転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
しかし、追い詰められた十本刀もまた、切り札を残していた。
歯を食いしばっていないと、声が出そう。
きつく縛った布も、もう血で濡れている。
「………応急の手当ては済みましたので、問題ありません」
「んなわけねえだろ、絶対に痛えはずだ!! ……おい燕ちゃん、手早く敵を皆殺しにして、すぐ軍医の先生に縫合してもらうぞ!!」
ええ、そうしましょう。
あの二人を生かしたまま、私が先に寝るなんて嫌。
拾った短刀を右手に握り、左の短銃を女へ向ける。笑ってみせるつもりが、息を吐くと傷に響いた。
くうっ……。
あちらも、同じくらい苦しんでくれればいいのに。
「お姉さんも……随分と酷いお怪我ですけれど、まだ死なないのですか?」
私の弾は当たっている。宇佐美さんにも撃たれて、額から血を流している。
「ん? ああー、それかい。実はさっき一度死んでいてな。だが地獄の底で生き返ったら、都合よく弓が引けるようになってたんだよ。ほら、俺はご覧の通りの極上美人だろ? 閻魔様を色仕掛けで籠絡して、娑婆へ帰してもらったのさ」
「…………よくもまあ、そんな白々しい嘘が口から出ますね」
「反吐が出るような出鱈目な理屈だ。おい燕ちゃん、そんな下らねえ戯言に付き合うな」
閻魔様も、迷惑な人を帰してくれたものね。
もう一度送ってあげれば、今度は引き取ってくれるかな。
女の指へ力がこもる。私も銃口を上げた。
喋っている間に射るつもりでしょう。見えているよ。
荷箱の陰から、男の呻き声。
そちらへ目を向けかけた私に、女は笑った。
「まあ……そちらの無残な傷口を見れば、こちらの負ける要素なんてどこにもねえなあ……! ……死にな、お嬢ちゃん!」
「動けない手負いから先に狙う……。戦の定石通りですね」
耳を掠める矢に構わず撃ち返す。身を捩ったせいで、布の下が引きつった。
痛い。
そのぶん、あなたにも当たってよ。
女は甲板へ小筒を投げつけた。
「へっ、正々堂々と不意打ちを仕掛けてやるよッ!!」
白煙を浴び、咳を堪える。
どこ。今、そこにいたでしょう。
短銃を向けていた先から、女も弓も見えなくなってしまった。
「ちっ……煙幕か! 厄介な真似をしやがって……!」
宇佐美さんの声は隣。
その向こうを、何か横切った。
「………そこだァッッ!!」
二発。
宇佐美さんは当てた。なのに、倒れる音も悲鳴もない。
煙から上着が落ちてきて、私の足元へ広がる。
服?
「偽物だってよ?」
「なッ———!?」
女は宇佐美さんの横にいた。短刀を持っている。
近い。あんな所へ入られたら——。
「させませんよッ!」
女の脇腹へ斬りかかる。身を引かれたけれど、刃は届いた。
もっと深く斬るつもりだったのに。逃げるのが早い。
「ちっ!」
「死ねェッッ!!」
宇佐美さんも胸を斬られていた。
傷を押さえもせずに撃ち返すので、私も女の退く先を狙う。煙の切れ間へ顔を出した瞬間、引き金を引いた。
また外した。
そんなに動けるなら、最初から出てきなさいよ。
女の弓は、もうこちらへ向いていた。
撃つより早く、顔へ矢が来る。
「っつ……!!」
短銃で弾き落とした途端、左手に力が入らなくなりかけた。
嫌。落とさない。
握り込むと指が痛んだ。女はこちらを見ている。ここで放したら、すぐに次を射られる。
女の額から、赤い布がずり落ちる。
宇佐美さんの弾で裂けていたところを引きちぎり、そのまま捨ててしまった。
「え………?」
目を開けている。
こちらへ、はっきりと向けている。
「あはは………目が見えないのではなかったのですか?」
「あ? 俺がいつ見えねえなんて言ったよ? 見えすぎるのも考えものでな……。余計な情報が頭に流れ込んでくるのが鬱陶しいから、普段は瞼を閉じてるんだよ」
何、それ。
冗談じゃない。
私も宇佐美さんも、遊んでいるんじゃないんだよ。
短銃を向け直すと、女は口の端を上げた。
今さら驚いて、撃てなくなったりなんかしない。
◇◇
方治は荷箱へ背を預け、銃へ手を伸ばしていた。
指先は銃床に届かない。身体を引きずろうとして、途中で止まる。
「ぐっ……………がはっ……」
甲板を渡ってくる兵は、神谷の者ばかりになっていた。
方治の部下は、荒脛巾へ斬り込んだまま戻らない。
残る者へ退くなと命じようにも、声を張れなかった。
寒い。
血は止まらない。膝を立てようとして、息を呑む。
この足で、どこへ行けというのだ。
「私は……………もう助からんか……。志々雄様が成し遂げる、国盗りを…………この目で、見届けたかったのだがな…………」
敵に囲まれて死ぬ。志々雄へ報告すら出来ない。
方治は顔を伏せた。その手を懐へ差し入れる。
紙包みは残っていた。
『蜘蛛の巣』
敵の資金源を探るため、手に入れた薬。どれほどの金を生み、誰の手で売り捌かれているのか。それを調べるつもりで持っていた。
自分が飲むなど、考えもしなかった。
「しかし……この佐渡島方治、ただで死ぬつもりなど毛頭ない……。このような物など………本来ならば口にしたくもなかったが……!」
紙を開く指が震える。
方治は粉をこぼしかけ、包みを口へ寄せた。むせても吐き出さず、呑み込む。
銃へ這い寄った。もう少し。あと少しで掴める。
志々雄様。
私は、まだ。
「志々雄様ァァァッッ!!!!」
銃床を握り、荷箱へ手をつく。
折れた膝に体重を掛けた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!!」
方治は立ち上がった。
足は曲がったまま。傷も塞がっていない。もう痛みに顔を歪めなかった。
◇◇
何、今の声。
「なんだッ!? 何が起きやがった!!?」
「何ですか……!? あの音は……」
男が立っている。
その膝、私が折ったんだよ。
さっきは這っていたでしょう。何で、笑っていられるの。
「一人では死なんッッ!! お前たちも必ず道連れにして地獄へ連れてゆくゥゥッッ!!!!」
口元に粉がついている。
足元には紙包み。あの印、見たことがある。
『蜘蛛の巣』?うちの薬を飲んだの?
