転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
敵兵を迎え撃つ宇佐美と燕。
しかし、煉獄にはなお、神谷艦隊を脅かす使い手が残っていた。
「志々雄様のために討ち死にせよ!」
「薫首領の御為に! 誰一人、この甲板を踏み越えさせるな!」
うちの連中も張り合うなよ。死んじまったら給金も使えねえぞ。
誰も彼も怒鳴っている。船腹も軋みっぱなしで、声を張っても通りゃしねえ。荒脛巾の艦首へ、煉獄の衝角が食い込んでいる。踏ん張ると足元へ鉤が飛んできて、靴を掠める。縄は向こうから引っ張られ、跨ぐと踵に引っ掛かりかける。後ろじゃ、うちの馬鹿がそいつを掴んで引き合っていやがる。
手を離せよ。お前も落ちるだろうが。
駆け寄りかけると、味方の刀で縄が断たれる。野郎へ、俺からも何か言うのはやめておこう。顔を上げるなり刀を拾っていやがるしな。
鉤縄を切るにも手が足りない。敵を斬っているそばから、また縄を掛けられる。おい、そこの野郎。うちの兵はよそを向いているのに、背中へ斬りかかるのかよ。右の短銃で撃ち倒すと、味方にも振り向かれる。
「よそ見するな! 礼なら後で聞く!」
長銃は預けてある。短銃なら、両手ともよく馴染む。特注で拵えた甲斐もあるってもんだ。だが、握りは汗で滑る。指を掛け直しかけると、敵の刀はすぐ横を通る。頬へ風を食らい、そっちへ一発撃ち返す。
近えんだよ。斬るにしたって、もう少し遠慮しろ。
男は倒れるが、その後ろからも刀を向けられる。煙越しに顔を見分け、危うく引き金を止める。うちの兵じゃねえか。向こうも俺を認めて口を開くが、声は周りに紛れて聞こえない。何も言わずに背中を預けてくる。
ああ、そうしとけ。こっちは見てやる。
「宇佐美師範! 敵の切り込み部隊の抵抗、著しいです!」
「へっ、慌てるんじゃねえ! たかが船一隻の切り込み部隊で、この『神』の船を占領できると思ってんのかよ!」
言い終えないうちに三人来る。正面の一人を待たず、両脇からも刀を突き出してきやがる。おいおい、順番くらい守れよ。
撃鉄を起こし、三つの額を撃ち抜く。そのまま突っ込んでくるから身を引くと、後ろにはもう次の顔が見える。銃口を向けると、そいつは味方の襟を掴んで前へ押し出す。
討ち死にも人任せか。さっきの威勢はどうしたよ。
「敵の頭は銃使いだ! 物陰へ隠れろ! 間合いを詰めるな!」
ほう。そう来るか。
俺も偉くなったもんだ。うちの首領に会ってみろよ。俺を相手にする方が、ずっとましだと思うぜ。
鉄の壁、荷の木箱、砲の防盾。よくもまあ、次々に隠れるもんだ。そこは俺の方が詳しいぜ。
「隠れたつもりか? 俺にそんな小細工が通用すると思うなよ!」
甲板の鉄板、防盾の金具、船首の錨鎖へ続けて撃つ。箱の陰からは銃身が出てくる。外したとでも思ったのかよ。引っ込んでいても構わねえぞ。そこには届く。
金属音に続いて、壁の裏から悲鳴を聞く。一人は喉を押さえて崩れ、防盾からも別の一人が倒れ込む。頭を撃ち抜かれて、刀も手放す。箱の陰では胸へ当たり、もう動かねえ。
「どこから……壁の裏へ弾が!」
声を出せば、そこにいると教えちまうぞ。
箱の端から一人覗いて、俺と目を合わせる。慌てて引っ込んでも遅い。背後へ弾を跳ねさせると、蓋を蹴倒して転がり出てくる。隣の男も頭を抱え、伏せたまま刀を振り回す。誰にも届いちゃいねえよ。
「こっちへ来るな! こいつ、見えてねえところへ撃ってくるぞ!」
叫んでも遅い。まだ渡ってきやがるのに、何人かは引き返そうとしている。肩をぶつけ合って、退け、逃げるなと怒鳴り合いやがる。俺の耳にもよく聞こえるぜ。
先ほどの勢いはどうしたよ。こっちは、まだ一歩も退いちゃいねえぞ。
味方へ下がれと示し、次を撃ち込む。敵は鉄の壁から飛び出してくる。今度は真っすぐ当ててやる。隠れるか逃げるか、早く決めろよ。
「宇佐美師範の神技だ! 師範に続け! 敵兵を殲滅せよ!」
「押し出せ! だが、煉獄へ追っていくなよ! 持ち場を空けるんじゃねえ!」
鉤縄の陰に、まだ何人も伏せている。一人は銃を拾いかけ、俺に手を撃たれる。睨み返して這って逃げやがる。諦めの悪さじゃ、うちの連中といい勝負だな。
味方に任せて弾を補う。目の前で斬り合いが始まり、さっきの兵は押されかける。踏ん張れよ。俺も急ぐからな。
「おのれ! 邪魔立てするな!」
すぐ足元へ撃ち込まれる。次の一発は腰のそばを通る。肩越しに覗くと、男が長銃を構えていやがる。
「へっ、そっちも銃使いか! いい腕をしてるぜ。だが、所詮は常人並みだな!」
「何だと! 貴様のような無頼の狗に、私の覚悟を侮辱されてたまるか!」
覚悟の話なんざしていねえよ。腕の話をしているんだ。
男の銃口から逃れながら、奥を狙う。こっちが動くたび、忙しく肩ごと向け直してくる。惜しいな。もう半歩早けりゃ当たるんだが。
頬を弾が掠めて、笑いながら首を引く。顔はやめろ。傷になったら、鏡を見るたび思い出しちまう。
