転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
比古の庵で、その光景を目にした剣心たち。
一方、市街では操と宇水の戦いが続いていた。
明治十一年六月十六日、午前零時四十分。
京都が燃えていた。
庵からでも見える。目を凝らすほど、離れた所にも火が上がっている。
葵屋はどっちだ。あの辺に左之助たちがいるんじゃねえのか。
「…………街が………燃えている……!!」
薫の声を聞く間にも、剣心は草鞋を履き、山を下りようとしていた。
「みんなは!?! お彦や蒼紫、左之助たちは無事なのでござるか……!?」
「待てッ!」
比古の一声で、剣心は振り返った。
俺も飛び出しかけて、足を止める。こっちは弟子でも何でもねえのに、怒鳴られると止まっちまう。
ああ、もう。今は稽古どころじゃねえだろ。
「師匠……! しかし、都があのような火の海に……!!」
「テメエはまだ、奥義を会得してねえだろうが! 途中で放り出してどこへ行く気だ?」
「でも、みんなが……!」
「今の未熟なテメエが行って、何の役に立つってんだ? ……河上彦斎との立ち合いにも無様に負け越したんだろうが」
「……………ッ」
そこでお彦を持ち出すのかよ。あいつに勝てる奴を待っていたら、京都は全部燃えちまうぞ。
「でもよ……このまま指くわえて見てろってのも、虫が良すぎるぜ」
「良いわ。剣心、貴方はここに残りなさい。何としても、その奥義を会得するの」
「薫……!? 何言ってんだ、お前……!」
薫は剣心の前へ立った。
庵へ来てから、稽古の邪魔になるようなことは言わなかったのに。
今は遠慮する様子もない。
「剣心、これは軍産複合体『神』の首領としての、正式な命令です」
その言い方。
ああ、もう駄目だ。相談じゃねえんだな。
剣心が何を言い返すか、待つつもりもなさそうだ。
「…………京都には、私が戻ります」
「な……何を無茶な!! 薫殿自身が危険な戦場へ飛び込むなど、絶対にまかりならぬでござる!!」
「我が配下の兵や仲間たちが命を懸けて前線で血を流しているのです。将たるもの、安全な山奥に引き籠もって戦から逃げることなど、天地神明に誓って許されません」
俺も止める言葉が出てこねえ。あの火を見て、お彦たちを思い出したのは俺も同じだ。
薫に言われたからじゃない。俺も、もうここにいたくなかった。
「………ったく、しょうがねえなあ!! 我らがボスの命令とあっちゃ、従うしかねえってんだよ」
「弥彦まで!! お前はまだ子供なのだぞ!?」
「子供子供うるせえよ。……それに、多分……母さんも、あの火の海に来てる」
言ってから、燃える街へ目を戻した。
母さんなら、いる。あそこで刀を振っている。
誰かに斬られているより、誰かを斬っている姿の方が簡単に浮かんじまう。
何で志々雄なんだよ。
俺を置いて行くほど、あの男がよかったのか。
そんなこと、会わなきゃ訊けねえだろ。
「俺は、母さんに会わなきゃならねえ。ぶん殴ってでも、目を覚まさせなきゃ気が済まねえんだよ」
「……弥彦。貴方は、生き残ることを第一に考えなさい」
「へっ! 心配すんなっての。薫の命くらい、俺がしっかり守ってやらあ!! ……自分の身を守るついでにな!」
「ふふ……よろしい」
笑うなよ。こっちは大真面目だ。
お前を一人で下ろしたら、剣心は稽古どころじゃなくなる。それくらい俺にも分かる。
「……薫殿を、頼む」
「おう。お前も早く来いよ」
奥義なんてもんがあるなら、さっさと覚えてくれ。
俺たちが全部終わらせてから来たんじゃ、格好がつかねえぞ。
薫と山道へ入る。木の間から見える火は、さっきより広がっている。
足元が暗くても、急がずにはいられなかった。
母さん。
俺が行く前に、どこかへ行くんじゃねえぞ。
◇◇
「はあああああッッッ!!!!」
外れた。また!
