転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
しかし、敵兵の姿は不自然なほど少なかった。
一方、宇佐美と霙の戦いも続いていた。
船の中、こんなに暗いの?
口元を覆っても煙は入ってくる。咳を堪え、舷側の穴をくぐる。服を引っ掛けかけて、ひやりとする。破れていない。よかった。短銃も二挺ともある。後ろから足音を聞き、通路を空ける。
「手早く行きますよ! 上の艦橋と、下の機関室を押さえます。弾薬庫には気をつけてください。火を使う時は周りを確かめなさい!」
「はっ!」
銃声は聞こえない。あんなに乗り込んできたのに、曲がり角を越えても誰もいない。短銃を向けたまま、横の扉へも目を配る。
隠れているなら、早く出てきて。通り過ぎてから背中へ撃たれるのは嫌。
先に人影を見つける。向こうも銃を向けてくるけれど、遅い。額へ当てると、後ろの一人は扉へ飛び込む。
「追いすぎないでください。通路も見ていて」
扉を開けても、奥には誰もいない。銃を捨てて逃げたの? 先を覗く。ここからでは奥は見えない。
「……おかしいですね。敵の指揮官はどこです?」
階段から足音を聞き、銃口を下げる。味方だ。手すりへ手をつき、息を継いでいる。
「ご報告します! 志々雄真実も、十本刀も見つかりません!」
「妙ですね。皆さんで荒脛巾へ乗り込んでいるのでしょうか」
甲板の女は宇佐美さんに任せてきた。ほかにも誰かいると思ったのに。首領は乗っていないのかな。
ここで待っても、名乗りに来てはくれないか。
「入口にも人を残してください。観柳さんへ連絡をお願いします」
「承知しました。伝令を出します」
前の扉に火が見える。耳元を弾に掠められ、壁へ身を寄せる。近い。頬に触れかけて、やめる。血は出ていない。今度はこちらから撃つ。
「師範代! 前の区画で抵抗しています!」
「私が先へ行きます。そこを押さえたら、一度後ろへ戻りましょう。指揮官を捕らえるか殺すかすれば、終わりです」
扉は開いている。左手で撃つと、中の銃口は引っ込む。別の方からも撃たれて、目の前で火花を浴びる。
ここには集まっているんだ。通してもらうよ。
入口から続けて撃ち込み、味方と一緒に船室へ入る。広い。逃げ足は速いのね。
背中で爆発。
耳を塞ぐ暇もなく、床へ突き倒される。痛い。肘を擦った。短銃を手放さず顔を上げると、入口を鉄扉に塞がれている。斜めに落ちて、壁へめり込んでいる。
「……誘い込まれましたか」
奥の扉も開かない。穴も塞がれている。入口では鉄を擦る音ばかり。
「駄目です、びくともしません!」
「刀を貸せ。ここへ差し込めば……!」
「お怪我はありませんか」
声をかけると返事はある。咳の合間に頷いてもくれる。よかった。まずは皆で出なくちゃ。
「扉から離れてください。手を挟みますよ」
向こうは黙ったきり。壊して出ても文句は言わせない。
「師範代、扉へ撃ち込みますか!」
「待ってください。皆さんが近すぎます。銃を下げて」
銃口を押さえると、隣からも手を貸してくれる。そう、今は撃たないで。こちらへ跳ね返ってきたら逃げ場もない。壁の向こうへ耳を寄せる。外の銃声ばかり響く。
「窓もありませんね。水を入れるつもりでしょうか。それなら床を破って、下から……」
頭の上で、何か開く音を聞く。
水。天井から?
顔へまともに浴びて、言葉を飲み込む。しょっぱい。海水だ。袖で拭いても目へ流れ込み、見上げられない。足元もすぐ濡れてしまう。
「水だ! 天井から入ってくるぞ!」
「皆さん、落ち着いてください。安慈先生に教わりましたから。この壁くらい、二重の極みで破ってみせます」
「師範代、お願いします!」
皆、私の後ろへ集まってくる。失敗出来ない。短銃をしまい、水を蹴って壁へ掌を当てる。二度、衝撃を重ねる。
「はっ!」
手応えはある。ちゃんと打ち込めている。なのに、穴は開かない。
凹みへ指を入れても、ひびすら見つからない。壁の端には鉄板を重ねてある。
外側と同じ装甲?
