転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
空から爆薬を投下する蝙也に対し、宇佐美が迎撃に乗り出す。
しかし、神谷艦隊には新たな危機が迫っていた。
上から来る爆薬なんぞ、どうやって避けろってんだ。
甲板へ出た途端、海風に混じる火薬の臭いでむせそうになる。元込め式の施条長銃を抱える腕にも、船の揺れとは違う衝撃を食らう。艦橋の中で指図を聞いているうちは、厚い鉄板を頼りにできる。こうして空を見上げてみると、頭を覆うものなんざ何もねえ。
俺たちの船は、海上の敵と撃ち合うための船だ。空から爆薬を放り込まれる想定なんて、砲術の稽古で聞いたためしもない。
空を自在に飛ぶ機械なんぞ、百年ほど後なら出来るかもしれねえが、今そんな先の話を考えても始まらねえ。現に、頭の上には飛び回る野郎がいる。
砲塔のそばでは消火に追われ、機関砲の射手たちは見えもしない空へ撃ち続けている。弾を惜しむ場面じゃねえ。しかし、狙いもなしに撃ち尽くすのは勘弁してくれ。あの野郎、こちらの灯りを見ながら投げる場所を選びやがる。
「探照灯の光を惜しむな! 照らせ照らせ、どんどん空へ向けろ! 影を見つけたら、小銃隊も残らず撃て! 落ちてくる爆薬は空中で撃ち散らす! 甲板へ届く前に落としちまえ!」
「応っ!」
返事を聞く間にも、舷側の外で爆薬が弾ける。海水を頭からかぶるくらいなら、いくらでも我慢してやる。あんなもんを足元へ落とされたら、鉄板は無事でも俺たちの身体は持たねえ。
「海へ落とせ! 船腹なら耐えられる! 甲板へ通すんじゃねえぞ!」
白い光を追って、銃口も空へ向く。霧まで明るくなるせいで、その向こうを見通しにくい。見張り台からの声に合わせて目を凝らすと、右手の光の縁に、小さな赤い点を見つける。
あれか。
筒そのものは黒く、まるで見えねえ。だが、火の粉をこぼしながら落ちてくる導火線までは隠せまい。火をつけずに放れば爆発しない。つければ、こちらからも見える。よく出来た仕掛けにも、使う時には面倒なところがあるもんだ。
火を銃で追う。船も揺れるし、足場も滑る。そんなことは、乗り込む前から承知の上だ。俺は陸でしか当てられねえ射手を名乗っているつもりはない。
「そこだ!」
撃った瞬間、赤い点のそばで爆発が起こる。飛び散る筒の破片は、舷側を越えて海へ落ちていく。別の火を見つける。次から次へと惜しげもなく投げやがって。
何本ぶら下げて飛んでいるんだ、あの野郎。
「火を見ろ! 黒い筒を探すな! こっちへ落ちるものから撃て!」
俺の隣でも小銃が鳴る。途中で弾ける爆薬もあれば、海へ落ちてから水を吹き上げるものもある。これで全部防げるとまでは言わねえ。空を飛ぶ本人を仕留めるまで、射手たちの頭上を空けずに済めばいい。
「なっ……この闇と霧で、黒く塗った爆薬筒を撃ち落とすのか!」
上から聞こえる声に、思わず笑っちまう。そんなに驚いてくれるなら、こちらも苦労した甲斐があるってもんだ。
「へっ! 見えてるんだよ、てめえの親切な導火線の明かりがな!」
探照灯の先に翼を見つける。人間の腕よりはるかに長い骨組みを広げ、船の上を斜めに通り過ぎていく。蝙蝠に似せてあるが、羽ばたく様子は見えねえ。身体を傾けると翼も傾く。やけに軽そうな男で、着物の膨らみすらほとんどない。
風を受けて滑っているのか。あれなら俺にも、次にどっちへ行くか見当をつけられる。
もっとも、一度見えたからといって引き金を引くほど、こっちも気は短くねえ。
高い位置から爆薬を投げる時と、機関砲から逃げる時とで、翼の使い方が違う。
先ほどは畳んで急降下し、今は広げたまま大きく曲がっている。曲がりながら急に上昇する姿は、一度も見ていない。
船の上で爆発が起こると、その風を受けて高度を戻しやがる。なるほど、あの爆薬には、自分を浮かせる役目もあるわけか。敵の船を燃やしながら飛ぶなんぞ、随分と都合のいい芸を身につけたものだ。
だが、爆風に乗れない時には、徐々に高度を落としている。好きな方へ飛び回っているように見えて、逃げ道は案外限られる。翼を畳んで落ちるか、傾けて曲がるか。
こちらへ腹を見せたまま、真上へ逃げるのは無理らしい。
そこまで分かれば、追いかけ回す必要もねえ。
「右の灯り、追い越すな! そいつの翼を照らしとけ!」
肩に長銃を据える。小銃隊には爆薬の迎撃を任せ、俺は翼から目を離さない。ど真ん中を撃てば早い。普段なら迷いもしねえ狙いどころを、今夜は外さなくちゃならない。