土壁を殴りつけるところでトンファーを引く。横へ逃げた男へ続けて振り込んでも、槍で流されてしまう。
頭の位置は分かっている。肩も腕も、すぐそこ。
なのに、当たらない。
その目、本当に見えていないの!?
「ふむ………お嬢さん、思い切りは良い。打撃に籠められた殺意も申し分ない。だが……ただの重さと力任せの太刀筋では、私には到底届かんよ?」
うるさい。
当たったら、その口も閉じられるでしょうに!
男の手元へ打ち込む。槍を握れなくすればと思ったのに、石突の鉄球で受けられた。
押し潰すつもりで力を込めると、今度は喉へ穂先が来る。
危ない!
顔を引いて逃れたけれど、襟を裂かれた。
重そうな武器なのに、少しももたつかない。こっちへ合わせた次には、もう私を突いてくる。
式尉さんなら、もっと正面から受けてくれる。腕力で押せば、押し返してくる。
この男は違う。力を出しきる前に、私の方をずらしてしまう。
「ところで、お嬢さん。君は仲間たちの中で、何番目に強いのかね? 私の相手を務めるにしては、少々……退屈が過ぎるのだがね」
今、そんなこと訊く!?
お彦さんより弱いのは認める。
蒼紫様には、もちろん及ばない。緋村にも、本気で相手をされたら勝てるとは言いきれない。
でも左之助には腕相撲で勝ったわよ。
あいつ、負けたあとも机が悪いとか何とか言っていたけれど、私が押し倒したんだからね。
燕ちゃんは……近づければ。
遠くから撃たれるのは嫌。弾ける数にも限りがあるし、あの子、外してくれそうにないもの。
「多分…………四番目か、五番目くらいよ……!」
「ほう……正直なことだな。だが、戦場においてはいかんなあ。こういう時は、己が一番強いと大風呂敷を広げて啖呵を切らねば、敵に威圧を与えることなどできんぞ?」
しまった。
真面目に答えちゃったじゃない。
敵のくせに、何を師匠みたいな口を利いているのよ。
蒼紫様に言われるならともかく、あんたに教わることなんて——。
あるわね。
私、さっきから同じように突っ込んで、同じように外している。
悔しい。でも、殴り続けている間は考えもしなかった。
その余裕、先に奪ってやる。
「…………でも、おかげで少し頭が冷えたわ」
「ほう……では、どうするのかね?」
「こうするのよッッ!!」
◇◇
煙玉を足元へ叩きつける。
白煙の中へ飛び込み、土壁を蹴って男の背後へ回った。
「…………目の見えない私に対し、目眩ましを仕掛けるなど……。小娘、私を馬鹿にしているのかね?」
私も見えなくなるんだから、馬鹿になんかしていないわよ。
確かめたいの。
三本の苦無を背中へ投げる。
男は振り返らなかった。
「ふむ………苦無か?」
鉄球で叩き落とされる音を聞いた。
やっぱり。後ろでも同じなんだ。
「言ったはずだぞ、小娘。私にはすべてが『丸見え』なのだと!」
煙から槍が突き出てきた。
喉へ来るのをトンファーで払い、跳び退く。追ってきた鉄球を避けるために、もう一度壁を蹴った。
私の居場所も分かっている。
目隠しの下から覗いているとか、そういう話じゃないのね。
だったら、次。
巾着から取り出した臭い玉を、男の足元へ投げた。
割れた途端、こっちにも臭いが来る。
うっ。口元を覆っていても鼻に入るじゃない。誰よ、こんなに強くしたの。
「今度は何を……!! ぐおっ!?」
男も吸い込んだ。
よし。これなら——。
「何のつもりだッ……!! 悪臭で私の動きを止められるとでも思ったか、小娘がァッッ!!!!」
槍は止まらなかった。
受けるより先に身を引く。さっき私のいた所へ穂先が通り、逃げた足元には鉄球。
咳き込んでいるのに、ちゃんと追ってくる。
鼻でもない。 だったら、耳?
