転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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人斬りと、新選組の亡霊。


敗者の誇り

激闘から数時間後。

 

部屋の隅に置かれた行灯の淡くオレンジ色をした光が、畳の上を優しく照らしている。

 

その平和な空間のド真ん中で、全身に真っ白な包帯をぐるぐるとミイラ男のように巻かれた左之助が、スースーと静かな寝息を立てて横たわっている。

 

「う……ん……」

 

かすかに、左之助の喉の奥から苦悶のような、それでいて安堵しているような唸り声が漏れる。

 

まだ意識は戻っていないようだけれど、呼吸は落ち着いているし、顔色も悪くない。私が持参した集英組特製の最高級の創薬をたっぷりと塗り込んで、腕の良い町医者顔負けの完璧な手当てを施したんだから、当然の回復力よね。

 

流石にあれだけ大量の血を流して、全身の骨が悲鳴を上げている状態で、ウチの組事務所まで戸板に乗せて運ぶのは物理的に無理があった。だから、薫ちゃんに平謝りして、道場のこの一番広い客間を急遽お借りして、手当てと看病をさせてもらっているというわけ。薫ちゃんも緋村さんも、「気になさらないでくだされ」って快く場所を提供してくれたから助かったわ。

 

「……ここは……?」

 

「神谷道場の客間よ。あんた、三途の川の半分くらいまで行ってたみたいだけど、なんとかこっち岸に引き戻してあげたわ。安心しなさい」

 

「薫ちゃんにお願いして、ここでお邪魔して手当てさせてもらったのよ。感謝しなさいよね」

 

「そうか……俺は、あの後……気を失って……抜刀斎に……」

 

ふと、左之助の顔つきが変わる。

自分の頭の下にある、この世のものとは思えない極上の「枕」の感触に、明確な違和感を覚えたらしい。

 

(フニ……)

 

「ん??」

 

左之助が、少しだけ頭を動かす。後頭部に伝わる、その尋常ではない柔らかさに、完全に思考が停止しているのがわかる。

 

(フニフニ……)

 

「……なんだこれ……?」

 

左之助が、目を白黒させながら、自分の頭の下の感触を確かめようと、さらに頭をグリグリと押し付けてくる。

 

「やけに柔らかい……?いや、柔らかいってレベルじゃねえぞ。最高級の真綿の布団よりもずっと弾力があって……それに、なんかすごく温かいし……すべすべして……いい匂いがする……?」

 

あらあら。そんなに頭をグリグリされたら、くすぐったいじゃないの。

 

「あら」

 

「そんなに激しく触られたら……お琴さん、困っちゃうんだけど。でも、今日だけは特別。よく頑張った左之助なら良いわよ?……もっと、存分に味わう?」

 

「……え?」

 

「どわああああああ!!!!?」

 

道場に、左之助の鼓膜が破れんばかりの大絶叫が響き渡る。

行灯の火が、その凄まじい声量でフワリと揺れる。

 

勢いよく顔を上げた左之助の目に真っ先に飛び込んできたのは、私の着物の裾だ。

私は今、着物の裾を太ももの付け根ギリギリまで大胆にはだけさせ生足を全開で晒しているのだ。

 

そして左之助は、つい数秒前まで、その私の艶めかしい生太ももの上で、極上の膝枕を堪能していたのである。

 

「……うるせえよ。近所迷惑だろ。今何時だと思ってんだ」

 

部屋の隅の暗がりから、腕を組んで壁に寄りかかっていた弥彦が、絶対零度の冷ややかなジト目で左之助を睨みつける。

 

「な……な……な……!」

 

「姐さん!!な、なんで!なんで下半身丸出しなんだよ!!?あんた、正気か!?ここは他人の家だぞ!!」

 

「ちょっと、下半身丸出しだなんて人聞きの悪い表現はやめてちょうだい。ちゃんと下着は着けてるわよ?ただちょっと、足を出して風通しを良くしているだけじゃない。それに、怪我人には最高の枕を提供してあげるのが、看病の基本でしょ?」

 

「枕って……俺、あんたの太ももで寝てたのかよ!?しかも生足で!!冗談じゃねえ!!俺の純情をどうしてくれるんだ!!」

 