うちの首領からの言いつけを思い出す。技術のある人間は国の宝。出来る限り生け捕りにして、働ける場所を与えろ。そう仰る時の薫さんは、そりゃあ愛想のいい顔をなさる。
殺すより捕らえる方の身にもなってほしいもんだ。就職先を世話してやる義理なんざあるのかね。いや、あるんだろうな、あの人の勘定では。
俺だって、こんな飛び方を編み出す腕は惜しいと思う。敵の頭上まで行けるのなら、海を渡る使い道も、荷を運ぶ使い道もあるだろう。まず爆薬を手放させて、それから落ち着いて話を聞けばいい。手を止めるまでは、多少痛い目を見てもらう。
「なら、狙い撃つまでよ!」
一発目で、右の皮膜に穴を開ける。傾く翼を支えようとする腕を避け、二発目は反対へ撃ち込む。
急所を外す射撃なんぞ、首領に仕えていなければ、ここまで稽古する気にはなるまい。
最後の一発で、広げ直しかけた皮膜を裂く。両足を振り回す姿に、もう先ほどの余裕はない。
「ぐわっ! 翼を……俺の翼を狙っているのか!」
「身体に当ててほしいなら、そう言え!」
返事の代わりに、長い悲鳴が聞こえる。破れた翼を広げても落下は止まらず、身体ごと回りながら、舷側の向こうへ落ちていく。海へ叩きつけられる直前、探照灯に細い顔と歯を食いしばる口が見える。
あの高さから落ちりゃ、無傷じゃ済まねえ。生きていてくれよ。撃ち落としておいて勝手な頼みだが、死なせるつもりで撃ったわけじゃない。
「回収船へ知らせろ! 落ちた場所を照らしとけ! 翼に絡まって沈むぞ、急いで網を出せ!」
片側を持ち上げようともがく腕を認めて、ようやく息をつける。しぶとい野郎で助かるぜ。
もう一度見回す。他にも飛んでいる奴はいねえな。残った爆薬にも火は見えない。探照灯を海面へ戻させてから、長銃の弾を補う。
肩の力を抜くのは、全員を船へ戻してからにしよう。燕の嬢ちゃんにも、片づいたと知らせなくちゃならねえ。
◇◇
「ふう……これで、予定外の危機は去りましたね。宇佐美さんの腕前、流石です」
双眼鏡を下ろすと、指にずいぶん力を込めていることに気づきました。
落ちてくる火薬筒を見上げたまま、顔を伏せることすら忘れていました。
男には、回収船を向かわせます。生きて引き上げられれば、首領の言いつけも守れます。
翼の仕掛けについては技術開発室で調べてもらいましょう。
ただ、あの飛び方を味方に出来るとしたら、弥彦ちゃんにも見せたいですね。きっと、自分でも飛んでみたいと言い出します。
「回収は後方の船へ任せます。こちらは敵艦を……」
「師範代! 敵艦、真正面です! こちらへ突っ込んできます!」
窓の向こうに、黒い艦首が見えます。先ほどまで目で追っていた距離と、まるで違います。砲の向きを確かめるまでもありません。こちらの船腹へ向けた衝角を、肉眼で見分けられます。
「なぜ今まで気づかなかったのですか! もう至近距離ですよ!」
声を荒らげながら、舵を切る余地を探します。右には味方の船、左には負傷者を運ぶ小艇。
狭めた間隔を、今度はこちらから広げなくてはなりません。
全艦を一度に動かそうとすれば、命令を伝える間に突っ込まれます。
「申し訳ありません! 上空へ注意を向けている間に、無灯火で接近してきたようです。機関も全開です!」
「馬鹿ですか! 探照灯を何基もつけていたのに、あんな初歩的な目くらましで敵艦を見失うわけが……!」
言いかけて、窓の外に並ぶ灯りを見ます。どれも上空か、墜落した男のいる海面へ向いています
私は何人の見張りへ、その役目を言い渡したでしょう。
対艦射撃を続けるようには命じています。空の敵も撃ち落とせと命じています。
けれど、砲撃の報告を途中から聞き落とし、空へ向ける機関砲にばかり指図を出していました。相手の接近を自分では確かめていません。
見張りを叱れば、その時間に船を避けられるのでしょうか。そんなはずはありません。
「今の叱責は後にします。艦首を逃がして! 正面から衝角を受けないでください。近くの味方へ退避を伝えて!」
伝声管へ叫ぶ私の横で、操舵の返答が聞こえます。進路は変わり始めています。間に合うと信じて待つしかありません。砲撃で止めようにも、こちらの砲口は近すぎる敵艦へ追いつけず、反対側の味方から撃てば、この船にも当たります。
お彦さんへ、何と報告すればよいのでしょう。船を捕らえますと申し上げて出てきて、先に自分の船を奪われかけています。
落ち着きなさい、三条燕。弥彦くんの前なら、泣く前に何か出来るはずです。
砲撃と空襲を受けたあとですから、負傷者も、消火に当たる人もいます。全員を甲板へ集めて殴り合いましょう、なんて命令は出せません。
「機関室は今の仕事を続けてください。消火と救護の人員も持ち場を離れずに。戦える方を甲板へ回してください。敵は船を寄せてきます!」
