霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~   作:犬型大

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89夜明けの戦い1

「本当にこいつ悪魔になるんですか?」

 

 日が昇り、空が白んできた。

 俺たちは結局眠れず、夜明けと共に出発した。

 

 腕ゴリラ魔物が逃げていった方向に向かって、森の中に入っていく。

 追跡できるかどうか不安はあった。

 

 だが思いの外、追いかけることは簡単そうだった。

 

「点々と血が残ってらぁ」

 

 なぜなら地面に血の跡が残っていたから。

 黒くてどろっとした血は地面にあって、よく目立つ。

 

 血を隠したりする知能は流石にないのか、点々と血が垂れていて道標のようになっている。

 足跡がある、木の枝が折れているとか他にも分かりやすい痕跡が残っていた。

 

 俺たちは腕ゴリラ魔物の痕跡を辿っていく。

 

「あいつは悪魔になりかけだ。ということは銀力が通じるはずだ」

 

 神聖力と魔力を混ぜた銀のオーラはそのまま銀のオーラと呼んだり、銀力や聖魔力と簡単に呼ばれることもある。

 教会公式では聖魔力となっているはずだ。

 

 ただ戦いの最中に聖魔力では神聖力や魔力とややこしいので、現場では聖魔力とあまり呼ばれなかったりする。

 

「こうなるともう一人、聖の力が欲しいところですね」

 

 ゲルディットとパシェは強いのだけど、ややバランスは悪い。

 どちらも魔の聖職者であり、実戦では魔と魔の組み合わせはほとんどない。

 

 俺は聖の力も持っているが、同時に魔の力も持っている。

 実際悪魔との戦いとなった時に、俺だって銀のオーラを扱えるのだから戦いところはある。

 

「まあ確かにな。だが今のところお前に頑張ってもらわねばな」

 

「新入りに負担強いるのはダメですよ」

 

「どこも人手不足だから。しょうがない。次の町に行ったらお菓子買ってやる」

 

「子供じゃない……とは言いたいところですけど、お菓子は買ってもらいますよ」

 

 俺の神聖力も意外と強い。

 自分を含めてゲルディットとパシェを支援する分には可能ではある。

 

 ただ戦いながら神聖力を送るのも楽ではない。

 二人同時に、自分も神聖力と魔力を扱いながらなんて俺だからできるところがある。

 

 だけど大変は大変なのだ。

 一人ぐらい聖がいて、パシェかゲルディットを支援してくれればありがたい。

 

「……酷いにおいがする」

 

 ヘルムの奥のパシェの目がクッと険しくなる。

 

「……腐臭だな」

 

 風が吹いて俺にも臭いが感じられた。

 何かが腐ったような不愉快な臭いがする。

 

「敵が近そうだ。財布の中の心配は生きて帰ってからにするとしよう」

 

「見事魔物倒して、財布空にして見せますよ」

 

 俺たちは剣を抜いて慎重に進む。

 

「あれ、見て」

 

「……うわっ」

 

 パシェが軽く上を向く。

 何かと思って俺も同じく上を向いてみて、思わず顔をしかめる。

 

「人をぶら下げてんのか? 悪趣味だな」

 

 木の上に人がぶら下がっていた。

 首が真逆を向いているのでどう見ても死んでいる。

 

 ただぶら下げ方がかなり特殊だ。

 枝に刺さっているでもなく、何かロープのようなものを使っているのもない。

 

「腕を縛って……」

 

 死体は腕が縛られてぶら下げられている。

 ただ何かを使って縛られているのではない。

 

 腕同士をまるでヒモのように縛っているのだ。

 

「どんな力でやったらあんなことになるんだ……」

 

 腕の骨をバキバキに砕いて、無理やり腕を捻ったのだろう。

 ただ普通の力では到底そんなことできない。

 

 さらには普通の倫理観でもそんなことできはしない。

 

「死人に剣を突き立てるのは心が痛むな」

 

 ゲルディットは木の枝を切って死体を下ろす。

 そして、やや渋い顔をしながら死体の胸を突き刺した。

 

「魔物ではないな」

 

 誰も好んで死体を毀損したいわけじゃない。

 死体に偽装した魔物や悪魔の可能性というのは確かめてみないと排除できない。

 

 緊急の状態なら死体を真っ二つにして確かめるが、今はまだ少し状況に余裕があるので胸に剣を刺す程度に留めている。

 こんな非道なことをしなきゃいけないのも、全部悪魔が悪い。

 

「なんだってこんなことを……非常食? それとも気味の悪いオブジェのつもりか……」

 

「魔物の気持ちなんぞ分からなくて結構だ。ただ往来で多くの人がいるはずなのにどうしたのか、これで分かったな」

 

 ゲルディットは先に目を向ける。

 よく見てみると他にも死体が木にぶら下げられている。

 

 少ない人が魔物に襲われたはずなのに、悪魔や魔物が可能性というところで留まっていたのは死体が見つからないからというところもある。

 失踪したなんて可能性だって否定できたものではないからそんなことになっていた。

 

 だが死体は腕ゴリラ魔物が持ち帰って、こうして木に吊るしていたようだ。

 

「はぁ……」

 

 死体が死体かを確認するのが面倒でゲルディットは盛大にため息をつく。

 俺も嫌だが、確認を怠って後ろから襲われたら笑い事じゃ済まない。

 

 大丈夫だろうという油断をした時が一番危ないのだ。

 

「ただ近そうだな」

 

 こんなところに死体をぶら下げてあるのだから、腕ゴリラ魔物が近くに潜んでいる可能性が高い。

 

「ええ、多分近いです」

 

 怨嗟の声が聞こえる。

 うるさくてたまらない。

 

 殺されて、奇妙なオブジェにされた人たちの霊が見える。

 辛さを、悲しさを、苦しさを訴える。

 

 おそらくまだ悪魔じゃないから幽霊には手を出していない。

 だからそこら中に霊がいる。

 

『お前もこちらに……』

 

「悪いな。霊体じゃ悪魔と戦えないんだ」

 

「イースラ?」

 

 俺は銀のオーラをまとって剣を振る。

 手を伸ばしてきた幽霊は銀のオーラに切り裂かれて、そのまま強制成仏となる。

 

「あの魔物……かなり前からここにいるみたいだな」

 

 怨嗟が深い。

 悪霊になりかけている幽霊もいる。

 

 被害が表面化したのは最近だが、下手するとかなり前から腕ゴリラ魔物はここに潜んで人を襲っていたのかもしれない。

 腕ゴリラ魔物を倒したら成仏してくれるだろうかと少し心配になってしまう。

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