霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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87異常個体3

「暗くなってきたな」

 

 山に日が落ちていく。

 あっという間に周りは暗くなっていき、穏やかだった自然が少しの不気味さを帯び始める。

 

 山間を駆け抜けてくる風が焚き火の炎を揺らす。

 この世界も自然に動物は存在していて、大きくは俺が元いた世界と変わらない。

 

 フクロウの鳴き声がしっとりと聞こえる。

 安全な場所であったなら風情もあると思えたろうが、今はフクロウの声すら不気味に感じられる。

 

「明日も朝早くから動くぞ」

 

 ゲルディットは長い枝を二つに折って焚き火に放り込む。

 

「歳を取ると長くは眠れん。俺が長く見張りをするからお前らは先に寝るといい」

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 俺は荷物の中から厚めのマントを取り出す。

 野宿で寝るのにふかふかのベッドなんて望めない。

 

 仕方なく厚めのマントを体に巻いて寝るのだ。

 

「あれだな。ネックピローが欲しいな」

 

「ネック……?」

 

「首に巻く枕だよ。寝る時にいいと思わないか?」

 

「……いいかも」

 

 旅を快適にするようなアイテムも少ない。

 ここは転生者らしくアイデア出して何か作ろうかと思ったこともあるけれど、結局めんどくさくてやめた。

 

 だが作れそうなものは作ってもいいかもしれない。

 

「さて、そろそろ寝……られないか」

 

 マントを体に巻いた俺は思わずため息をついた。

 周りが静かすぎる。

 

 風の音、風に揺れる木の葉の音は変わらずだが、静かな中に聞こえていた動物の音が聞こえなくなった。

 

「はぁ……」

 

 動物ってやつは敏感だ。

 たとえ離れていても異変を敏感に感じ取り、巻き込まれないように息を潜める。

 

 動物の気配が感じられなくなったということは何かの異変が起きている可能性がある。

 盛大にため息をついて、俺は剣を手に取った。

 

 マントを乱雑に荷物に押し込み、焚き火を背にして立ち上がる。

 ゲルディットとパシェも同じく周りを警戒する。

 

「何か……いるのか?」

 

 焚き火を囲うように三方向を向いて森を睨む。

 三人それぞれうっすらと魔力の黒いオーラをまとう。

 

 焚き火に照らされた影が長く伸びて、風に炎が揺れるたびに影も揺らめく。

 

「……何かいる。臭いを、感じる」

 

 獣人であるパシェは俺なんかよりも鼻がいい。

 そのパシェの鼻が何かを感じ取っている。

 

「てことは向こう側だな」

 

 風は山間の方向から吹いている。

 臭いを感じる、ということは風が吹いてくる方向に何かがいることになる。

 

「向こうに何かいる!」

 

 風が一際強く吹いて、木が揺れた。

 揺れる葉っぱの向こうに何かの影が一瞬見えた。

 

「来るな」

 

 肌に感じる戦いが起こる前のピリピリとした独特の空気感が高まっていく。

 

「隠れること止めたようだな」

 

 木の葉のガサガサとした音が大きく聞こえる。

 相手は息を潜めることをやめて木の上を移動している。

 

「とりあえず一体ですかね」

 

「そのようだな」

 

 道の向こうの森に何かが移動する。

 暗くて黒い塊にしか見えないが、少なくとも何かがいることは完全に目視できた。

 

「パシェ、そっちだ!」

 

 木の上から飛び出してきたそれはパシェに襲いかかった。

 

「くっ!」

 

 一瞬ゴリラかと思った。

 体に不釣り合いなほど太い腕をした二足歩行の化け物がパシェに向かって腕を振る。

 

 パシェは剣で受け流そうとするも、化け物の力が強くて大きく後ろに押し戻された。

 

「ツノがない。魔物だな。だが……」

 

 顔は猿と人の中間のよう、どちらかといえば猿寄り。

 体は毛に覆われていて、猿のような見た目をしているのだけど、体そのもののシルエットは人だ。

 

 そしてやはり注目すべきは腕である。

 人ではありえないほどの太さをしているが、それは何本もの人の腕が捩れるように巻き付いて一本の腕を形作っている。

 

 悪魔にも魔物にも見える。

 ただ額や頭にツノはない。

 

「だがなんですか?」

 

「悪魔になりかけてるな」

 

 額がわずかに膨らんでいる。

 ツノではないが、そのまま膨らんでいくとツノになってしまいそう。

 

「悪魔になりかけ……?」

 

「話は後だ。今回のことの原因はあいつだろう。倒すぞ!」

 

 悪魔になりかけているというのがなんなのか、俺にはよく分かっていない。

 ともかく魔物を目の前にして悠長に会話している余裕はない。

 

「変な声出しやがるな」

 

 南米の鳥のような甲高い音を出して魔物は鳴く。

 

「パシェ、大丈夫か?」

 

「うん、ちょっと腕が痺れるかな」

 

「パシェがそうなら、攻撃は受けないほうがいいな」

 

 パシェは軽く手を振って、調子を確かめる。

 直接攻撃を喰らったわけじゃないから大丈夫そう。

 

 けれども剣越しに腕が痺れるほどのパワーは侮れない。

 

「相手は魔物だ。神聖力はいい」

 

 魔物にも神聖力と魔力を混ぜた銀のオーラは有効だ。

 ただ悪魔に対するものほど効果は高くない。

 

 ならば俺もしっかり魔力を使って三人で戦った方が効率が良さそうだった。

 

「避けろ!」

 

 腕ゴリラ魔物が飛び上がる。

 腕を振り上げ、大きく叩きつける攻撃を俺たちは飛び退いてかわす。

 

 地面が大きく叩き割られて、衝撃に驚いた鳥が森から飛んでいく。

 

「両断は難しそうだな」

 

 ゲルディットが腕ゴリラ魔物に斬りかかる。

 腕ゴリラ魔物はその太い腕でゲルディットの剣を受け止めた。

 

 そんなに硬さはないが、なんせ何本もの腕が寄り集まっているために意外と丈夫さがある。

 腕さえ無効化できたら容易いのだろうけれども、そう簡単じゃなさそうだった。

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