内側も? そんなの聞いてない。
もう一度打つ。割れない。凹みは深くなっている。効いてはいるはず。息を整えようとして、また水を被る。
邪魔。少しでいいから止まって。
もう膝を越えている。皆より先に沈んでしまう。壁へ手を当て直しても、足元は滑る。さっきと同じように踏めない。
「……まずいかもしれませんね」
床なら。膝をついて拳を振ると、腕を水に取られる。顔も浸けてしまい、慌てて立ち上がる。今度は胸も浸かっている。
早すぎる。こんなの、息を整える暇もない。
「師範代! 肩へ掴まってください!」
ありがとう。でも、掴まるとあなたも沈みそう。肩を押さず、壁へ手を伸ばす。どこか引っ掛からないかな。出口は見つからない。上にも水。後ろにも鉄板。
待って。まだ、何も出来ていない。
◇◇
「方治様! 隔離区画を閉鎖しました! 敵の幹部です。あの小娘を閉じ込めました!」
「くくく……はははは! 愚か者め。鉄の棺桶で溺れる苦しみ、存分に味わうがいい!」
方治は防盾から顔を出す。荒脛巾では銃声が続き、煉獄との間にも兵が行き交う。
遠くの灯りは海へ向いたまま、砲撃は止まっている。
「おい、青野! もたもたするな。甲板の親玉を速やかに屠れ!」
「はいはい。急かすなよ。今やってるところだ」
霙は矢を番え、弦を引く。方治は返答を待たずに身を隠す。防盾の縁に弾が当たり、鉄片が足元へ落ちる。
あの小娘を片づけても、まだ終わらぬか。
伝令へ注水を続けるよう命じる。あの船室については、琴と散々言い争っている。
◇
「煉獄に水責めの区画を増設するだと?」
琴は図面を覗き込み、船室を指す。
「そうよ。敵に乗り込まれた時のために、罠くらい用意しましょう。ここへ誘い込んで閉じればいいわ」
「閉じ込めるなら火薬で焼けばよかろう。なぜわざわざ水を引く? 船の中腹だぞ!」
「だからよ。船の中で火攻めなんてやったら、こっちも燃えちゃうじゃない。沈んだらどうするの。危ないでしょ?」
「危ないも何も、敵を殺すための罠だ!」
「私たちも死ぬの? 順番を考えてちょうだい。敵には溺れてもらう。その後は水を抜けば、船を使えるわ」
方治には言い返せない。火薬庫からの距離を確かめ、図面へ目を戻す。琴はその横で、もう別の箇所へ指を滑らせている。
「誘い込む方も忘れずにね。空き部屋へ、みんな仲良く入ってはくれないわよ」
◇
「注水を続けろ! 手を止めるな!」
足元の通路から返答を聞き、方治は図面から顔を上げる。紙を畳んで懐へ戻し、防盾へ背を預ける。
「あの桃色妖怪の思いつきが、これほどの戦果を挙げるとはな……!」
◇◇
息を吸いたい。
天井へ手をついて顔を上げても、鼻に水が入る。口を閉じても遅い。咳をしたい。出したい。でも、口を開けられない。
空気。どこ? 少しでも残っていないの?
