転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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大阪湾、甲鉄艦『煉獄』

満身創痍の燕と宇佐美は、方治と霙を相手に最後の攻防へ挑む。

誰一人、退くつもりはなかった。



午前二時四分

息が苦しい。

吸っても、吸っても足りない。目の前が白くなりかけて、女の顔を見失いそうになる。

 

早く。

早く殺さなきゃ。

 

短刀を合わせるたび、傷を縛った布が擦れる。もう濡れているのは分かっていた。気にしたって止まらない。押さえるために銃を放すのも嫌。

 

「ふう…………。飛び道具の射手同士の切り合いだっていうのに、こんなに骨があるとはな……!」

 

女も息を切らしている。

私を斬り損ねたあと、少し距離を取った。追いかけたいのに、すぐには足が出ない。

逃げないで。もう一度、そこへ来て。

 

「なあ、お嬢ちゃん。……どうだい、今からでも志々雄様の側につく気はねえか? ここで寝返るってんなら、俺が責任を持って命を助けてやるし、面倒も見てやるぜ」

 

「…………随分と、冗談がお下手なんですね。弥彦君の敵になるくらいなら、ここで八つ裂きにされて死んだ方が何億倍も清々します」

 

誰が行くものか。

あなたに助けてもらって、そのあと何をすればいいの。弥彦ちゃんへ銃を向けるの?

考えただけでも吐きそう。

 

「へっ、つれねえねぇ。だがよ、その弥彦君の実の母親である沖田総司は、息子を東京に置き去りにして志々雄様の元へ走ったんだぜ? お前も同じことをすりゃいいじゃねえか」

 

何も知らないくせに。

言い返そうとして、咳き込んだ。

 

悔しい。こんな話、最後まで聞いてあげるつもりなんてないのに。

口を拭って顔を上げると、女はまだ笑っていた。

 

「お母さんと同じ道を歩む気など、毛頭ありません。私は、私の意志で弥彦君の隣にいるのです」

 

「はっ……! 男の言いなりになって死ぬなんて、馬鹿げた生き方はやめちまいな!」

 

「志々雄真実という男に命を預けている貴女が、よくそんな口を利けますね」

 

「ふん……口の減らねえ餓鬼だ」

 

言い返せなくなったら、それ?

短刀を握り直す。もう少し息が出来たら、こちらから——。

 

女の手が動いた。

 

私へ来る。違う。横へ投げた!

 

「宇佐美さん!」

 

宇佐美さんは飛んできた短刀を反ってかわした。

その後ろに、方治がいる。

 

「貴様も斧で真っ二つに叩き割られよォォォッッッ!!!!」

 

「ちぃぃぃぃぃッッ!!」

 

宇佐美さんは短銃で受けた。銃身へ斧を叩きつけられても退かず、空いた右手で方治へ殴りかかる。

 

「舐めるなよ、狂人がァッ!! どうだァッ!! 一撃必倒の———二重の極みをォッッッ!!!!」

 

殴り飛ばされた方治は、甲板を転がった。

やった。

今度こそ、起き上がらないでよ。

 

「おいおい、粗末に扱ってくれるじゃねえか! 俺の矢も受けてみるかい!?」

 

女は弓を拾っていた。

そちらへ踏み込もうとした私の前を、矢が通る。

 

「ぐああああッッ!? クソがあッッ!!」

 

宇佐美さんが膝をついた。

肩にも、脚にも矢。

 

その向こうで、方治が起きようとしていた。

何で。

今、殴られて飛んだでしょう。もう死んでよ。宇佐美さんから離れてよ。

 

「志々雄様のために……死ねェッッ!!」

 

「させませんッッ!!」

 

帯から短銃を抜き、斧を握る手へ三発撃ち込む。

方治は斧を落とした。拾おうとしても、その手では掴めない。

よかった。間に合った。

 

「おのれええええええッッッ!!!! 志々雄様ァァァッッ!!!!」

 

怒鳴っていなさいよ。

もう一度拾ったら、また撃つから。

 

息を吐く。苦しい。

でも、宇佐美さんはまだ生きている。こちらへ戻ってきてくれれば、一緒に——。

 

「お嬢さん…………悪いな。……前しか、見えていねえだろ?」

 

お腹へ何か当たった。

 

「かは…………っ…………!?」

 

息が止まる。

目を落とすと、矢が刺さっていた。布の上から、私の身体へ。

 

あ。 これ。

 

駄目だ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

口へ血が上がってきた。

吐き出そうとしても上手くいかない。膝が折れそうになって、甲板へ足を踏ん張る。

 

倒れたくない。

今、倒れたら、もう。

 

「燕ちゃんッ!」

 

