転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
追い詰められた方治と霙。
煉獄の甲板で、四人の戦いが激しさを増していく。
寒い。濡れた袖が腕に張りついて、まだ水の中にいるみたい。
穴の向こうには二人ともいる。逃げずに待っていてくれたんだね。私を水に沈めて、そのまま帰れると思っていたなら残念。
「散々撃ちまくってくれたな……。皆殺しにして海に沈めるぞ」
「ええ。私は危うくおぼれ死ぬところでしたからね。……たっぷりとお礼を差し上げないと、割に合いません」
宇佐美さんから借りた短銃も、私の短銃も、ちゃんと撃てる。弾も入っている。
冷えた指で握り直すと、早く引き金を引きたくなった。
あの男の額。隣の女の胸。どちらから撃とうかな。
「うーん……。そっちの男の手投げ弾で船体が割れちまったし、飛び道具の数で言えばこちらの手勢の方が分が悪いかね? ……なあ、方治?」
「私を木偶の坊のように見くびるなッ! 志々雄様の大業の前には、如何なる逆境も障害になり得んのだ!!」
方治。あの男の名前ね。
よく喋る口。撃って塞いだら、少しは静かになるかな。
「弾幕だァッッ!! 蜂の巣にしてやりな!!」
宇佐美さんと一緒に撃ちかかる。男の顔を狙うと荷箱へ逃げ込まれたので、引っ込む肩を続けて撃つ。女の方へも、もう片方の短銃で。
そう、逃げて。どこへ隠れるのか、ちゃんと見ているから。
「ふふふ……あははっ! 撃ち合っていると、なんだか頭の中がぽかぽかして……気持ちよくなってきましたーー!!」
腕へ返る反動も、耳に響く銃声も、もっと欲しい。さっき水の中で何も出来なかったぶん、いっぱい撃ちたい。
「くっ……!?」
「やだやだ、物騒なガキ共だねぇ!」
物騒なのは、お互い様でしょう。
女は荷箱に隠れたまま、空へ弓を向けた。五本も一緒に射るつもり?
私の頭へ落としたいんだね。それなら、上がるところから見ていればいい。
「はっはーーッ!! 落ちてくる前に当ててしまえば、ただの小枝です!!」
五本とも、矢尻を撃ち砕く。
矢羽は頬の横を通ったけれど、そんなものに身を縮める必要はない。次の矢を取ろうとする女へ、残りの一発を撃ち込んだ。
また隠れちゃった。惜しいな。今、指を狙ったのに。
「俺の矢を五本ともかよ。少しは外しやがれ」
「一本でも残したら、私に刺さりますよね?」
「まあな」
「では、お断りします」
笑いながら薬莢を落とす。弾を詰める間も、女の手から目を離さない。
次は何本でもいいよ。あなたが射るたび、こちらも撃てるもの。
でも、矢ばかりじゃ飽きちゃう。顔も出してくれないかな。
「今度は何本なら避けられねえ?」
「教えたら、その数を射るつもりでしょう」
「へっ、よく分かってんじゃねえか」
詰め終わってすぐに撃つ。荷箱から出しかけた女の手を引っ込めさせると、隣で男にも何か怒鳴られた。
聞こえない。今、こちらの銃声の方が大きいから。
「物陰に隠れてやり過ごそうとしても……無駄なんだよッッ!!」
宇佐美さんは鉄板へ撃ち込んだ。隠れているのに、弾を跳ね返して当ててしまう。
悲鳴を聞いて、私も笑ってしまった。そこへ隠れたら安全なんて、誰も言っていないよ。
「ぐあっ……!?」
「ちっ、壁の裏にも届くのかよ!」
「弓の姉ちゃん、出てこいよ! そっちからでも当ててやるぜ!」
女にも当たっている。荷箱の縁へ触れた指に血。
隠れても駄目。出てくれば私も撃てる。
宇佐美さんと一緒だと、楽しいな。逃げ道を探している暇もあげずに済む。