手のひらに天井が当たる。指を滑らせても鉄板。上がれない。下へ足を伸ばしても、床を踏めない。
近くで誰かに触れる。掴もうとして、指を離してしまう。待って。暗くて顔も見えない。呼びたいのに、声を出せない。
水の中って、こんなに静かなの。
さっきはあんなに、うるさかったのに。
喉が苦しい。胸も熱い。駄目、吸っちゃいけない。口を開けたい。少し息を吸えれば、また壁を壊せるのに。
まだ嫌。弥彦君。
帰ったら会いたい。勝ちましたって、胸を張って言いたい。無事でよかったって、そう言ってほしい。
お嫁さんになる約束も、まだしていない。私から言ってばかり。嫌だと言われるかもしれないけれど、返事も聞いていない。
こんなところで死ぬなんて嫌。帰りたい。
天井へ拳を当てる。力を入れているのに、腕を振れない。手のひらをつき直しても、どこを押しているのか分からなくなる。
私、目を開けてる?何も見えない。
◇◇
「ちっ、手間取らせやがって!」
矢を避けて撃ち返す。女はまだ、弓を手放さねえ。俺の脇腹に目でもついているのか、そこへ向けてくる。残念だな。手拭いで縛ってある。血を見せて喜ばせる趣味はねえよ。
装填を済ませ、もう片方も撃つ。女の足元で鉄が跳ねる。避けてから、また弓を引きやがる。傷なんぞ、気にして撃ち負けてたまるか。
「宇佐美師範! 突入部隊から伝令です!」
今度は何だ。
声に横を向かず、女へ銃口を据えたまま耳を傾ける。何をそんなに急いでいやがる。
「燕師範代が罠に嵌まり、船内に閉じ込められています!」
「何だと! 不覚を取ったのか!」
「猶予はありません、数分も保ちません!」
伝令は煉獄を指す。艦橋の下だと叫び、もう一度、そこを指さす。周りを見回して人を呼ぼうとするが、途中で声が途切れる。
喉に矢が刺さっている。
伝令を肩で受け、短銃を撃ち返す。女は弓を下げねえ。
「野郎……!」
伝令は俺の袖を掴む。声は出ない。
「聞いた。もう喋るな」
袖から手を外し、味方へ預ける。
「連れて下がれ!」
女はまた矢を番える。
燕の嬢ちゃんか。そこで大人しく溺れている柄じゃねえだろうに、出られないのかよ。
こっちも今、他人の心配で手を止められるほど暇じゃねえんだぞ。
「銃を寄越せ!」
「師範、受け取ってください!」
二丁を懐へ収め、長銃を左手で受け取る。よし、これでいい。
女へ駆けると、また弓を引かれる。矢を避け、荒脛巾から煉獄へ踏み移る。女は後ろへ下がる。こちらも離してやる気はねえ。
「おいおい、男に顔を近づけられるなんざ反吐が出るぜ。勘弁してくれよな!」
弓が甲板へ落ちる。女の袖から短剣が出て、喉へ飛んでくる。三本。ここで止まれってか。
「ふん!」
右の掌で受け、二重の極みを叩き込む。鋼は砕け、頬へ破片が当たる。目を細めても足は止めねえ。
投げ物で済まそうとするなよ。もう目の前にいるぜ。
「俺としては、てめえみたいな美人は大好物なんだがね!」
長銃の銃床を、顎へ振り抜く。女は上体を反らして躱す。口元に笑いを残したまま、横へ逃げやがる。
「ずいぶん激しい挨拶じゃねえか!」
「隙ありだぜ」
お前の頭へ当てるのは後だ。
ここだな。袋から炸裂弾を取り出し、甲板へ投げつける。嬢ちゃん、少しうるさくするぞ。
「何をする! 手投げ弾一つで装甲を破れるはずがない!」
うるせえな。こっちはもう投げちまってるんだよ。
爆発に身体を持っていかれ、甲板へ手をつく。耳が痛え。口へ煤も入っていやがる。吐き出して、煙の向こうへ目を凝らす。
割れたか。継ぎ目は裂けている。だが、まだ穴は開かねえ。下の鉄板が見える。これも重ねてあるのかよ。随分と頑丈に拵えていやがる。
ここも壊さねえと届かないか。
「何を考えている! 味方が中にいるのだぞ!」
「いるからやってんだろうが!」
女から目を離さず、袋へ手を入れる。煙越しに顔を見ても、口の端を歪めていやがる。気に入らねえか。奇遇だな、こっちもお前の顔を見飽きているんだ。
「燕ちゃんも、自分に構って足踏みした挙げ句に負けるなんざ許さねえよ! てめえらも燕も、まとめて爆破してやる!」
「狂信者どもめ! 味方を何だと思っている!」
「何とでも抜かせ! これが集英組と神谷の流儀だ!」