来ないで。

また庇わせてしまう。もうそんなことをさせたくないのに、声が出ない。

 

女は弓を下げ、私を見ていた。

方治もいる。手を撃たれても、まだ何か拾おうとしている。

 

誰も死んでいない。

 

嫌だ。

私だけ死ぬの、嫌だよ。

 

「燕ちゃん、こいつを!」

 

宇佐美さんから短銃を投げられた。

右手の短刀を放し、受け取る。掴み損ねそうになって、胸へ抱え込んだ。

 

ありがとう。

言いたいのに、血を吐いてしまう。

 

弥彦ちゃん。

私、帰れないかもしれない。

 

帰るって、さっき思ったばかりなのに。

皆のところへ戻って、ただいまって言うつもりなのに。

 

悔しい。

こんなの、嫌。

 

でも、あの二人を生かして死ぬ方が、もっと嫌。

 

「どけえええええええええッッッ!!!!」

 

走った。

傷が痛いのか、足が痛いのか、もう分からない。

女へ二発撃つ。顔を狙ったけれど、横へ逃げられた。

 

「おっと……!? 腹を射抜かれてなお走るかい、最後の悪あがきか!?」

 

そちらじゃない。

あなたを追っているんじゃない。

 

方治。あなたが先。

 

「ぬおおおおおおおおッッ!! 死ねェェェッッ!!!!」

 

銃声を聞いた。

脚へ当たった。踏み出した足がもつれる。

止まらないで。あと少し。もう、そこにいるのに。

 

男は片手で銃を構えていた。

私の方へ向け直す前に、飛びつく。

 

「はあああああッッッ!!!!」

 

「ぬああああッッ!? 離せ、小娘がァッッ!!」

 

離さない。

さっきも、あなたは離してくれなかったでしょう。

 

胴へ脚を絡め、空きかけた左の短銃を帯へ戻す。

髪を掴んで顔を引くと、男は銃を捨てた。

 

そばには斧。

左手で拾って、私の背中へ——。

 

「くううううううううううッッッ!!!!」

 

痛い。

声を上げた拍子に、息を全部吐いてしまった。

でも、髪は放さない。脚も解かない。

 

もう、近づいた。

この距離なら、外さない。

 

手や足を撃っても、あなたは止まらなかった。

じゃあ、もうここしかないでしょう。

 

短銃を、額へ押しつける。

 

「死ねええええええッッッ!!!!!!!」

 

撃つ。まだ。まだ。

男の声が途切れても、引き金を引く指を止めなかった。

 

六発を撃ち終えると、もう銃声は返ってこない。

方治は私を引き剥がそうとしなくなった。

 

「ぐおおおお……………し…………し…………様………………」

 

その名前も、最後まで言えなかった。

男は私を抱えたまま倒れた。

 

「……………ようやく…………………死にましたか………………………」

 

脚を解き、身体を離す。

やっと。 やっと一人。

 

女は、どこ。

 

 

 

 

 

宇佐美さんは。

 

 

動けない。右手の短銃は空。左の方には、まだ一発残っている。

 

替えなきゃ。

もう一人いるんだから。

 

「さよならだ…………お嬢さん」

 

背中へ衝撃。

声の方を振り向くことも出来なかった。

 

「え…………?」

 

胸元に矢が見えた。

後ろから。私を貫いて。

 

ああ。

 

宇佐美さん。

また、手当てをしてもらうところが増えちゃった。

 

女の笑い声を聞いた気がした。 まだ、勝ったつもりでいるんだね。

 

空の短銃を落とす。

帯のもう一挺へ、右手を伸ばした。

 

私、まだ撃てるよ。

 

「…………身体を貫いた角度で、分かりますよ。……そこです」

 

振り向かない。

矢の向きに合わせ、右腕を左脇の下へ差し込む。

 

最後の一発。

 

 

 

 

 

 

弥彦ちゃんのために。

 

「かはっ……………、……!?」

 

当たった。

 

 

 

 

 

 

 

よかった。

外さずに、済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、燕!!!!」

 

びっくりした。

そんなに大きな声を出さなくても、聞こえているよ。

 

「はっ……?? え??? ……弥彦君……?」

 

弥彦ちゃんが、目の前にいた。

何で?

