復興文明拡大記 過ちを繰り返しながらも、進め―― 作:えぴっくにごつ
――その世界、その地は。一度死を迎えた。
大量破壊兵器の使用を伴う大戦争が巻き起こり。それによって数多くが破壊され、汚染され、無へと帰した。
人の犯し、繰り返した過ち。
最早、希望は無いかに思われた。
――しかし。人はしぶとく、諦めが悪く。
そして、強かった。
死の世界となったその内で、しかし生き残った人々は。
抗い、生き抜き。
そして復興の火を灯した――
彼――アイザック シサク フリーエスは。
荒廃した世界にて復興を掲げ拡大する、その「国」で生まれ育った。
〝VAC〟――それがその国の名称。
Variety Alive Country、「様々の生きている国」という意味。
在る形をそのまま国名として名称した、この荒廃した世界で再び興された一つの復興国家。
歴史を紐解けば。
VACの始まりは、一つの小さな生活コミュニティであった。
そこから年月を駆け、幾多の苦難を乗り越えて着実な復興拡大を辿り。
現在にあっては、その総人口を数百万に至るまでに回復させた、巨大国家となっていた。
未だ世界には、集落や部族、一独立組織の域を出ないコミュニティが多くある中。
それは頭一つ以上、抜きん出ているものであった。
未だ広く多くが荒廃し、非道や暴力がまかり通る世界の中で。
VACで産まれ、貧者の苦労も、裕福な者の苦労も知らずに育ったアイザックの生い立ちは、かなり恵まれたものであっただろう。
VACの内にて産まれ育ち、学校にて通い学んだアイザックは。
成人から間もなくVACの軍事組織である〝装備隊〟、AF(Arm Force)に入隊した。
正直なところ、アイザックには国への献身などといった考えはいまいち合わず。決して軍人、武官に向く気質ではなく。
入隊した理由は学生時代に選考取得していた技術分野、及びそれから得た資格が。たまたまAF士官の技術枠の募集要項と合致していたからに過ぎなかった。
そんな故に、入隊後に苦労が無かった訳ではないが。
しかし、AFにての技術資格士官としての日常は、過ごすうちに徐々にアイザックに馴染んでいき。
それからアイザックは今日までを、AFの士官兼資格技術者として。
退屈過ぎず、慌ただし過ぎずの日々で過ごしてきた。
――しかし、そのアイザックに。
世の中が、国が新たな指針を定めたことを起因しとして。一つの転機が訪れることとなる――
――ユニステラス大陸。
大戦争が起こるまでのかつてから、今も尚人々にそう呼ばれる巨大な大陸が、VACの存在する地。
VACは大戦争の後に誕生してから、最近に100年を越えたその歴史の中で、ユニステラス大陸にて勢力圏を拡大野心のままに広げ。
現在には大陸の西側海岸線から始まる1/4の地を掌握、その領土として強固な基盤を築くに至っていた。
そんな広大な領土を現在に保有するVACだが。しかし、その領土拡大の野心は未だに冷めずにいた。
それはただの単純な拡大欲求では無く。
落ち着きつつはあるが、未だに増加傾向にある人口を支えるため。
そして未だ無法の元にある大陸の未踏個所を掌握し、安全圏としたいがためなど。
いくつかに渡る理由があった。
そして最近にようやく、領土周辺にて抱えていた大小の小競り合いに勝利、その沈静化に成功し。大陸の西側地域広くを完全に掌握するに至ったVACは。
いよいよ未踏の地であり未だ混沌の中にある、大陸中央部にその手を伸ばす決断を下した。
そのために、VAC AFから多くの隊がその作戦行動のために指定、投入される運びとなったが。
その内の隊の一つの隊長として、白羽の矢が立てられたのが。他ならぬアイザックであった。
何の因果か、その指定指示にアイザックは隠すことなくボヤきを零したが。
ともあれ、アイザックは先遣調査のために編成されたいくつかの隊の内の一つ。
「第14前進観測隊」を任されることとなり。未踏の大陸中央部の地を踏むこととなった――
VAC本国を経って離れ、定められた「第一次目的地」を目指しての進路行程を始めた第14前進観測隊。
繰り出し踏み入った先は、荒廃からほとんど回復できておらず、暴力に非道がまかり通る無法地帯。
行程の最中には、その中を跋扈する「ローグ」と呼ばれるならず者や、過激な部族などとの接触交戦が幾度かあったが。
