機動戦士ガンダム ダブルバード 「Rewrite」 作:くろぷり
宇宙世紀0140年
地球連邦政府の統制が緩み、「宇宙戦国時代」と呼ばれる混沌の時代が始まっていた。
各スペースコロニーは独自の経済圏を形成し、資源の偏在と貿易摩擦が表面化していく。
豊かなコロニーでは豪奢なドーム都市が輝き、貧しいコロニーでは酸素配給すらままならない日々が続いていた。
そんな時代……
サイド1にあるアルバニアン・コロニーに開設された小さな相談所から、一つの物語が動きだす。
店主の名は、マリア・ピァ・アーモニア……若い女性だった。
幼少期に両親を失い、弟クロノクルと共に極貧生活を送ったマリア。
娼婦や占い師をしながら、弟を守りながら必死に生きていた。
そんなある日、子供を身籠ったマリアは自らの内に眠っていた「癒しの力」に目覚める。
触れるだけで病を和らげ、精神の傷すら癒す程の力。
民衆は、それを「母なる慈悲」と呼んだ。
マリアの穏やかな声と、奇跡のような癒しは瞬く間に民衆に広がっていく。
相談所は連日行列ができ、多くの信奉者がマリアの周囲に集まってきた。
そして「マリア光の教団」が、アルバニアン政庁に認められる。
それまでは、ただの占い師と宗教団体に過ぎなかった……
その頃、サイド2のアメリア・コロニー。
ここでも、もう一つの物語が産声を上げる。
サイド2のアメリア政庁を始めとする各コロニーで、スペースノイドの自治権を認めさせる動きが活発になっていく。
そんな中、政治的武道集団「ガチ党」を率いる男フォンセ・カガチが猛烈な勢いで台頭していた。
カガチは、地球連邦による支配脱却と人類社会のシステム再構築を唱える。
木星帰りの強靭な肉体と過激な演説で、カガチは経済格差に喘ぐ若者たちを組織化。
マリア光の教団の噂がアメリアにまで波及すると、カガチは即座に接触を図る。
二つの物語は、この時交わった。
母なるものを大切にするという、マリア主義。
政治的武闘集団である、政治結社ガチ党。
マリア主義の理念を取り込んだガチ党は、アメリア政庁議会で急速に議席を増やしていく。
宇宙世紀0147年
運命の年。
アメリア政庁の政権与党になったガチ党は、賄賂罪で起訴された有力政治家を議会公開の場に引きずり出す。
そしてカガチ自らが壇上に立ち、声を張り上げた。
「この男は民衆の血税を私腹に肥やした! 宇宙世紀にふさわしからぬ、中世の裁きを下す!」
広場に据えられたのは、ギロチン。
宇宙世紀となり、生身の人間同士で争う事が減った時代……血を見る機会など、ほとんどなかった。
断頭台の刃が落ちた瞬間、鋭い金属音が響き渡る。
鮮血が飛び散り、首が転げ落ちた。
民衆は、息を呑む。
恐怖が、コロニー全体を覆っていく。
その日から、ガチ党の恐怖政治が始まった。
反対派は、次々と公開粛清の名の下にギロチンへ。
人々の思考は麻痺し、マリアの慰謝の言葉だけを頼りに生きるようになった。
「母なる存在を守るために……」
こうしてガチ党は、アメリア政庁の与党となる。
宇宙世紀0149年
サイド2アメリア・コロニーを首都に、ザンスカール帝国を樹立。
マリア・ピァ・アーモニアを象徴的な女王に戴き、フォンセ・カガチが実権を握る独裁国家が誕生した。
独立国家を守る為の力、ザンスカール帝国の軍隊ベスパが設立も同時期に行われる。
ベスパとは、バリスティック・エクィップメント・アンド・スペース・パトロール・アーモリーの頭文字をとっており、名称は駐留していた地球連邦軍の機関名を継承していた。
それでも地球連邦政府は、沈黙している。
経済的な繋がりと、正面衝突のリスクを恐れたのだ。
しかし、沈黙に耐えられなかった者達がいる。
神聖軍事同盟……通称リガ・ミリティア。
民間有志による、ゲリラ組織……しかしその実態は、女性や老人が主なメンバーである。
大きな力を持たないリガ・ミリティアは、それでもザンスカール帝国軍ベスパと敢えて戦いを挑む。
地球連邦軍に決起を促すことを、唯一の戦略として……
だが、広まっていく宗教は団結を生む。
「女王マリアに刃向かうなど、狂気の沙汰だ」
民衆の多くはそう吐き捨て、ザンスカール帝国の庇護を求めた。
リガ・ミリティアは孤立無援、補給すらままならない苦戦を強いられていく。
連邦の無関心は、ザンスカールの野望を加速させる。
ベスパ艦隊は着実に増強され、地球圏侵攻計画すら現実味を帯びてきた。
もう、誰も止められない……
そう、誰もが思っていた……
ザンスカール帝国によって、宇宙が支配されていく。
そんな絶望の宇宙に、閃光のように三人の青年が現れた。
そして炎のように燃え尽き、消えていく。
一人は、混乱のサナリィを生き抜いたエース・パイロット。
彼がもたらした戦果と戦術は、リガ・ミリティアの最高幹部ジン・ジャハナムたちに、民間モビルスーツ開発計画であるV(ヴィクトリー)計画の発動を決意させる。
もう一人は、強烈なニュータイプ能力を持つ少年。
彼の存在がダブルバードの開発を加速させ、ミノフスキー・ドライブの完成を実現させた。
そして、もう一人……女王マリアの衛り手として、戦場を駆け巡ったニュータイプ。
二人の希望を繋げ、地球連邦の心に最後の灯りを生み出す。
三人はザンスカール帝国の追撃を受けながら、希望を繋げる為に戦い続ける。
リガ・ミリティアに希望の種を蒔き、自らの命と名を代償に未来を切り開いた。
宇宙世紀0150年
ウッソ・エヴィンが宇宙世紀にその名を刻む、僅か3年前……
時は宇宙世紀0146年へと、巻き戻る。
ガチ党が恐怖政治を開始し、リガ・ミリティアが軍事の必要性を感じ始めた頃……
女王マリアの娘シャクティは地球へと降り、ロブ爺さんの息子ニコルは漁村で平和に暮らしている。
まだ地球は、宇宙の混乱を感じてはいなかった……