「だから言っただろうが」

 

弥彦が、心底呆れ果てたという顔でため息をつく。

 

「俺は、そこら辺にある普通の座布団を重ねて枕にすればいいって何度も言ったんだぞ。なのに、そこの桃髪妖怪が『ダメよ!どうしても直接の肌の温もりの方が、精神的な安心感に繋がって傷の治りが絶対早くなるから!これは医学的根拠に基づく母の愛よ!』って、謎の理屈をこねて絶対に譲らねえんだよ。バカバカしいにも程がある。俺は恥ずかしくて見てられねえよ」

 

「医学的根拠なんてあるわけねえだろ!!どんなヤブ医者だよ!!」

 

「あんた、昼間も俺に『童貞の相手してやろうか』とか言ってたよな!?完全に俺を狙ってんじゃねえか!!一回りの下のガキを食おうとするなんて、犯罪の匂いしかしかしねえぞ!!」

 

「あら、左之助ったら照れちゃって。可愛いわねえ」

 

左之助の顔を両手で包み込み、ニコニコしながらその頬を優しく撫でる。

 

「照れてねえよ!!恐怖だよ恐怖!!」

 

「今日は、あなたの勝ちよ。左之助」

 

急にトーンを落とし、真面目な声でそう告げると、左之助の動きがピタリと止まる。

 

「ご褒美の、この世で一番柔らかい特等席なんだから。遠慮なんてしないで、存分に甘えなさいな。あんたはそれだけのことを成し遂げたんだから」

 

「え……?」

 

「勝ち……?俺が……抜刀斎に……?」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「……お主の最後の一撃、あの拳は、確かにこの頬に届いていたでござるよ」

 

緋村さんは、自身の右頬を指差す。そこには、赤く腫れているわけでもないが、確かに左之助の指先が触れた微かな痕跡があった。

 

「あの極限状態での執念、見事であった。……拙者の負けでござる」

 

「……」

 

「だが……」

 

緋村さんが、言葉を続ける。

 

「だが?」

 

「喧嘩の『相手』が、違うのではござらんか?」

 

「なんだと?」

 

「……赤報隊が、相良総三殿がお主に背中で教えたのは、『維新志士を倒すこと』でござるか? それとも、『新しい時代を創り、本当の維新を達成すること』でござるか?」

 

問いかけに、左之助はギリッと奥歯を強く噛み締める。

その顔には、隠しきれない怒りと悲しみが入り混じっている。

 

「……てめえが言うな」

 

「四民平等だの、新しい時代だのと、偉そうな綺麗事を散々抜かしておきながら……結局は権力と金という欲に溺れて、てめえら薩長だけでふんぞり返る『偽りの新時代』をでっち上げて満足してるくせに!相良隊長みたいな人間を使い捨てにしておいて!そんな腐りきった維新志士の犬に言われる筋合いはねえ!!」

 

「違うわよ!」

 

「剣心は、そんな私利私欲にまみれた維新志士なんかじゃないわ!官憲の栄誉なんかに一切目もくれず、剣一つで自由に、目の前で困っている弱き人を守り続けてる、ただの優しい流浪人よ!剣心のことを『人斬り抜刀斎』の過去しか知らないくせに、勝手な事ばかり言わないでよ!」

 

「……そこまでよ。薫ちゃん」

 

「え……琴さん?」

 

「吠えるのは『勝者』の権利。負けた人間は、勝者の言葉を最後まで黙って聞くのが、この裏社会の……いや、戦いの世界の絶対のルールよ。左之助は勝者なの。……緋村さんも、見苦しい言い訳はそこまでにしておきなさい」

 

薫ちゃんは息を呑み、後ずさる。

 

緋村さんは静かに目を伏せ、それでも、絞り出すように言葉を続ける。

 

「……これだけは、言わせてもらうでござる。斬左。維新は、まだ終わっておらんよ」

 

「……」

 

「確かに十年前、形だけの維新は成り、新時代明治となった。だが、本当に幸せを必要とする人々は、未だに弱者として虐げられ、古い時代の残滓の中で泣いている。……だから拙者は、及ばずながら、そういう目の前で泣いている人たちの力になるべく、この逆刃刀を振るっている」

 