撃ち返すと掠めて弾が抜ける。ほう、腰が据わっているじゃねえか。伏せもせず、もう次を狙ってきやがる。
その顔だ。もう少しこっちを向け。
「どきな、方治。銃を貸せ」
「な……霙!」
女? 肌は褐色で、鉢巻は赤い。目元を隠しているのに、迷いもせず男の後ろから出てきやがる。声も近い。こっちを向いたまま、長銃を取り上げる。
銃は揺れもせず、俺へ向く。
待て。こいつ、俺の――。
身を捩るのと、銃声を聞くのはほとんど同時だ。逃げかけたところへ二発目も撃ち込まれる。右の脇腹が熱い。続いて息を吸い損ねる。
「ぐっ……ああっ!」
痛え。銃を下げるな。畜生。
銃の向こうに、女の顔がある。こっちへ踏み込んではこない。
俺の方から動かなくちゃならないのか。靴の中も濡れてくる。ちらりと下を見そうになる。
見んな。今は見なくていい。
「ちっ……痛えな、畜生!」
右へ身体を向け直すたび、脇腹が痛む。一発避けてから、もう一発。二発とも同じところへ食らうとはな。
「師範、こちらへ!」
「来るな! てめえらは船を守れ!」
兵は俺の肩へ触れようとする。そいつを払い、短銃を構え直す。こいつの前へは出せねえ。
女は長銃を海へ投げ捨てる。弾切れか? 借り物だろうに、気前よく捨てやがる。男も何か言いかけるが、押しのけられてしまう。
「ふん……敵の指揮官の一角はあれかい。なんだ、男かよ。胸の一つもついてねえのか。萎えるぜ。穴だらけにして海へ沈めてやる」
初対面で、随分な言い草じゃねえか。
男で悪かったな。これでも女には、そう悪くない顔だと言われるんだぞ。
笑ってやろうとすると、口の端が引きつる。今のは、みっともなかったかもしれん。勘弁してくれ。二十三にもなって、痛いと泣きわめくのは御免なんだよ。
矢の先は俺の顔へ向いている。横へ動いても、ぴたりとついてくる。鉢巻は巻いたまま。何を頼りに狙ってやがる。
あの男を相手に、少し喋りすぎたか。
「今度はお前が相手かよ。男だからって見くびるなよ。てめえをここで仕留めりゃ、作戦に何の支障もねえんだ!」
「ほざけ。行くぞ」
生け捕りは無理だぜ、首領。俺も死んでいいとは仰ってねえよな。
女の指先から矢が離れる。頬のすぐそばを抜け、歯を食いしばって俺も短銃を撃つ。避けるたびに右の腹が痛む。ちょうどいい。眠気も覚めるってもんだ。
さあ、二発分、返してやろうじゃねえか。
◇◇
前の兵士を押しのけて、また二人。お二人とも、こちらへ顔を向けるより先に刀を振り上げます。そんなに慌てなくても、私は逃げませんよ。
扉の前を空けるつもりはありません。
「はっ!」
額へ撃ち込んでも、後ろからまだ来ます。銃口を向けると、何人も階段で足を取られ、動けなくなります。詰まっていますね。こちらから待って差し上げるわけにはいきません。
階段の向こうで、今度は鉤縄を登ってきます。そこから私の背後へ回るおつもりですか。左の短銃を向けると、縄へしがみついたまま動かなくなります。手を放してお帰りになるなら、今ですよ。
鉄柵へ弾が当たり、思わず目を細めます。銃口は階段下。上を見ていると狙われますね。耳元の音がなかなか消えず、自分の銃を撃っても、遠くで鳴っているように聞こえます。
後ろから味方の兵士も飛び出そうとします。そこにいてと声を掛けても、返事は聞こえません。でも、頷いてくれます。よかった。今、横を通られると、そちらを庇えません。
汗が目に入ります。袖で拭いたいのに、その暇もないなんて。
「何なんだ、あの子供は! なぜ戦場にいる!」
「怯むな、撃て! 十歳そこらの小娘だぞ!」
十歳で合っています。そこはよくお分かりですね。
子供と分かっていて銃を向けるんですね。では、こちらも遠慮しません。
短銃を指先で回し、腰の高さで構え直します。裾を少し引いて一礼しても、相手の銃からは目を離しません。
「神谷活心流、射撃師範代の三条燕と申します。お見知りおきください」
返事の代わりに銃を向けられ、こちらから額へ撃ち込みます。顔を上げると、その人も階段を転げ落ちていきます。
「……ああ。死んでしまえば、せっかくの名乗りも覚えていられませんね。ごめんなさい」
弾を込めながら扉を見ると、味方は負傷者を引き込んでいます。布を傷へ当て直しても、通路へ血が滴っています。床のお掃除は、後でいくらでも出来ますよ。早く手当てを受けてください。
弥彦君には、この姿を見せたくありませんね。未来のお嫁さんは、今日も頑張っています。頑張っていますけれど、着物の袖は火薬臭くて、鼻を近づけられません。
帰ったら、まずお風呂へ入りましょう。それから会いに行くのです。
右の通路でも、味方は押し戻されています。敵の人数が多い。
「連装回転機関砲、斉射! 手回しを止めるな! 止めたら私が死ぬでしょうが! ガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドっ!」
観柳さん?