「卑劣な真似を! 隠れた相手を横合いから撃つか!」
「お前が勝手に隠れたんだろうが! 嬢ちゃん、こいつ、俺に正面から撃たれたいんだとよ!」
可笑しい。そんなお説教を聞かされるなんて。
「正面から撃たれる方がお好みでしたか?」
「小娘、貴様に聞いてはおらん!」
「すみません。あまりに面白かったものですから」
長銃を出してきたので、その先を撃つ。続けて荷箱の端にも一発。
男は顔を出せない。銃を引っ込めても、宇佐美さんの跳弾は止まらない。こちらも弾を替えて、すぐに撃ち直す。
ああ、もっと欲しい。空になるのが早すぎる。
「宇佐美さん、こちらも替え終わりました」
「おう。好きに撃ちな!」
今度は肩を出さず、荷箱の脇へ手を伸ばしている。
何を拾っているのかな。別の銃? その長銃より、私の短銃の方が早いと思うけれど。
「そらッッ!! 吹き飛べェッッ!!!!」
投げつけられた塊へ、反射的に撃ってしまう。
火薬。
気づいた時には、もう弾を当てていた。
「きゃあっ!?」
「しまッ……!?」
爆風を浴びて目を閉じても、短銃は放さない。頬に熱を感じながら、次の弾を撃つつもりで指を掛け直す。
煙で見えない。
「なっ……本気かよ!? 弓で殴りかかってくる奴があるかッ!?」
「へっ! こいつはただの木切れじゃねえ、鍛冶職人に打たせた特注の鉄弓だ!! 死に晒せェッッ!!」
煙の中から女に殴りかかられ、宇佐美さんは短銃で受けていた。
それでも弓を押し返せず、舷側へ弾き飛ばされる。
あんなに力があるんだ。でも、私へ背中を向けたね。
「がはっ……いってーな畜生ッ!!」
宇佐美さんの落水を聞くのと同時に、女の横へ回り込む。海へ弓を向ける前に、右肩へ銃口を押しつけるくらい近づいて撃った。
「ぐあっ……!」
こちらを振り向いても遅いよ。もう当てた。
弓を振り回される間合いには残らず、穴の脇へ離れる。女は肩を押さえず、私へ弓を向け直してきた。
「涼しい顔をしてんじゃねえか」
「私の顔なら、水で冷やしてくださったでしょう?」
「そいつは方治の仕業だ。俺を恨むのは筋違いだろうが」
「先ほど私へ矢を射たのは、どなたです?」
「ああ、覚えていやがったか」
もちろん。次は肩を外して、胸へ当てたい。
海からは宇佐美さんの声も聞こえる。あれなら自分で泳げるね。
「宇佐美さん、聞こえますか!」
「聞こえてるよ! 縄を寄越せ、縄を!」
「荒脛巾の皆さん、縄をお願いします! 宇佐美さんは舷側にいます!」
「嬢ちゃん、こっちはいい! 前を見てろ!」
「承知しています。早く戻ってきてくださいね!」
「簡単に言ってくれるぜ!」
荒脛巾から返事をもらえたので、もう海は見ない。
敵は二人。どちらも狙えるし、相手を一人ずつ待ってあげるつもりもない。
「こちらの人数が減ってしまったのなら」
女へ一発撃ち込み、荷箱へ隠れる先にも銃口を向ける。男をそちらへ逃がさないよう、左手の短銃でも撃つ。
もう少し。二人とも同じ所へ隠れてくれれば、宇佐美さんみたいに跳ね返して当てられるかな。
「青野、避けろ! その小娘を庇う義理はあるまい!」
「俺を巻き添えにする気か、てめえ!」
また火薬を投げられた。
今度は撃たずに避けたけれど、すぐそばで爆発。甲板へ右手を打ちつけ、短銃を弾き飛ばされる。
海へ落ちるのを見ても、追いかけない。
惜しいけれど、拾うために背中を向ける方が馬鹿みたい。
「好機ッッ!! 喰らえェェッッ!!!!」
男は長銃を構え、こちらへ踏み込んでくる。
そんなに近づいてくれるんだ。右手に何も持っていないから、勝てるつもり?