さっきから私の足音はする。苦無を投げる時も、振り回す旋棍も、音を立てないわけじゃない。
「これで……どうッ!?」
四本を投げる。
男ではなく、左右の壁と瓦と雨樋へ。
狭い路地で音が重なり、私にもどこから返ってきたのか分からなくなった。
「音で幻惑するつもりか……甘いわッッ!!!!」
男は槍を回して身を守った。
その外側へ、糸を引く。
投げたふりをして壁へ掛けておいた、もう一本。
来なさい。そこで回っている腕へ。
指先に、わずかな手応え。
男は槍を引き戻した。
「………………大当たりよ!」
「むっ!?」
煙の薄れた先で、左腕から血が落ちていた。
浅いけれど、当てた。
初めて、あの槍の内側へ刃を通せた。
「………分かったわ。あんたの自慢の『心眼』の正体がね!!」
「………ほう? ならば、是非とも教えてもらおうか……!」
まだそんな言い方をするんだ。
腕を斬られても、知らん顔で通すつもり?
今度は、私が教えてあげる番よ。
「あんたの心眼の正体は———『異常聴覚』よッ!!」
男の眉が動いた。
見たわよ。今、ちゃんと。
「相手の筋肉の収縮する音や、心臓の鼓動音を聞き取って、周囲の状況を把握しているのね! だからこそ、派手な衝突音を周囲で立てた上で、音を立てずに糸で操って滑空させた苦無に、直前まで気づけなかったのよ!!」
投げる腕の音も、飛び始める苦無の音もなければ、いつものようには防げなかった。
全部見えているだなんて、よく言ったものね。
「どうだッ!! 参ったかッッ!!!!」
◇◇
宇水は左腕へ触れた。
指先についた血を擦り合わせ、トンファーを構える操へ顔を戻す。
「…………ふむ。見事だ。正解だよ、お嬢さん。おめでとう」
「はい……?」
操は構えを解かなかった。
宇水も槍を下げない。
「私の心眼を、まさか君のような小娘に見破られるとはな……。いやはや、参ったと言わざるを得ん。…………ところで、お嬢さん」
「はい?」
「君は、今までに人を何人殺したかね?」
操は眉を寄せた。
糸を指から外し、トンファーへ手を掛け直す。
「何よいきなり……。そんなもの……」
「何人殺したことがあるかと、そう聞いているのだよ」
煙は路地の端へ流れていた。
操の立つ場所も、宇水の足元も見える。落とされた苦無の一本が、風に押されてかすかに動いた。
操は鼻で笑った。
「そんなもの、いちいち数えちゃいないわよッ!! 邪魔な奴らをどれだけ叩き潰してきたと思ってんの!? 数え切れるわけないじゃないッッ!!」
宇水は笑い始めた。
声は小さく、すぐにやむこともなかった。
「ふふ…………良い…………。よし、よし…………!」
操は次の言葉を待たず、踏み込もうとした。
しかし、足が出なかった。
宇水はまだ動いていない。
槍の向きも変わらない。
それなのに操は、突かれた時のように身体へ寄せていた。
息を吸いかけ、止める。
宇水には、その音も聞こえていた。
「小娘と侮り、手加減をしていたのは失礼した。……この魚沼宇水の全力をもって……………跡形もなく、殺してあげよう」
操は口を開きかけた。
返事をする前に、握る手へ力を込める。
蒼紫様の所へ行かなければ。
この男を倒して、沖田を追わなければ。
宇水へ向けて、操は歯を剥いた。
「面白いじゃないッッ!! 沖田総司の首を取る前に、まずはアンタから血祭りに上げてやるわよッッ!!」
「クックックッ!! 沖田を狙うか! ならば来るがいい!! だが———この前座は、少々手強いぞォッッッ!!!!」
操は両脚で地を蹴った。
宇水の槍へ打ち込む。さっきは流された一撃を、今度は正面から受け止められた。
押しきるつもりで、操はもう片方も振り上げる。
その腹へ、鉄球が来た。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は剣心たちの動向と、操VS宇水を描きました。
操は試行錯誤の末、宇水の「心眼」の正体を看破しましたが、それによって宇水が本気を出すことに。
果たして操は、十本刀の強敵を相手にどこまで戦えるのか。
今回も感想や評価をいただけると嬉しいです。