転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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今回はいよいよ
「沖田総司 vs 鵜堂刃衛」
の決戦になります。


新選組一番隊組長

緋村さんと左之助は、その輪から少し離れた壁際の位置で、静かに、しかし確実に気を練りながら、いつでも動ける体勢を取っている。

 

緋村さんの手は腰の逆刃刀の柄に添えられ、左之助の背中には、私がピカピカに研ぎ澄ませた巨大な斬馬刀が、いつでも振れるように少しだけ布の封印を解かれた状態で背負われている。

 

その、張り詰めた糸のような静寂が。

 

ガシャァァァン!!

 

突如、月明かりを浴びていた広間の巨大なガラス窓が内側へ向かって粉々に砕け散った。

飛び散るガラスの破片が、月光を反射してキラキラと残酷に輝きながら、広間の床に降り注ぐ。

 

「ヒィッ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

護衛たちが一斉に悲鳴を上げ、窓の方へ武器を向ける。

 

吹き込んでくる冷たい夜風と、そして強烈な血の匂いと共に。

黒い笠を深く被った、異様なほど背が高く、痩せぎすの男――鵜堂刃衛が、音もなく、フワリと広間の絨毯の上に降り立った。

 

その手には、すでに一人の護衛のものと思われる、生温かい血でべっとりと濡れた日本刀が、だらりと握られている。

 

ドサッ。

 

刃衛の足元で、窓の外のバルコニーで見張りをしていたはずの護衛の一人が、声すら出せずに絶命し、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

「ひい、ふう、みい……」

 

刃衛は、笠の奥で不気味に目を光らせながら、刀の峰にこびりついた部下の血を、長い舌でペロリと美味しそうに舐めとり、広間の中をぐるりと見渡す。

 

「……十四人か。ずいぶんと少ないねえ……もっとたくさん殺せると思ったのに。期待はずれもいいところだ。うふふふふ……」

 

その声を聞いただけで、護衛たちの何人かが恐怖で膝をガクガクと震わせ、武器を取り落としそうになる。

 

「な、何をぼさっとしておる!!奴が黒笠だ!!」

 

谷が、恐怖のあまり腰を完全に抜かしそうになりながら、ソファの背もたれにしがみついて、裏返った声で絶叫する。

 

「私を守れ!!早く奴を斬り捨てい!!金ならいくらでもやる!!お前たち、殺せええ!!」

 

「う、うおおおお!!!」

 

谷の怒号と、自分自身の恐怖を誤魔化すように、護衛たちが一斉にやけくその雄叫びを上げ、刃衛へ向かって前後左右から飛び掛かる。

 

剣術の素人ではない。それぞれがそれなりの腕前を持つ用心棒たちだ。一斉に斬りかかれば、いくら達人でも躱しきれるものではない。常識で考えれば、だが。

 

「うふふふふふ……!!!」

 

刃衛は、自分に向かってくる十数本の刃を前にして、全く焦る様子を見せず、むしろさらに深い狂喜の笑みを浮かべる。

 

そして、笠の奥で、その異様に白目がちな、蛇のような双眸を、カッ!! と限界まで見開いた。

 

『二階堂平法・心の一方(しんのいっぽう)』

 

人間の脳が本能的に感じる「死の恐怖」を限界まで強制的に引き出し、神経を完全に麻痺させ、筋肉の自由を奪う、恐るべき催眠暗示の秘術。

 

「な……!?」

 

刃衛に向かって駆け出していた護衛たちの動きが、まるで映像が一時停止したかのように、空中でピタリと止まる。

 

それだけではない。恐怖のあまり戦うことを放棄し、刃衛に背を向けてドアの方へ逃げ出そうとしていた護衛たちの足すらも、石のように完全に固まってしまった。

 

「な、なんだ!?身体が……動かねえ!!指一本、動かせねえぞ!!」

 

「ヒィィ……!!た、助けてくれ!!」

 

彼らはもはや、剣客ではなく、ただ刃衛に首を刎ねられるのを待つだけの、無力な肉の案山子(かかし)に成り下がっていた。

 

「うふふふふ。まずは一人目」

 

刃衛は、完全に動きを止めた目の前の護衛に向かって、ゆっくりと、本当に嬉しそうに、血塗られた刀を高く振り上げる。

 

その刃が、護衛の首筋へと無慈悲に振り下ろされようとした、まさにその瞬間。

 

キンッ!!!

