきゃどこかにはいるのだろう。

 

 だがせっかく話を聞けそうだったのに、と俺は今にも舌打ちしそうな忌々しそうな顔で教会の方を睨みつけるのだった。

 

「愛する人……まあ少しはヒント得られたか」

 

 全くの無収穫ではない。

 愛する人への想いがソコリアンダを幽霊にした。

 

 それは分かった。

 問題はその愛する人が誰なのかということと、今回ソコリアンダを殺したのが愛する人だったのか、あるいは愛されなかった人なのかということだ。

 

 愛する人に殺された?

 もしかしたら愛する人が危ないのかもしれない。

 

 悪魔はどこで関わっている?

 

「愛する人のために……幽霊になったか。母さんと父さんは……現れなかったな」

 

 俺はため息をついて教会に向かう。

 

「まあいいや。悪魔が関わってそう。なら暴いてやるよ。そして……覚悟しておけ。悪魔のことは絶対に逃さない」

 

 拳を握り締め、今回のゲルディットへの協力は本気になってやろうと決めたのだった。

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