 

座っている私を見て、呆れた顔をしている。いつもより少し背が高い。

あれ。私も、こんなに長い袖の着物を持っていたかな。

 

「なんだよ? 縁側で居眠りなんかして、のんきな奴だな? ……こんな大事な日によ」

 

「…………こんな、日……?」

 

風が吹いて、桜の花びらが膝へ落ちた。

 

もう、こんなに咲いているんだね。

 

「…………何言ってんだよ。……俺たちの、祝言の日だろ?」

「あ………………」

 

そう。

そうだった。

 

袖も裾も白い。血なんてついていない。

手を重ねても痛くない。息を吸っても苦しくない。

こんなに綺麗な着物、汚したら大変。

 

「そうだった…………そうだね、弥彦君!!」

 

忘れていたなんて、怒られちゃう。

さっきまで、何かしていた気がするのに。

 

でも、今はいいよね。

弥彦ちゃんが待っているんだから。

 

「へへっ、母さんも、お彦も、薫も……道場のみんなが広間で待ってるぜ! 行くぞ、燕! 最高の白無垢姿、あいつらに見せつけてやれよな!!」

 

嬉しい。

皆、待っていてくれるんだ。

 

手を差し出されて、私も伸ばす。

ちゃんと握ってもらえた。

温かい。

 

もう、離さなくていいんだね。

 

「うん!!! 行こう、弥彦君……!!」

 

立ち上がると、弥彦ちゃんは笑った。

 

ずっと、こうしたかった。

お隣へ並んで、同じ所へ帰りたかった。

 

広間から、誰かの声がする。

お彦さんかな。薫さんかな。

急がなきゃ。待たせたら、二人とも何を言うか分からないもの。

 

弥彦ちゃん。

そんなに早く歩かないで。

 

私、この着物じゃ——。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「燕ちゃん!!! 燕ちゃん、しっかりしろッッ……がふっ……!!」

 

宇佐美は燕のそばへ膝をついた。

抱き起こす手を止めなかった。燕の顔を自分へ向け、口元の血を拭う。

 

「おい。聞こえてるな。俺だぞ」

 

兵が駆け寄った。

宇佐美の胸と肩を見て、足を止める。

 

「う、宇佐美師範ッッ!! 師範ご自身も手当てを……血が止まりませんッ!!」

 

「何言ってやがるッッ!!! 俺の傷なんざどうでもいい、燕ちゃんの手当てが先だろォがッッ!! 船医はまだかッ!? 恵師範の直弟子がこの艦に乗ってるはずだろ、早く呼んでこいッッ!!!!」

 

「は、はッ!! 直ちに!!」

 

「おい燕ちゃん……! 頼むから目を開けてくれ……!」

 

燕の目は、わずかに開いていた。

しかし、宇佐美へ向かなかった。

 

「……………や…………ひ………こ………くん…………」

 

「燕ちゃんッッ!!!!」

 

「……………………まっ…………て…………弥彦君……」

 

「行くなッッ!! そっちへ行くんじゃねえぞッッ!! これから弥彦と祝言挙げて、幸せになるんじゃなかったのかよッッ!!」

 

燕の唇が動いた。

宇佐美は呼ぶのをやめ、耳を寄せた。

 

「………………………う……さ……み、さん……?」

 

「おお! 俺だ、宇佐美だ!! 傷は浅いぞ、大丈夫だ!! 気を張れ、死ぬんじゃねえッッ!!」

 

嘘でも、ほかのことは言えなかった。

宇佐美は燕の手を握った。血で滑る指を包み直し、自分の方へ引き寄せる。

 

「船医も来る。必ず治る。さっき言っただろ。敵を片付けたら、帰るんだよ」

 

返事を待った。

 

「……………………ごめ…………ん…………って…………や…………ひ………こ………ちゃんに………………」

 

宇佐美は首を振った。

 

「ふざけたこと言うなッッ……!! 謝るなら自分で直接言えッ!! 俺に言わせるんじゃねえよッッ……!!」

 

握った手へ力を込める。

燕の指は、握り返さなかった。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

弥彦ちゃん。

ごめんね。

 

 

 

 

 

お嫁さんになるって、言ったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お彦さん。

帰るって、約束したのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

薫さんも、皆も。

私のこと、待っていてくれたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「燕ちゃん?」

 

宇佐美は、もう一度呼んだ。

返事はなかった。

 

「おい。燕ちゃん」

 

「寝るなって、言ってんだろ……」

 

兵の足音が近づいてくる。

船医を呼ぶ声も聞こえた。

宇佐美は燕を抱えたまま、そちらへ顔を上げられなかった。

 

頬へ雨が当たった。

 

「……帰るんだよ。燕ちゃん」

 

 

 

 

明治十一年六月十六日、午前二時四分。

 

軍産複合体『神』射撃師範代、三条燕。戦死。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

三条燕の大阪湾での戦いは、ここで終わりとなります。

これまで彼女の歩みを見守ってくださった皆様に、感謝いたします。

この先、戦いが多くなりますが戦死者アリにしますか?

  • 戦う以上必然。あり。
  • 優しい物語が見たい。なし。
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