まだ短刀も抜いていないのに。
「…………なーーんて、嘘ですよ」
銃口の下へ潜り、帯から短刀を抜く。男に長銃を下げられる前に、胸元へ入れた。
お彦さんなら、こうやって懐へ入らせてはくれないよ。
「銃だけが私の武器だと思ったら、大間違いです。……刃物の扱いとお肉の切り分け方は、お彦さんから徹底的に叩き込まれましたから」
胸から肩へ斬り上げる。刃を振り抜いても止まらず、次は首。
そこへ蹴りを出される。
まだ動けるんだね。じゃあ、足から。
「死ねッ、この狂信の餓鬼がァッ!」
「無駄ですよ」
靴を頭の横へ通し、支えの膝を横から蹴り折った。
男は崩れたけれど、こちらへ長銃を向けようとしている。
短刀で銃身を押し退け、折れた膝を踏む。
「膝というものは、後ろには曲がっても、横や前には曲がらないようにできているんですよ? ……逆に曲げてみましょうか」
「ぐあああああああっっッッッ!!!!」
「それに……銃はまだ、一丁残っていますよ?」
左肩を撃ち抜く。
握る手は緩んだのに、まだ落とさない。いっそ両手とも撃ってしまおうかな。引き金へ指を掛け直すと、銃床で殴りかかられた。
「ま……まだだ……! まだ終わらんッッ!!」
半歩退けば当たらない。甲板へ叩きつけた拍子に長銃を壊しても、男は残った銃床を振り回す。
よく続くね。こちらはまだ、足も腕も動くのに。
「よく頑張りますねえ……」
「志々雄様のためッッ!! この国を強者の手によって生まれ変わらせるためならば……この程度の怪我など、端から織り込み済みの大前提だァッッ!! まだだ、私はまだ倒れんぞォォッッ!!」
そう。じゃあ、立っていて。
倒れている相手より、首を狙いやすいもの。
「…………もう、お眠りなさい。十分、立派に頑張りましたよ」
喉へ斬りつけると、銃床で防がれた。腕を持ち上げたぶん、今度は胸が空く。
そこへもう一度斬り込む。
「ぐおおおおおっっ!!」
長銃を顔へ投げつけられた。
そんなものに、私が当たると思っているんだね。
「弾丸より遅いものを投げつけて、どうするつもりですか?」
かわした直後、男に身体ごとぶつかられた。
折れた足を引きずって、そこから飛び込んでくるなんて。
「きゃっ!? いやッッ!!」
胴へ腕を回される。左腕も挟まれ、短銃を押しつける隙間がない。
「う……嘘でしょう!? 乙女の身体に無断で抱きつくなんて、破廉恥にも程がありますよッッ!!」
右手は動く。
背中へ短刀を突き立て、そのまま捻る。男は呻いたのに、腕を放さなかった。
なら、もう一度。
今度こそ殺すつもりで刃を押し込んでも、締めつけられる力は変わらない。
しつこいな。離れないなら、このまま死んでよ。
海へ落ちるつもり? それなら、先にあなたの息を止めてあげる。
「ガハッ……! ……ここへ……ここへ来たかったのだァッッ!!」
男の肩越しに、火薬筒が見えた。
箱にも、足元にも。
そこへ私を押してきたんだ。
「なっ———!?」
「これで……貴様も終わりだァァァッッッ!!!!」
足元で音が鳴り、男に突き放された。
箱へ踵を引っ掛け、火薬の上へ倒れかける。男はもう荷箱の陰へ逃げ込んでいた。
自分は隠れるんだね。
抱きついた時から、そちらへ逃げるつもりで——。
火薬が弾ける。
◇◇
煙を吸ってしまって、咳が出る。
口元を拭うと、手に血。胸も痛い。
でも、生きている。
左の短銃はなくしてしまった。右手には短刀が残っている。
よかった。まだ殺せる。
「ぜぇ……ぜぇ……はは……。私の……勝ちだ……。神谷の小娘……め……」
勝ち?
