転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
原作設定をベースにしていますが、本作では
・沖田総司が生存
・宗次郎と沖田が旧知
・沖田が十本刀の一人
という独自設定で物語を再構成しています。
閃剣と天剣
今日は、いつも愛する一人息子の弥彦が大変お世話になっているお礼にと、
私、明神琴が集英組の潤沢な資金力(という名のみかじめ料の恩恵)に物を言わせて、超高級な霜降り肉と最高級の銘酒をドーンと持ち込んでの、大盤振る舞いの宴会である。
「緋村さーん、薫ちゃーん、こんにちは!今日は私の可愛い弟分を連れてきたわよー!さあさあ、お肉が煮える前にご挨拶しなさいな!」
赤いサシが見事に入った霜降り肉の乗った大皿を座卓の中央に置きながら声をかける。
「あ、どうも。初めまして」
「あなたが、あの伝説の人斬り・緋村抜刀斎さんですね。僕は瀬田宗次郎と言います。今日は琴さんに美味しい牛鍋をご馳走してもらえると聞いて、京都から遊びに来ました。よろしくお願いします」
その言葉が落ちた瞬間。
道場の居間の空気が、ピシッと凍りつく。
「!!」
緋村さんの目が、スッと細められる。
そして、その信じられないほど冷え切った、絶対零度のジト目が、宗次郎君を通り越して、真っ直ぐに私の方へと向けられ、ギロリと睨みつけてくる。
『うわっ!出たわね、そのジト目!』
『言葉にしなくても「お主、また拙者の正体を勝手にペラペラと他人にバラしたでござるな」って、顔面全体で抗議のメッセージを発信してるわね、あの元人斬り!』
「ええ?ちょっと、何よその目は!何でもかんでも、私が勝手に緋村さんの秘密をあちこちにバラしたことにしないでよ!私だって、口の堅さには定評があるんだから!ヤクザの姐さんとして、守秘義務は完璧にこなしているわよ!」
「え?でも、琴さんが『この道場に、あの伝説の人斬り・緋村抜刀斎さんが流浪人として居候してるんだよ』って、昨日の夜、僕にこっそり教えてくれましたよね?だから僕、ご挨拶しなきゃって思ったんですけど」
「ガーン!!!!」
「確かに……!!そ、そういえば、私が昨日の夜、得意げにペラペラとバラしてたわ!!ごめん緋村さん!私、自分の口の軽さを完全に忘却していたわ!てへっ!」
舌を出してウインクし、右の拳で自分の頭をコツンと叩いて、精一杯のぶりっ子ポーズで誤魔化そうとする。
「…………」
緋村さんは、もはや私にツッコミを入れる気力すら失ったのか、深ぁぁぁぁく、この世の全ての憂いを集めたような長いため息をつき、無言のままズズッと熱いお茶をすする。
◇
『……えーと、なになに?』
お肉を鍋に投入しながら、どこからか聞こえてくる読者の皆様の鋭いツッコミの声に、心の中で答える。
『「なんでよりによって、志々雄の最側近である宗次郎君を、この平和な神谷道場に連れてきたのか」って?「これじゃあ原作ルートと全然違うじゃないか!フラグクラッシャーにも程がある!」って?「そもそも、あんたが十本刀に入ってるとかどういうこと!!?志々雄とグルなの!?」だって?』
『……いやあ、これには色々と、海よりも深くて、山よりも高い理由があるのよね。まあ、簡単に言ってしまえば……私は、幕府が新政府軍に負けたというあの歴史に、まだ自分の中で完全に負けを認めていないの。そういうことよ。確かに、私は原作の『るろうに剣心』の物語は大好きよ。緋村さんが過去の罪と向き合って、不殺の誓いを貫きながら新しい時代を生きる姿には、何度も感動して涙したわ。
でもね……私はもう、漫画の読者じゃない。この明治の世界で、実際に生きて、呼吸して、飯を食って、弥彦を育てているの。
あの志々雄くんが掲げる「弱肉強食」という理屈。それは、平和な現代日本から見ればただの狂気かもしれないけれど……あの幕末の地獄を、実際に刀を握って生き抜いた私たちにとっては、間違いなく一つの逃れられない「真理」なのよ。
強い者が生き残り、弱い者が死ぬ。
だから……時が来れば、そうね。私は十本刀の「閃剣」の沖田総司として……新しい時代を護ろうとする緋村さんの前に立ち塞がり、本気で彼を斬る日が来るかもしれない。自分の過去に、敗者の誇りにケリをつけるためにね。
……まあ、今はこうして、平和な居間で一緒に仲良く牛鍋をつつく、ただの美味しいご近所付き合いの仲だけどね!明日のことは明日考えるわ!霜降り肉は鮮度が命よ!』
◇
「……宗次郎殿。歓迎するでござるよ」
「………………お主、かなり『できる』でござるな」
緋村さんの目には、無邪気に笑う宗次郎君の内に秘められた、喜怒哀楽の『感情の欠落』という剣客にとっての最大の武器と、そして、底知れぬ恐ろしいほどの『剣才』が、はっきりと見透かされているのだ。