「それが一年後になるか、十年後になるか……それとも永遠に本当の維新の終わりは来ぬままか。それはわからぬ。だが、そう生きることが、明治維新という巨大な波の犠牲になった人々への、せめてもの償いになると思っている。……人斬り抜刀斎として、拙者が斬り殺した大勢の人たちへの、せめてもの償いになると思っている。……でござるよ」

 

左之助は、緋村さんの言葉を聞いて、目を見開く。

 

『……なんだよそれ。同じじゃねえかよ。こいつの見てる先は……新時代を夢見て戦って、相良隊長と同じじゃねえか……』

 

左之助の心の中から、氷のように固まっていた維新志士への絶対的な怒りが、静かに、しかし確実に氷解していくのがわかった。

 

これでいい。これで、左之助は過去の呪縛から解放されて、緋村さんの頼れる仲間として新しい道を歩き出せる。

 

……しかし。

 

私は、それだけではどうしても納得がいかなかった。

新選組としての私の魂が、緋村さんのその美しい「自己犠牲」の言葉を、絶対に許さなかったのだ。

 

「……緋村さん」

 

私は、冷酷なまでに透き通った、感情の起伏の無い声で口を開く。

 

「それは、あなただからこそ言えることよ。……とても、卑怯で残酷な言葉だわ」

 

「え?」

 

私の言葉に、左之助が驚いたような声を出す。

薫ちゃんも弥彦も、そして緋村さん本人も、息を呑んで私を見る。

 

「貴方は、幕府という旧時代を壊すまでは、最前線で参加した。そのために数え切れない命を奪い、血の雨を降らせ、維新の最も大きな力になったでしょう。……だけど、あなたはそこで逃げた。その後の『新しい国を責任を持って作り上げること』には参加していないじゃない」

 

「……拙者は、ただの剣客でござる。政治や国造りのような難しいことは……」

 

痛いところを突かれたように目を逸らす。

 

「言い訳しないで!!」

 

「西郷隆盛だって、大久保利通だって……あんたの好きだった桂小五郎、木戸孝允だって、最初から政治家だったわけじゃない!みんな、最初はただの、明日死ぬかもしれない貧乏な田舎侍だったのよ!」

 

「でも、彼らは生き残って『勝者』になった!勝者になったのなら、批判されてでも、勝ち誇らなければならない。『自分たちが正しかった』と、国を背負って勝った責任を取らなければならないのよ。それが上に立つ者の、勝者の義務じゃないの?」

 

「……私は、今この国で甘い汁を吸って欲深くふんぞり返ってる政府の高官たちのほうが、まだあんたよりずっと健全だと思うわ。少なくとも彼らは、自分たちが勝者であること、そして勝者にのしかかる責任と業からは、逃げずに泥まみれになって国を動かしているんだから」

 

「…………ッ」

 

緋村さんは完全に図星を突かれ、返す言葉を失い、唇を噛み締める。

 

「私達、新選組は……そして幕府は、歴史の『敗者』だわ。でもね、敗者にだって意地はあるのよ。自分たちが命を賭けた戦いに、納得できる終わりが欲しいの」

 

「『維新志士は、我々が負けるにふさわしい、立派な国を創る奴らだった』と……そう納得して、あの世の近藤さんや土方さん、それに大勢の死んでいった仲間たちに胸を張って報告したいのよ。

……それなのに、一番の功労者であるあなたは何をしてるの?ただの流浪人?世捨て人?『不殺』なんていう自分勝手な贖罪の旅?

……そんな、一番重い責任から逃げた男に、私たちは負けたの?私たちは……新選組は……そんなくだらない自己満足に浸る男に斬り伏せられる程度の、薄っぺらい存在だったの?」

 

私の涙は、死んでいった仲間たちへと、敗者としての譲れない誇りだ。

 

「……では」

 

「拙者に、何をしろと……?人斬りであったこの血塗られた手で、どうやって国を……」

 

「政府に入ればいいじゃない」

 

「あなたのその維新志士としての圧倒的な名声があれば、陸軍なりの高官にだってすぐになれるはずよ。権力を真っ当に使って、中からこの国を正しい方向へ導けばいい。

それでこそ、あなたが本当に、目の前だけじゃない、国全体の国民を守ることになり、ひいては……あなたが理不尽に斬った、私たちの犠牲に真に報いる道でしょう」

 

