霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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83夜の会話

「……実は俺、クレンシア様の護衛なんだ」

 

 波乱の遠征を終えて、聖都に戻ってきた。

 少し落ち込んでいたようなクレンシアの調子も元に戻り、残りわずかな研修の時間を俺は静かに過ごしていた。

 

 そんな時にギュドスに呼び出された。

 夜の大教会は静かで嫌いじゃないが、俺を嫌っている野郎と会うのにはちょっと厳かすぎる。

 

 何かあったら死体を聖都の外に捨てて隠すぐらいのつもりで、俺はよく研修で使った訓練場にやってきていた。

 遠征中も俺のことをよく睨みながらも、クレンシアに怒られて近づいて来なかったギュドスだが、今はあまり敵意を剥き出しにしていない。

 

「お前……あの人が何者なのか知ってるんだってな」

 

「まあ、偶然聞いたよ」

 

 何者かというのは、クレンシアが教皇の娘ということだろう。

 ギュドスはクレンシアの護衛だと言った。

 

 それなら時にお嬢様的な呼び方が漏れたり、俺のことを遠ざけようとしていたのも納得はできる。

 

「色々、悪かったな」

 

「……急にどうしたんだ?」

 

 なんだかギュドスの態度は殊勝だ。

 思わず気持ち悪いと俺は顔をしかめる。

 

 このままナイフを取り出してきて刺されるんじゃないかと警戒する。

 

「お前の戦いは……すごかった」

 

 ギュドスは俺の態度が気に入らないように眉をひそめたが、何か文句を言うことはなくむしろ褒め言葉を口にした。

 とうとう気でも狂ったのかもしれない。

 

「お前がいなかったらクレンシア様も被害に遭っていたかもしれない」

 

 もはや様付けで呼ぶことも隠さないようだ。

 

「それに俺は……クレンシア様を支えられなかった。落ち込むクレンシア様を見て…………どう声をかけたらいいのか分からなかった」

 

 ギュドスは苦々しい顔をする。

 

「お前のおかげでクレンシア様は笑えるようになった」

 

「そんな大したことしてないがな」

 

「……お前のことは嫌いだ」

 

「おっと……?」

 

「だが、感謝はしている」

 

 バカ真面目。

 そんな言葉が相応しいのかもしれない。

 

 俺のことは嫌いだが、クレンシアに関して感謝は伝えずにいられないのだ。

 そこは別に俺のことは嫌いだなんて言わずに感謝だけ述べておけばいいのにと思う。

 

 俺もそんなところは評価するが、ギュドスのことは嫌いだ。

 

「もう研修も終わりだ。お前に会うこともないかもしれない。感謝だけは伝えておく」

 

「そうか。俺もお前と二度と会わないように願ってるよ」

 

「俺はどうでもいい。クレンシア様に近づくな」

 

「俺が近づきたくて近づいたことなんかほとんどねーよ」

 

 思わずため息が漏れてしまう。

 俺なんかよりもよっぽど下心持っている奴は多くいる。

 

 なんで俺ばかり目の敵にされるのだと嫌になる。

 

「話はそれだけか?」

 

「…………ああ」

 

「はぁ……くだらないことで呼び出しやがって」

 

「……死ぬなよ」

 

「あっ?」

 

 背を向けた俺にギュドスは声をかける。

 

「クレンシア様が悲しむ。お前のことは気に入ってるようだから……死ぬなら人知れずに死んでくれ」

 

「死ぬつもりはないさ。俺の人生設計、最後はひ孫に囲まれて看取られることだからな」

 

「……そうか」

 

 そんなの無理だと返してもらうつもりだったのに、受け止められたら気まずいじゃないか。

 妙な沈黙が流れ始めたので、俺はそのまま訓練場を後にする。

 

「またギュドスがご迷惑おかけいたしましたね」

 

 部屋に戻る途中、廊下の角からクレンシアが現れた。

 

「ああ、最後まで迷惑な男だったよ」

 

「驚かないのですね?」

 

「隠れて覗くならもっと上手くやらないとな」

 

 クレンシアには気づいていた。

 それは今角にいるというところではなく、ギュドスと会話している時から訓練場をコソコソ覗いていたことを分かっていたのだ。

 

「うう……失敗ですね」

 

「おどかすならあっちにしとけ。気づいてなかっただろうからな」

 

「今度はそうします」

 

 クレンシアはニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「用がないなら俺は行くぞ。眠いんだ」

 

「私もお話ししてくださいよ?」

 

「お話ってなんだ? 今更好きな食べ物でも教え合うか?」

 

 こんな場面見られたらまたギュドスが鬼のような顔をすることだろう。

 

「うーん、その皮肉屋さんな態度はずっと変わりませんね」

 

「皮肉だなんて……俺は生まれたての子供のように純粋なのにか?」

 

「流石に赤ちゃんのように純粋とは言えませんよ」

 

「そうか、見る目がないな」

 

 皮肉屋だなんて酷いことを言う。

 それじゃあまるでゲルディットみたいじゃないか。

 

「エリシオさんの能力はとても優れていますね」

 

「皮肉の能力か?」

 

「それもそうですが、剣の腕前や神聖力の扱い、それに肝の据わり方も」

 

「まだまだだ。そんな褒められたものじゃないよ」

 

「いいえ、とてもすごいと思います。もう本職の聖騎士さんにも負けないと思います」

 

「……そんなに褒めてどうするつもりだ?」

 

 やたらと褒めちぎる。

 気分は悪くないけれど、何か裏があるのではと疑う。

 

「……私とペアになるつもりはありませんか?」

 

「なんだと?」

 

「おじさまに言えば、配属先も今から決められます。エリシオさんがいてくださると嬉しいです」

 

「おじさん?」

 

「ええ。聖騎士の配属先も決められる偉い方なんですよ」

 

 クレンシアはニコニコとした表情を崩さない。

 

「どうですか? お望みなら……ちょっとだけで好待遇にもできますよ?」

 

「なんで俺を?」

 

「なんで、と言いますと……優秀な方はそばに置いておきたいじゃないですか?」

 

 俺はクレンシアの瞳の奥に妖しい光を見た。

 これまでただのお嬢様かと思っていたが、意外と何か抱えているのかもしれない。

 

「悪いな。俺にはもうやることが決まってるんだ」

 

「えっ? もう誰かにお誘いを?」

 

「ああ、悪魔が俺を呼んでるんだ。斬ってくれとな」

 

 研修を終えたら俺は悪魔祓いとして活動することになる。

 残念ながらクレンシアの誘いに乗るわけにはいかない。

 

「……今日の話は聞かなかったことにするよ」

 

 分からんが、クレンシアの知らない一面を見たような気がする。

 

「……残念ですが、諦めます。それではおやすみなさい」

 

「おやすみ。良い夢を」

 

「はい。エリシオさんも」

 

 俺は手を振ってクレンシアの横を通り過ぎて部屋に向かう。

 モテる男は辛いものだ。

 

 クレンシアが何をしようとしているにしても、俺には関わらないでほしいと願うのだった。

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