「あはは。ありがとうございます」
宗次郎君は、緋村さんの重い視線を真正面から受け止めながらも、全く動じることなく、いつもの笑顔のまま答える。
「そういう緋村さんこそ、僕なんかよりずっと、すごくお強そうです。なんだか、見ているだけでゾクゾクしちゃいます。いつか、機会があればぜひお手合わせ願いたいですね。僕の剣が、伝説の人斬りにどこまで通用するか、試してみたいですから」
「おいおいおい」
「なんだよ、朝っぱらから物騒な挨拶してやがんな。肉が焦げちまうだろうが」
私の真横で、箸を猛スピードで動かし、誰よりも早く鍋の中の霜降り肉を強奪して口いっぱいに頬張っている左之助が、不機嫌そうに宗次郎君を横目で見る。
「へえ……。姐さんがわざわざ京都から連れてきたってことは、この宗次郎ってチビは、そんなに強いのかい?俺の目から見ると、どう見てもただのヒョロい優男のガキにしか見えねえがな。剣心が警戒するほどの相手なのかよ?」
「おい左之助、あまりこいつに喧嘩売るなよ。お前、死ぬぞ」
向かいの席で、同じく肉を頬張っていた弥彦が、箸を止めて真剣な顔で左之助に警告する。
「お前、こいつとはウチの組であまり会ってなかったか?俺は何度か稽古を見せてもらったことがあるけどよ……こいつ、めちゃくちゃ強えぞ。冗談抜きで。あの剣心並みに……いや、場合によっちゃ、それ以上に速えかもしれない。縮地って歩法、見えねえんだよ」
「へぇ〜」
「あの剣心並みに、ねえ……。そいつは面白えじゃねえか。俺は強い奴を見ると、どうにも血が騒いでいけねえんだ。おいチビ、剣心とやる前に、俺が相手になってやろうか?」
完全に戦闘民族の思考回路である。このバカ。
「こら左之助!!」
「あだっ!!痛え!傷口が開くだろうが姐さん!!」
「開いた傷口に煮えたぎった牛鍋の汁を流し込まれたくなければ、大人しく肉を食いなさい!あんたみたいなダメージ百パーセントのポンコツが宗次郎君に喧嘩売ったって、一秒でみじん切りにされて終わりよ!そもそもここは神谷道場なの!薫ちゃんの神聖な居間で流血沙汰を起こしたら、私が許さないわよ!」
「そうだそうだ!剣心も左之助も、せっかく琴さんが美味しいお肉を持ってきてくれたんだから、物騒な話は抜きにして、平和に食べなさいよ!」
厨房からご飯のお櫃を抱えてやってきた薫ちゃんも、プンプンと怒りながら加戦する。
「あはは。琴さんも薫さんも、お母さんみたいですね」
宗次郎君が、ニコニコと笑いながら自分の小鉢に豆腐を取り分ける。
「誰がお母さんよ!私はまだ十六歳!!」
「俺の母さんはそんな若作りじゃねえよ!」
「弥彦!!あんた今月のお小遣いゼロにするわよ!!」
◇◇
ドンドン!ドドドドン!!
「もし……!緋村さんはご在宅ですか!?」
「あ、この声……警察署長さんだわ。どうしたのかしら、あんなに血相を変えて」
ガチャリ、と引き戸が開いた途端。
「はぁ、はぁ……緋村さん!緋村さんはどちらです!!」
「おろ?署長殿、いかがなされたでござるか?そのように慌てふためいて」
こういう時の肝の据わり方は、本当に頼もしいというか、時と場合によっては腹が立つというか。
「実は……はぁ、はぁ……緋村さんに、ある兇賊(きょうぞく)を倒して、護衛任務についてほしいのです!警察の手に余る、化け物のような男を!」
「……兇賊、ね」
「ええ。通称『黒笠(くろがさ)』」
私の鼓動が、ドクン、と一つ、大きく跳ねる。
「現在、政財官界で活躍する元・維新志士だけを狙い、夜な夜な残忍極まりない手口で斬り殺している、血に飢えた狂気の殺人鬼です。この十年、日本全国のあちこちに出没しては凶行を繰り返していますが……その数は数十回に及び、一度も暗殺を仕損じたことのない、恐るべき凄腕の剣客です」
元維新志士ばかりを狙う凄腕の暗殺者。
「元・維新志士ばかり狙うってことは……」
薫ちゃんが、少し考えてから口を開く。
「つまり、明治政府のやり方に不満を持つ者の犯行、もしくは世直しのつもりかしら?左之助みたいに、政府に恨みを持つ人間は少なくないし……」
チラリと、薫ちゃんが左之助を見る。左之助は肉を噛みちぎりながら「俺は辻斬りなんてセコい真似はしねえよ」と不満げに鼻を鳴らす。
「それもあるかと思いますが……」
署長さんは、薫ちゃんの推測に首を横に強く振り、青ざめた顔で言葉を継ぐ。
「……それ以上に、黒笠は、思想や恨みなんかよりも、『人斬り』という行為そのものを、快楽として楽しんでいる異常者なのです」
「楽しんでいる……?」
弥彦が聞き返す。
「ええ。栄職に就いた政府の要人を狙うと予告状を出せば、我々警察は威信をかけて本腰を入れて警護に動きます。また、狙われた当人も権力や財力を尽くして、腕利きの護衛を大量に雇います。