宇佐美さんにも知らせなくては。この近さなら、あちらからも見えるでしょう。
けれど、空襲の後始末を続けていては、乗り込む敵に対応出来ません。連絡役を呼ぼうとした時、すぐ横で甲高い音を聞きます。
頬に熱さを感じ、思わず顔を引きます。額から三寸ほどのところに、見慣れない棒が突き出ています。銃弾ではありません。鉄柵に食い込む黒い矢です。
「……矢?」
矢羽は、まだ震えています。
「船と船の間を、弓で……」
距離は詰まっています。届くかどうかの話なら、不思議はありません。
問題は、揺れる二隻の船を隔てて、艦橋の私を狙い、この鉄柵へ深々と矢を刺せることです。あれを身体で受けたくはありません。
銃を持っているから有利と考えていては、こちらから負けに行くようなものですね。
艦首に、女の人が見えます。長弓を持ち、手すりに頼る様子もなく立っています。照明に浮かぶ褐色の肌。そして、両目を覆う赤い布。
あの女ですか。
相手をするために京都へ残るつもりでいたのに、大阪まで来て出会うとは。
お彦さんの命令に従って艦隊へ移る時には、残念に思いました。その相手を前にして、こちらから撃つより早く矢を通されるなんて、悔しいにも程があります。
それに、あの女の人は目を覆っています。私の位置を何で知るのでしょう。
声でしょうか。砲撃の最中にも聞き分けられるほど、耳がいいのでしょうか。考えている間も、その顔は私のいる方へ向いています。
「へっ、挨拶代わりの一射だ。白兵戦だぜ、方治! 文句はねえよな!」
挨拶で済ませるつもりなんて、ありませんよね。少しでも位置を違えていれば、私の額に刺さっていました。わざと外してみせる腕前を誇りたいのか、本気の狙いを外して強がっているのか。
「大艦隊に囲まれては、砲撃戦に勝ち目はない! 敵の懐へ飛び込むしか活路はないのだ! やむを得ん、総員、白兵戦! 敵旗艦へ斬り込み、力ずくで乗っ取れ!」
向こうの甲板から鬨の声が上がります。砲撃を止めてでも寄せてくる理由は、これですか。相手の船を手に入れようと欲張っていたのは、私たちに限りませんね。
今撃てば、霙の背後にいる兵士たちも巻き込めます。けれど、近くの砲は向きを変える途中です。私の短銃で全員を止めることも無理でしょう。先ほどまで空へ使っていた機関砲も、すぐ船腹の下を狙える場所にはありません。
出来ないことを数えても仕方ありません。刀を振れる甲板へ出てくる前に、止めればいいのです。
「全乗組員へ伝達! 戦闘に就ける方は抜刀、短銃を用意してください! 負傷者は通路を空けて船内へ。艦橋と機関室へ敵を入れないで!」
足元の傾きに備える間もなく、船腹から大きな衝撃を受けました。
衝角を正面から受けることは避けても、接触までは防げませんでしたか。
「宇佐美さんへ、舷側の指揮をお願いしますと伝えてください。私はここで見ます。ほかの船への連絡も続けます!」
回収船はまだ、落ちた男の救助に当たっています。あちらへ接近する船影はありません。怪我人を運ぶ小艇にも、離れているよう知らせます。こんなところまで寄ってきては、敵味方の区別もつかずに巻き込まれてしまいます。
「敵の乗っ取り……ですか。私たちの船を奪おうなど、百年早いのです」
弓は、まだこちらを向いています。
「一歩も通すな! 全て撃ち倒しなさい!」
最初の男へ短銃を向け、引き金を引きます。舷側でも銃声が続き、こちらへ掛かる縄を味方の刀が断ちます。撃たれても退かない相手に、こちらから遠慮する理由はありません。
弓を引く霙にも、左手の銃口を向けました。
「次はこちらから、ご挨拶します」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は宇佐美による蝙也の迎撃と、煉獄の接近、そして燕と霙の対峙を描きました。
宇佐美の活躍や、燕の判断、海戦の展開について感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
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鎌足
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蝙也
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夷腕坊
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方治