私、まだここにいるよ。
「ふふ…………ふふふふふふ…………」
笑うと咳に変わる。口に溜まる血を吐き出し、立ち上がる。
足は動く。指も短刀を握れている。
あとは、あの人へ近づけばいい。
「捨て身の攻撃と見せかけて……ゴフッ! ……油断を誘い、爆心地へ放り出す…………ガハッ! ……見事な知略、見事な手並みでしたよ……」
どうしたの。褒めてあげているのに。
「生きて……いるのか」
「ええ。ご期待に添えず、申し訳ありません」
「あの距離で……!」
「私も、死んでしまうかと思いましたよ」
死ななかったけれどね。
短刀を握り直す。さっき刺した時の血で滑りそう。服へ擦りつけても、こちらも濡れているからあまり変わらない。
落とさなければいい。深く刺したら、今度は抜かずに殺しきろう。
そんな顔をしても駄目。
私を放り出す時、とても嬉しそうに笑っていたでしょう。
まだ、お返しをしていないよ。
「ここで……確実に仕留めたかったんでしょうがねぇ……! 残念でした。私、こう見えても……相当に頑丈なんですよ。……逆転の時間は、おしまいです!!」
「ば、化け物めが……ッ!」
男はそばの斧を拾い上げた。
いいよ。何を持っても。殺される時に、武器さえあればなんて思わなくて済むでしょう。
「死ね!」
「そんな大振り、当たるわけがありません!!」
斧を避けて胸元へ潜り込み、髪を掴む。顔を引き下ろして、鼻柱へ頭突きを入れた。
まだ斧は放さないんだね。でも、振り下ろす場所はないよ。私はもう、こんなに近くにいる。
「ぐおおおおおっっ!?」
顔を戻そうとしても、髪を引いて上げさせない。
短刀もある。首も届く。
これでようやく、お喋りをやめてもらえる。
「十本刀にふさわしく……、綺麗に解体して殺してあげますよ!!」
◇◇
「おいおい……。俺を無視して男といちゃつくなんて……妬けるじゃねえか」
燕は短刀を振り下ろしかけて、霙へ顔を向けた。
霙は右肩から血を流しながら弓を引いていた。
矢を放っても肩を庇わず、すぐに次を番える。
「っ……!? あれほどの深手を負いながら、まだ弓を引けるのですか……ッ!?」
喉への一射を燕はかわした。二射目も身を捩って避ける。
三射目は、その逃げ先へ届いた。
方治の髪を放し、燕は甲板を蹴った。矢は足元を通り過ぎる。短刀はまだ手にあり、着地すれば斬りかかれた。
「お見事……! だが———十本刀を舐めすぎなんだよ、お嬢ちゃん」
方治は斧を持ったまま、燕を見上げていた。
折れた膝で立ち直ろうとはしなかった。身を低くしたまま、落ちてくる燕へ斧を振り上げる。
「え———」
斧は止まらない。甲板へ足をつけられず、押し返すことも、横へ逃れることも出来なかった。
「志々雄様のために———死ねええええええええええッッッ!!!!」
短刀を押し退け、斧は燕を斬った。
「きゃあああああああああッッッッッ!!!!」
右肩から左腰へ斬られ、燕は甲板へ叩きつけられた。短刀は指から離れ、舷側へ滑っていく。
燕の手は伸びなかった。甲板に血を広げたまま、動かなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は燕と宇佐美による反撃、そして方治と霙の執念を描きました。
燕の射撃や方治の粘り強さ、最後の逆転について感想をいただけると嬉しいです。
この先、戦いが多くなりますが戦死者アリにしますか?
-
戦う以上必然。あり。
-
優しい物語が見たい。なし。