黒笠は、そうして敷かれた『鉄壁の守り』を真正面から突き崩し……どれだけ多くの人間を無惨に斬り殺し、血の海を作れるのかを、最高の娯楽、至高の芸術として楽しんでいるのです」
「……事実、二ヶ月前、奴が静岡の要人の別荘に現れた時は……標的の当人と、我々警官、そして雇われた護衛を合わせて三十四人が惨殺され、五十六人が重傷を負わされました。まるで、地獄絵図でした」
「三十四人が……惨殺!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!相手がそんな異常な凄腕の剣客だと事前に分かっているんだから、サーベルだけじゃなくて、拳銃を持った警官だって、その時は多数配置されたはずでしょう!?それなのに、たった一人の男を相手に、なんでそんな大被害に……!拳銃なら、遠くから撃てば……!」
薫ちゃんの言うことは、一般常識からすれば極めて正しい。
どんなに剣術の達人でも、近代兵器である銃弾の雨を全て躱すことは不可能だ。
「あはは。まあ、本当に強い人なら」
隣で宗次郎君が、ポツリと無邪気な声で口を挟んだ。
「拳銃を持った普通の人間が何十人、何百人いようと、全滅させるくらい簡単ですよ。むしろ、銃を撃つ動作っていうのは隙だらけですから、的が大きくて斬りやすいんですよね」
宗次郎君は、お茶請けのお煎餅をパリッと囓りながら、ニコニコと微笑んでいる。
「……僕にも、琴さんにも、そこの緋村さんにも……そのくらいのこと、欠伸をしながらでも造作もなくできますから」
「え……?」
「警官数十人を……造作もなく……?」
署長さんが、信じられないものを見るような目で、宗次郎君と私、そして緋村さんを交互に見る。
「相手の動きを金縛りにする暗殺術、二階堂平法(にかいどうへいほう)『心の一方』……」
私は、手に持っていた箸をテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がる。
「間違いないわね。黒笠の正体は、間違いなくアイツだわ」
「緋村さん。その署長さんからの護衛依頼、私たちも行きます。関東集英組として、全面的にバックアップするわ」
「琴殿……?」
「わかりました。行きましょうか」
宗次郎君も、スッと音もなく立ち上がり、腰の刀の柄にそっと手を添える。
「ええ。あの『黒笠』には……」
「昔の仕事仲間として、ちょっと個人的な、とても腹立たしい心当たりがありますから。アイツの首は、私がこの手でもぎ取ってやらないと気が済まないの」
アイツだけは、絶対に許さない。どんな手を使ってでも地獄へ送る。
「待つでござる」
「黒笠の標的は、元・維新志士。かつて人斬り抜刀斎として暗躍していた拙者が生み出した、歴史の恨みかもしれない。それに、あのような狂人を野放しにしておけば、無辜の民がさらに傷つく。これは、拙者が逆刃刀で止めるべき事件でござる」
緋村さんの目は真剣だ。過去の自分の罪の清算だとでも思っているのだろうか。
「おおお!!」
「東京最大の武闘派組織である、あの泣く子も黙る関東集英組の皆様が、我々警察に無償で協力してくださるとは!!なんと心強い!!捨てる神あれば拾う神あり!!」
「緋村さん!ぜひ琴姐さんたちのお力もお借りしましょう!相手は警察の手に負えない、あの化け物・黒笠ですぞ!あの恐ろしい連撃、一人で立ち向かうのはあまりにも危険すぎます!警察のメンツなんてどうでもいい、背に腹は代えられません!!」
よっぽど黒笠の存在が恐ろしいらしい。
「いや、ですから、これは拙者の過去の因縁かもしれない問題で……」
「……緋村さん」
「あの男はね、ただの『人斬り』の成れの果てよ。思想も何もない、ただ血と肉を切り裂く感触に酔いしれるだけの、正真正銘のバケモノ」
「……不殺なんていう、甘っちょろい誓いを立てた今のあなた一人で、本当に立ち向かえるかしら?迷いが生じて、返り討ちにされるのがオチよ。あなたのその逆刃刀じゃ、狂った獣の首は刎ねられない」
「私と宗次郎君が、政府の要人の護衛のついでに、きっちりとアイツの『後始末(殺害)』をしてあげるから。……あなたは、安全な後ろの方で、大人しく見てて安心しなさいな」
緋村さんはただ無言で、ギリッと奥歯を噛み締めて睨み返すことしかできなかった。
「さあ!善は急げよ!署長さん、標的の谷十三郎ってオッサンの居場所と、護衛の配置図を全て出しなさい!私の縮地と宗次郎君の縮地で、黒笠の死角から一気にミンチにしてやるわ!!弥彦、左之助!あんたたちはお留守番して、残りの牛鍋の肉を全部平らげておきなさい!」
「おう!任せとけ!」
「肉は俺のもんだ!」
・宗次郎と琴の関係
・剣心との緊張関係
・黒笠戦の展開
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