 

高い金属音が、広間の空気を切り裂いた。

 

赤い影が、目にも止まらぬ速さで閃き、刃衛と護衛の間に割って入る。

 

緋村さんの逆刃刀の峰が、下から強烈に刃衛の凶刃をカチ上げ、その軌道を完全に弾き飛ばした。

 

「チッ……」

 

「『心の一方』……」

 

「向かってくる者ならともかく、怯えて背を向けて逃げようとする者にまで術をかけて動きを封じ、一方的に斬り殺そうとするとは。どこまでも卑劣で、外道な真似を……!! 剣客の風上にも置けぬ奴め!」

 

「ほう……?」

 

刃衛は、後方に着地したまま、笠を少しだけ持ち上げ、緋村さんの姿を面白そうに観察する。

 

「拙者は、京都で噂を聞いたことがあるでござる」

 

「二階堂平法、心の一方。金や思想のためではなく、ただ己の快楽のために人を斬り、暗殺すら最高の娯楽として楽しむ、狂気に飲まれた浮浪(はぐれ)人斬り……鵜堂刃衛!」

 

「うふふふふ!アハハハハ!!!」

 

刃衛は、自分の名前を呼ばれたことがよほど嬉しかったのか、体を弓のように反らせて、狂喜に満ちた声で大爆笑する。

 

「そうかそうか!俺も噂に聞いたぞ!赤い髪、左頬に消えない十字傷を持つ、幕末最強の男!伝説の影の人斬り……緋村抜刀斎!!」

 

「まさか、こんなつまらない政治家の護衛の中に、お前のような極上の獲物が隠れているとはねぇ!血が騒ぐぞ、抜刀斎!今日は最高の夜になりそうだ! うふふふふ!!」

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

 

二階の広間から響いてきた窓ガラスの割れる派手な音と、それに続く凄まじい怒号と悲鳴を聞きつけた私と宗次郎君は、静かに、そして完全に気配を殺したまま、上を見上げていた。

 

「……直接、あちらの二階の広間から堂々と踏み込んだか」

 

「普通なら裏口や屋根裏からコソコソ来るかと思ったけど、相変わらず悪趣味で、目立ちたがりの正面突破ね。護衛の多さなんて全く気にしてない、純粋な狂人のやることだわ。……でも、緋村さんがいるのに、随分と余裕ぶってるじゃない」

 

私は、二階の窓から漏れる微かな刃衛の気配を探りながら、隣でニコニコしている宗次郎君に声をかける。

 

「宗次郎君。いい?遅れないように、私にぴったりついてきなさい。あの狂ったバカの首、一瞬で刈り取るわよ」

 

「はい!」

 

「それじゃあ、競争ですね、琴さん。僕の縮地と、琴さんの縮地、どっちが先にあの黒笠の背中を取れるか、勝負しましょうか」

 

「ふふっ。生意気ね。負けたら明日の朝ごはんの牛すじ煮込み、一玉減らすから覚悟しなさいよ」

 

ドンッ!!

 

私と宗次郎君が、全く同じタイミングで、地面を限界まで強く踏み込んだ。

 

常人の目には絶対に捉えきれない、神速をも超える超高速の移動術『縮地』。

 

私と宗次郎君の身体は、重力という概念を完全に無視したかのように、空に向かって一直線に跳躍する。

 

そして、そのままのトップスピードで、二階の窓のフレームへと、まるで標的めがけて放たれた二発の弾丸のごとく、寸分の狂いもなく吸い込まれていく。

 

 

 

◇◇

 

 

 

「うふふふふ!! 次の標的はお前だ、緋村抜刀……!!!」

 

しかし、その歓喜のセリフが最後まで発音されることは、永遠にない。

 