『山縣さん……山縣さんにも、先日全く同じことを言われたな……。だが……拙者は……』

 

重く、息苦しいほどの沈黙が、客間を完全に支配する。

 

幕末という、血みどろの地獄を共有した二人にしか絶対にわからない、深すぎる業の応酬。

 

薫ちゃんも左之助も、そして弥彦でさえも、ただその圧倒的な歴史の重みに言葉を失い、声を出せない。

 

しかし。

 

「……ま!今回の喧嘩の勝者は左之助だし!私が口出しするのはこれくらいにしておくわ!」

 

「えっ」

 

「は?」

 

全員が、私のあまりにも急激な情緒の切り替えに追いつけず、ポカンとしている。

 

「さあさあ左之助!勝者には何でも言う権利があるわ!なんでもご褒美をあげる!何が良い?」

 

「美味しい、お肉たっぷりのご飯?それとも、私が背中を流してあげるお風呂?それとも……わ・た・し? ♥」

 

ウィンクをして、自分の唇を指差す。

 

「ズコーッ!!」

 

「せっかくの!クソ真面目で!大人たちが泣ける最高の空気を、一瞬でぶち壊すんじゃねえよ!!あんたの情緒はどうなってんだ!!さっきまでの涙を返せ!!」

 

「め、飯だ!!飯に決まってんだろ!!」

 

左之助も、顔を茹でダコのように真っ赤にして、痛む体を引きずりながら、慌てて私からズルズルと距離を取る。

 

「俺は腹が減って死にそうなんだよ!!昼間から何も食ってねえんだ!!」

 

「ええーっ!?」

 

プクッと頬を大げさに膨らませて、不満げに抗議する。

 

「なんでよ!!さっき私の生太ももの極上の柔らかさ、たっぷり味わったじゃない!なら次は、もっと『内側』の深淵に行きたくなるのが、年頃の男の性でしょうが!!遠慮しなくていいのよ!?」

 

「はんっ!なんだよ、てめえが欲求不満で溜まってんのかよ!」

 

「年中発情期か、この桃髪妖怪め!!誰が食うか!!俺はもっと若くて初々しい女がいいんだよ!!」

 

「溜まってませーーーん!!」

 

「私、男に困るほど落ちぶれてませーーん!!指をパチンと鳴らせば、集英組の屈強な若い衆が百人単位で順番待ちの列を作るんだからね!!いつでも選び放題なんだから!!!!」

 

「やめろおおおお!!!」

 

弥彦が、頭を抱えている。

 

「お前、そこはもうちょっとおしとやかにしろよ!!『伝説の天才剣士・沖田総司が、明治になって極道の姐さんになり、年下の若者に色目を使う男狂い』とか、一体どんな三流の官能小説だよ!!幕末の志士たちが草葉の陰で泣くぞ!!教育に悪すぎる!!」

 

「うるせえ!俺はとにかく牛鍋が食いてえんだよ!!姐さん、赤べこ開けて俺に特上牛鍋を奢れ!!」

 

「ご褒美は私だって言ってんでしょ!!ほら、さっさと服脱ぎなさいよ!!傷口開かないように優しくしてあげるから!!」

 

「やめろおぉぉ!!俺のが汚れるぅぅ!!」

 

「わー!!」

 

「ぎゃー!!」

 

「脱がせー!!」

 

「やめろー!!」

 

深夜の道場に、ギャーギャーと、先ほどのシリアスが嘘のような騒々しい怒声と悲鳴と笑い声が響き渡る。

 

「…………」

 

「……おろ。全く……騒々しくて、手がかかって、賑やかな『家族』でござるな」

 

緋村さんの胸には、私が先ほど突き立てた、重く、痛い刃が深く突き刺さったままだ。

 

しかし、目の前で繰り広げられる、この平和で、バカバカしくて、愛おしい日常の騒ぎが、今は何よりも、緋村さんの疲れた心を救っているのだった。

 

明日もきっと、騒がしい一日が始まる。




剣心は逃げたと思いますか?
それとも正しい選択だったと思いますか?

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

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