機関砲のそばに観柳さんがいます。把手を回しながら何か怒鳴っていますが、銃声にかき消されて聞き取れません。
下の通路では、敵が次々に倒れています。逃げても、途中で撃たれて止まります。つい先ほどは私へ刀を向けていたのに。
「伏せてなさい! あなたにも当てたら、私が叱られるでしょう!」
今度は聞こえます。返事もせずに屈むと、頭の上を薬莢が飛んでいきます。床に落ちて跳ね返り、頬に触れます。熱さに首をすくめ、思わず目を閉じてしまいます。
熱い。銃を撃たれなくても、ここでは落ち着いてお話も出来ませんね。
階段の下では、悲鳴も途切れます。観柳さんの銃は、まだ止まりません。
観柳さん、奥の部屋へ隠れているものと思っていました。
「観柳さん。ちゃんと戦えたんですね。少し見直しました」
「呑気に言っている場合ですか! 私は自分の命と軍艦を守るために必死なんですよ! 幾らつぎ込んだと思っているんです!」
息切れはしても、手回しは止まりません。私の返事を待たずに、次の敵を撃っています。
観柳さんのすぐ横へ、弾が当たります。顔を引っ込めたと思うと、今度は銃ごと向け直して撃ち返します。怒鳴っていても、もう言葉になっていません。あれでは狙われるのも怖いでしょうね。私も一緒に身を縮めてしまいます。
ようやく銃声が途切れると、耳の奥が変です。遠くからの叫び声を、すぐそばと聞き違えます。観柳さんも、肩で息をしながら通路を見下ろしています。
「ですが、一般の兵など、幾ら来ようと相手にはなりませんね! 敵の親玉はどこです! 指揮官を片づけなくては終わりませんよ!」
「そうですね。こちらで待ち続ける必要はありません」
艦首では、宇佐美さんと女が撃ち合っています。目元には赤い鉢巻。さっき私へ矢を射たのは、あの女ですね。こちらは向きません。あの人と戦いたかったのに。今はお任せします、宇佐美さん。
「敵の本隊と総指揮官は、あの煉獄でしょう。私から乗り込みます」
「は? あなたがですか!」
「はい。観柳さん、こちらの通路をお願い出来ますね」
観柳さんは、私と階段を交互に見ています。今さら、戦えませんとは言わせませんよ。
「船を守るのは構いませんが、沈めて帰ってこないでくださいよ! あれにも値打ちがあるんです!」
「まず、私たちの船を奪われないことです。向こうをどうするかは、その後に考えてください」
警備兵を一隊呼び寄せます。ほかの方々は観柳さんの護衛をお願いしますね。
「艦橋警備の一隊は、私についてきなさい。煉獄へ渡ります!」
「師範代に続け!」
兵士は先へ出ようとしますが、袖を引くと、私の短銃を見て横へ退いてくれます。ありがとうございます。私も自分の前は見ていたいのです。
よし。行けます。
煉獄へ足を移すと、男に指をさされます。まあ、そんなに驚かなくても。先ほどから、そちらの方は何人もいらしているでしょう。
「神谷活心流の三条燕です。こちらへお邪魔します」
今度は名乗りを覚えて帰ってくださいね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は宇佐美の跳弾による戦闘、霙との対峙、そして燕の煉獄突入を描きました。
観柳も自分の命と軍艦を守るため、珍しく身体を張っています。
それぞれの戦闘や登場人物について、感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
-
鎌足
-
蝙也
-
夷腕坊
-
方治