「へっ……嬉しい誤算じゃねえか! すごいぞ方治!!」
何がすごいのよ。私たちの薬でしょう。あなたたちのために作ったものじゃない。
男は折れた足を引きずり、こちらへ来る。
止まりそうにない。さっきの傷なんて、何もなかったみたいな顔。
治ってなんかいないくせに。
「……………どうやら、この喧嘩……俺たちの方も、負けるわけにはいかなくなったようだなあ!!」
女も近づいてくる。
あの目。こちらを見て、笑っている。
まだ、やれるんだ。あれだけ撃たれて、斬られて。
「ちっ……化け物じみた真似しやがって! 死に晒せェッッ!!」
宇佐美さんは男へ撃ち込んだ。
胸にも腹にも当たっている。私も見た。外していない。
でも、男は銃を下げない。
「ぐふふふ……! 痛くも痒くもないわ……! なんの意味もないのだァッッ!!」
意味がない?
そんなわけないでしょう。
撃ち返され、宇佐美さんは舷側へ退く。私にも銃口を向けられたので、男の腕を狙って撃った。
当たった。それでも次を撃ってくる。
もう。いい加減に倒れてよ。
続けて撃とうとしたところへ、女が斬り込んできた。
こっちも!
短刀で受けると、傷を縛った布が引きつった。奥歯を噛みしめて押し返す。
左手を向けると、その腕を払われた。
撃った弾は女の頬を掠める。もう一発、引き金を引いた。
空!? こんな時に。
「おいお嬢さん!!! 飛び道具はお互い撃ち尽くした! ここからは正々堂々、刃物での切り合いと行こうじゃないか!!」
「喜んで歓迎しますよッ!!」
短銃を帯へ押し込み、斬りかかる。
喉を狙ったのに、手首へ刃を返された。引けば、胸を狙われる。
近づくのを待っていたの?
だったら、待ち損だよ。
私も刃物を持っているんだから。
女の短刀を弾き、脇腹へ斬りつけた。
躱された。また同じ傷を狙ったのが分かったんだね。
こちらの腕を斬りながら、女は横へ抜けようとする。
行かせない。宇佐美さんの方へ回らせたら、また二人で狙われる。
追って斬りつけると、刃を合わせられた。
押し返されて、足が滑りかける。
くうっ……!
お腹が痛い。そんなに力を込めなくても。
「いい気迫だねぇ、お嬢ちゃん!! だが、その腹の傷……そろそろ失血死する頃合いじゃないかい!?」
「私は弥彦君のお嫁さんになって、八十七歳まで天寿を全うする予定なので!! そちらこそ、今ここで死んでおけば、若くて綺麗な姿のまま棺桶に入れますよ!!」
「あははッ! そいつはありがたい心遣いだな……ありがとよォッッ!!!!」
笑い終わる前に斬ってくる。
避けても、続けてもう一度。私が短刀を合わせると、今度は手首を狙ってくる。
しつこい。
「いいぞ。その調子だ」
何、その言い方。
稽古をつけているつもりなの?
頭に血が上り、首へ斬りつける。
女は避けた。私の腕を押し、横から短刀を突き込んでくる。
身体を捩って逃れたけれど、布を切られた。
そこは駄目。
せっかく縛ったのに!
女の肩へぶつかり、押し退ける。撃たれた右肩を庇って顔を歪めたところへ、もう一度斬りかかった。
今度は脇腹。浅いけれど、当てた。
「ちっ!」
そのまま刺そうとして、短刀を弾かれる。
指が痺れた。放しそうになって、慌てて握り込む。
強い。
何で、刃物でもこんなに強いの。
弓ばかりじゃない。
この人、刃物の腕も本物だ。
でも、負けてなんかあげないよ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は霙の開眼と、方治による『蜘蛛の巣』の服用を描きました。
双方とも満身創痍ですが、まだ決着には至っていません。
霙の能力や方治の執念、燕との短刀戦について感想をいただけると嬉しいです。
この先、戦いが多くなりますが戦死者アリにしますか?
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戦う以上必然。あり。
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優しい物語が見たい。なし。