機動戦士ガンダム ダブルバード 「Rewrite」   作:くろぷり

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挑戦する翼

 宇宙の漆黒を、青白いバーニアの閃光が切り裂いた。

 

 その光の尾を引きながら、白と青の鮮やかなコントラストを纏ったモビルスーツが優雅に旋回する。

 まるで闇に挑む、一羽の鳥のように。

 

「これは、良い機体だな! エステルのばぁさんは、相変わらずイイ仕事をするぜ!」

 

 通信機越しに響く豪快な声に、作業デッキに立つ老婆が満足げに頷く。

 

「あたり前だろ! その機体には、リガ・ミリティアの命運がかかってるんだ! 中途半端なメンテなんて、するわけないだろ! なぁ、ミューラさん」

 

 エステルは力強い二の腕を誇示するように胸を張り、隣に立つ金髪の女性に話しかける。

 

 話しかけられた女性……ミューラ・ミゲルの目は、宇宙を舞う白と青の機体を慈しむように細められている。

 

 ミューラは僅かに浮かない表情を浮かべながらも、唇の端に小さな笑みを湛えた。

 

「そうですね。量産機のガンイージも、ロールアウト間近です。元サナリィの技術者たちも、夜を徹して作業してくれていますから」

 

ミューラの視線は、白と青の美しいモビルスーツ……トライバード・ガンダムに注がれていた。

 懐かしい友に再会したような、しかしどこか曇った複雑な瞳。

 

「ガンダム……」

 

 その呟きは小さく重く、宇宙の虚空に溶けていくように消えた。

 

 エステルは、それを聞き逃さなかった。

 老婆らしい温かな、しかし芯の強い声で明るく言う。

 

「トライバード・ガンダム! 良い名じゃないか! 今の私達には、ぴったりのネーミングさぁね!」

 

 挑戦する、鳥翼。

 挑戦するために翼を広げ、飛翔する。

 

 レジスタンスがザンスカール帝国という圧倒的な壁に立ち向かう、無謀とも言える挑戦。

 その壁を乗り越えるための、象徴。

 それが、トライバードに込められた意味だった。

 

 コクピットから、再び大きな声が響いてくる。

 

「そうだな! このトライバード・ガンダムは、俺たちに希望をくれるはずさ! こいつをベースに、早いトコ『V』の名を冠するモビルスーツを開発してくれよ!」

 

 普段の彼からは想像つかない、明らかに興奮を抑えきれない声。

 

「レジア! 大声出すな! やかましい!」

 

エステルが、母親のような叱咤の声を飛ばした。

 

 レジア・アグナール。

 リガ・ミリティアのエース・パイロットだ。   

 ザンスカール帝国建国直前、サイド2・サナリィでの軍事介入事件でその名を馳せる事になる。

 旧式であるジェムズガンで、ミノフスキーフライトを標準装備したザンスカール帝国の最新鋭機ラングを五機も撃墜したという伝説を持つ。

 

 その戦果がなければ、リガ・ミリティアが「V(ヴィクトリー)計画」を発案し、ガンダム伝説を現代に甦らせようとする試み自体も生まれなかっただろう。

 

「レジアさん。トライバードは、Vガンダムの雛型です。大事に扱って下さいね」

 

 ミューラの穏やかだが真剣な言葉に、レジアは即座に明るく答えた。

 

「もちろんさ! オレがガンダムパイロットになれたのは、ミューラさんのおかげだ! 出来る限りのデータと、戦果をあげてみせる!」

 

「だから、うるさいって言ってるだろ! いい年して、落ち着きのない!」

 

 エステルは大きなため息をつきながらも、トライバード・ガンダムのバーニアが放つ青い輝きを誇らしげに眺める。

 

 ミューラは一人、静かに胸中で思いを巡らせていた。

 

(この機体……それに、ヴィクトリー計画のモビルスーツだけでは、勝てない。ミノフスキー・ドライブの実戦投入を、出来るだけ早くしないと。試験段階であるミノフスキー・ドライブ……まだまだ不安定な技術だから、実戦のデータが必要。でも試作機を作って、実験している余裕なんてない。時間もお金も無いんだから……不安定でも、実戦で使ってもらうしか……)

 

 ミューラの頭の中には、すでに次の段階の構想がある。

 ミノフスキー・ドライブ。

 余剰粒子を外部に排出する独自のシステムを備えた、革新的な推進機構。

 しかしその「羽」はあまりにも長く、扱いが難しい。

 現在のレジアでも、完全に使いこなすのは至難の業だろう。

 

(あれを装備しても、使いこなせるパイロットが……)

 

 言葉には出さず、ミューラはただ宇宙の闇を見つめる。

 トライバード・ガンダムが奏でるバーニアの音だけが、静かに力強く響いていた。

 

 やがて二つの翼が重なり、希望の軌跡を描く日が来る。

 ミューラは、その時がくる事を夢見ていた。

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