女は弓を拾い、こちらへ矢を向ける。邪魔する気はあっても、逃げる気はねえらしい。お前の足元も吹き飛ぶんだぞ。
「させねえよ!」
甲板を転がると、すぐ横に矢が刺さる。深い。こんなのを頭へ受けてたまるか。女から顔を背けず、もう一発も放り込む。
亀裂へ入る。今度は外れちゃいねえ。
女もそちらへ向き直る。間に合うと思っているなら、止めてみろよ。
「食らいやがれ!」
閃光で女を見失う。足元も跳ね上がる。身体を投げ出されながら、長銃を離さず抱え込む。
◇◇
何か、聞こえる。
何? 頭が痛い。耳も痛い。押し流されて、手を天井から離してしまう。
水を飲む。嫌、口を閉じたい。もう入ってこないで。
もう一度、衝撃を受ける。
明かり。上に見える。天井がない。そこへ手を伸ばしても届かず、横へ流される。
そっちじゃない。上へ行きたいのに。
脇へ腕が回ってくる。誰かに掴まれて、水から顔が出る。息を吸うつもりなのに咳が出て、また水を飲みそうになる。
「師範代、こちらへ!」
聞こえる。返事をしたいのに、声にならない。手を伸ばして服を掴む。離さないで。まだ自分で立てない。
足に床が当たる。上から明かりが入り、壁にも穴が見える。海へ水が流れていく。腰を引かれるけれど、今度は踏ん張れる。
「けほっ……げほっ! 死ぬかと思いました……」
胸が痛い。喉も痛い。涙で顔を上げられない。隣からも咳を聞く。よかった。私のほかにも声はする。
髪が口へ入ってきて、かき上げようとしても手は震える。袖は重いし、身体は寒いし、立ち上がるとまた咳が出る。
でも、息を吸える。もう一度。ゆっくりでいい。空気はちゃんとある。
「ちっ、あの野蛮な男が!」
頭の上から女の声。私たちを水に沈めておいて、よく言うよ。
まだ誰か沈んでいないかな。皆も名前を呼び合っている。私の腕を支えながら、隣にも手を伸ばしてくれる。
ありがとう。後でちゃんとお礼を言わなくちゃ。まずは、私も声を出そう。
「皆さん……お返事をお願いします。声を出せますか」
「はい! こちらは三人、無事です!」
「一人、気を失っています。息はあります!」
「その方をお願いします。外へ出たら、すぐ荒脛巾へ戻してください」
膝へ力を入れる。立てる。支えてもらわなくても大丈夫。手を離すと少しふらつくけれど、もう転ばない。
「師範代も一緒にお戻りを!」
「先に行ってください。私は上を見ます」
ここへ皆を連れてきたのは私。もう、背中から撃たせない。
頭上から短銃が落ちてくる。床へ当たって跳ね、水の中で止まる。湯気も出ている。え、何?
見上げると、穴から宇佐美さんが顔を出している。
「燕ちゃん! 生きてるか!」
「宇佐美さん。ありがとうございます。とても乱暴な救出でしたね」
声は掠れて、最後にはまた咳。お礼くらい、きちんと言いたいのに。
「へっ! 生きてたんなら、万事解決ってことでいいだろ!」
いいのかな。壁も天井もなくなってるけど。これ、観柳さんに何て言うつもり?
宇佐美さんも笑っている。そんなふうに顔を出していて、大丈夫? 頭のそばへ矢を射込まれると、さっさと引っ込んでしまう。
「あとで聞く! 銃は使え!」
短銃を拾う。水を振り払い、握り直す。指は動く。銃口を上げても、もう水には邪魔されない。
ひどい目に遭わせてくれたんだから。名乗りは済んでいる。今度はお辞儀もしない。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は琴が用意していた罠と、燕の危機、そして宇佐美による救出を描きました。
燕にとっては、これまでの戦闘とは違う恐怖だったと思います。
二人のやり取りや、琴の罠についても感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
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鎌足
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蝙也
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夷腕坊
-
方治