しかし腐っても巨大国家の武力組織であるAFは、これらを容易く退けてのけ。
その行程はおおむね順調に進んでいた。
しかし現在。
前進観測隊は所定ルートの通過ポイントであった、打ち捨てられた中規模の街を直前にして、その進行を一時停止していた――
「――」
時刻は日中。空は、荒廃した地上に意図せず似合う形で、薄灰色の雲が覆っている。
その元、荒れて乾いた荒野の上。
轍の上に十数両のソフトスキン車輛と、数両の装甲車に装甲戦闘車両からなる、第14前進観測隊の車列隊形が並び停車している光景がある。
その中程付近。汎用軽量四輪駆動車の前に立ち、そのボンネット上を作戦卓代わりにして前に立つ、一人の人物があった。
齢にして三十代半ばの男性。
長身めで、最低限鍛えられた体躯に。VAC AFの採用するカーキ色の作戦行動服(フィールドジャケット)を纏う姿。
襟元にはAFの代佐(少佐と大尉の間に位置する)の階級章。
被るキャンペーンハットの元には、堀の深く、険しくやや陰険そうな造りの顔が覗いている。
それが、アイザック当人だ。
そんな容姿姿のアイザックは、今は作戦卓代わりにするボンネット上に広げた地図に視線を落とし。時折何かを書き込む動きを見せている。
「――続報か?」
だがアイザックは次には、隣近くで指揮下の通信員が扱う通信機が、音声を発し届けたのを逃さず聞き留め。
扱う通信員に、そんな尋ねる旨の一声を向ける。
「えぇ、しかし目新しいものでは。「街」からの戦闘音はさらに少し増加、位置は少しづつ移動中と」
「なるほど」
尋ねた声に、通信員から返されたのはそんな回答。
それにアイザックは、また淡々とした色の一声で返す。
「観測中の偵察狙撃班が、先行しての街への進入配置を求めていますが」
「もう少しの辛抱と伝えろ。基準小隊が間もなく準備完了して追い付く、足並みを揃えさせたい」
「また慎重過ぎとボヤかれますよ」
「好きなだけ言うといい」
アイザックと通信員は、さらにそんな報告取り次ぎや回答。併せての少しの無駄口を交わした後。
通信員は通信機に向き直り、アイザックも視線を地図上へと戻す。
「――アイザック」
しかしそこへ入れ替わり、アイザックの視線を止めて引くように、今度は正面から声が掛かった。
降ろし掛けた視線をまた起こして、アイザックが見たのは。向こう正面より近づいて来る、まさに偉丈夫を絵にしたような男性隊員だ。
「ドゥインか」
陰険そうな気配の見えるアイザックに対して、健康優良そのものな容姿のその隊員を見止め。
次にはアイザックは、その名前を読んで返事を返した。
ドゥイン クォーマン一等曹。
第14前進観測隊の内に編成される、偵察狙撃班所属の隊員。
明かせばVACにての中期、高期学校時代からのアイザックの友人であり。AFにては思わぬ再会を果たした腐れ縁の間柄。
それゆえAFにて階級は違うが、基本は気を使い合わずに話し付き合う仲。
アイザックはやや不健康なきらいのある学者肌であるのに対して。
ドゥインは根っからの軍人、スポーツマン気質な人物。
だが互いに気質が違うからこそ、妙にウマが合い。長らくの付き合いに至る間柄であった。
「基準小隊はおおよそ戦闘編成完了、間もなく作戦行動可能になる。中尉が最後の詰めに集中してるから、俺が変わって知らせに来た」
「あぁ、了解」
その現れたドゥインから寄越されたのは、また前進観測隊に組み込まれ主力戦闘を担う「基準小隊」の、おおよその準備完了を伝える旨。
「向こうの状況は入ってるか?」
「戦闘音は次第に増加、レーザー火器や自動火器の音が多数だそうだ」
「……ここまでのローグたちの類じゃなさそうだな」
それから状況状態を求めたドゥインに、アイザックは現状の知る限りを返し。
そこからドゥインは嫌でも推察できる事項を、言葉にする。
「後は、行ってみて確認するしかない。各隊の進入予定経路は先から変えてない、中尉に伝えてくれ」
「了」
「よし、行くか。先行の狙撃班が痺れを切らしてる」
そしてそんな会話を交わした後、それを区切りとして。
ドゥインは身を翻して戻って行き。
「各員、乗車――ッ」
アイザックは周辺周囲の指揮下の隊員に合図、乗車を命じ。
そして自身も、同行する本部要員の隊員等と合わせて汎用四駆に飛び乗り。
「戦い」に臨むべく、行動を開始した。