霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~ 作:犬型大
「知能は魔物……といったところかな」
俺たちは固まらず、三人で腕ゴリラ魔物を囲むようにして戦う。
パシェが俺やゲルディットよりも前に出る形で、腕ゴリラ魔物の注意を引きつける。
身体能力の高さを活かしたパワーの攻撃がこれまで目立っていたけれど、パワーを活かした防御と鎧や元々の体の頑丈さを上手く使ったガード性能は意外と高い。
腕ゴリラ魔物も賢く立ち回っている感じではなく、近い距離にいるパシェを主に狙っている。
パワーとスピードは魔物の中でも秀でているが、知能は魔物なりの低さでありそうだ。
「なかなか致命傷は難しいな」
三人の連携によって腕ゴリラ魔物の傷は増えていく。
けれどもどの傷も浅く、腕ゴリラ魔物は怯むことすらない。
「攻め方を変えてみるか」
細かい傷を増やしていったところで腕ゴリラ魔物は倒せない。
ゲルディットは狙いを変えた。
「ここはどうかな?」
一歩踏み込み、剣の軌道を変える。
柔らかな軌道を描いたゲルディットの剣が腕ゴリラ魔物の目を斬りつけた。
「おっ、効いてるな」
右目を切り裂かれて腕ゴリラ魔物が怯む。
俺はパシェと視線を交わして、挟み込むようにして攻める。
「はっ!」
ほぼ同時に俺とパシェの剣が腕ゴリラ魔物に襲いかかる。
「やっぱりマヌケだな!」
腕ゴリラ魔物は俺に背を向けた。
逃げではなく、片目しか見えていないために、俺に気づかずパシェの方を向いてしまったのだ。
パシェの振り下ろしは束になった腕に防がれる。
何本か腕が切り落とされるが、大きな影響はなさそうだ。
「くらえ!」
俺はガラ空きの背中に剣を振り下ろす。
剣は深々と腕ゴリラ魔物の背中を切り裂き、しっかりとした手応えがあった。
濁った赤黒い血がドロっと背中から流れ出す。
「なっ!?」
このまま押し切って倒してしまおう。
そう思った瞬間、腕ゴリラ魔物は飛び上がった。
俺たちは身構えたけれど、腕ゴリラ魔物はパシェの上を通り越してしまう。
そのまま森に飛び込んで行き、闇に消えていく。
「に、逃げた……」
俺は思わず呆然としてしまう。
魔物は基本的に逃げない。
だから厄介なのだ。
死ぬまで襲いかかってくるから油断せずにしっかりとどめを刺してバラバラにする。
悪魔はズルいので不利を悟れば逃げることもある。
腕ゴリラ魔物は魔物のはずなのに、自分の不利を感じて逃げ出したのだ。
「アレは危険だな」
ゲルディットはため息をつきながら剣を収める。
森の中は暗く、全く視界が確保できない。
片手に松明持ちながら戦うのも難しく、追いかけることは得策ではない。
「アレ、なんですか?」
悪魔になりかけで、逃げてしまう魔物なんて俺は知らなかった。
「悪魔というやつはどうやって生まれるのか分かっていない。だが、一部の魔物が悪魔になってしまうということが分かっているのだ」
戦っている間に焚き火の勢いも弱くなってしまっている。
ゲルディットは適当に枝を炎の中に放り込む。
「長く生きて、多くの人を殺して食った魔物は時として悪魔となる」
「……悪魔になったら?」
「強くなったり、体が変化したり、悪魔のようにツノが生える。他にも……知性的になることがある」
「逃げたり?」
「ああ、まだ知能はただの魔物と思ったが、そうでもなかったようだな。悪魔になりかけの異常な個体……悪魔と魔物の中間として中魔と呼ばれている」
「中魔……」
悪魔や魔物に関しても、まだまだ知らないことがある。
俺は思わず腕ゴリラ魔物が逃げた森を見る。
バタバタ聞こえていた枝が折れるような音はもう聞こえてこない。
「夜が明けたらあいつを追うぞ。悪魔になる前に倒さねばならない」
ともかく今戦ったのは悪魔になるかもしれない危険な魔物。
今倒さねば被害者が増え、悪魔になってしまう。
俺がざっくりと切りつけたので、腕ゴリラ魔物の方も遠くまでは逃げられない。
日が出たら追いかけて、倒す。
俺たちは戦いの興奮で眠れぬ夜を過ごし、朝を待つことにしたのであった。
少しでも寝ればいいとゲルディットは言うが、募るもどかしさは俺の神経を尖らせるばかりなのだった。