なぜなら、まさにその刹那。

刃衛の背後の空間が、ぐにゃりと蜃気楼のように歪むからだ。

 

風を切り裂き、広間に飛び込んだ私。

振り向いた刃衛の眼前に、私が手にした刃が、すでにその細い首筋へとピタリと、数ミリの隙間もなく迫っている。

 

「……ッ!?」

 

完璧な奇襲。これで首が飛ぶ、と誰もが思うタイミング。

 

しかし、腐っても凄腕の人斬り。刃衛は思考を放棄し、生存本能のみで上体をありえない角度で大きく反らし、背後に倒れ込むようにして、私の必殺の刃から無理やり逃れようとする。

 

だが、完全に躱しきることは絶対に許さない。

私の刀の切っ先が、刃衛の首筋の皮を薄く、しかし確実に裂く。

 

「…………この、肺腑を凍らせるような異常な剣気は……!!」

 

「まさか!!」

 

私は月明かりを背に受け、ポニーテールの桜色の髪を夜風にふわりと揺らしながら、足音一つ立てずに、静かに着地する。

そのすぐ隣のスペースに、音もなく、まるで羽毛のように軽い足取りで宗次郎君がフワリと降り立つ。

 

刀の刃に付着したわずかな刃衛の血を、ピュッと手首を鋭く返して振り払い、極寒の、這い蹲る虫でも見るような冷酷な目で刃衛を見下ろす。

 

「……躱すのね、今のを。少し威嚇のつもりで浅く入れたけど、私も平和な明治の世で毎日牛鍋運んだり、お母さん業をやったりしているうちに、すっかり剣の腕が鈍ったのかしら?それとも、そろそろ老眼の始まり?いやいや、永遠の十七歳に老眼はないわよね」

 

「いえいえ。ちょっと琴さんの『殺気』が、隠しきれずにダダ漏れすぎただけかと思いますよ。あんなにドス黒くて重たい殺気を背後からモロに当てられたら、誰だって本能で危険を察知して避けちゃいますよ。暗殺するなら、僕みたいにもっとニコニコしながら斬らないとダメですよ」

 

「なるほど、笑顔が足りなかったのね。次は赤べこ仕込みのスマイル百パーセントで首を刎ねるわ。ご近所付き合いの基本よね」

 

「琴殿!」

 

「ストップ」

 

左手をスッと前に出し、緋村さんの言葉をピシャリと制止し、一歩前へ出る。

 

「緋村さん、手出しは無用よ。……コイツは、私の獲物。私の個人的な過去の清算よ。不殺の流浪人に出番はないから、そこで大人しく見学していなさいな」

 

「うふふふふふ……あはははは!!」

 

刃衛が、腹の底から、狂気に満ちた歓喜の笑い声を大広間に響き渡らせる。

 

「沖田……総司……!!!労咳でとっくに死んだと聞いていたが!まさか生きていたとはな!!」

 

「私は死なない」

 

「手洗いとうがいを徹底すれば、結核なんて怖くないのよ。……そして、私はまだ、誰にも負けていない」

 

「……鵜堂刃衛。貴様は、己の血の渇きと狂気を満たすためだけに、勝手に新選組を抜け、あろうことか……逃げるついでに、自分を止めようとした私のかわいい部下たちを、背後から卑怯に斬り捨てて逃げたわね。……私たちの掲げた『誠』の旗を、その薄汚い欲望で泥に塗れて汚した」

 

「だから、ここで死んでもらうわ。私の部下たちの無念、きっちりとその命で払ってもらう。地獄の底で、あの子たちに土下座して謝りなさい」

 

「うふふふふふ!!」

 

刃衛が、私の怒りなど全く気にする様子もなく、むしろ最高のおもちゃを見つけた子供のように、狂喜に顔を歪める。

 

「最高だ!抜刀斎に沖田総司!!俺が新選組を抜ける時には、流石に一番隊組長の貴様とは斬り合えなかったからな!あの時の未練が、こんな明治の世になって晴らせるとは!! 俺はなんて運がいいんだ!!」

 

刃衛の全身から、先ほどの護衛たちを金縛りにした時とは比べ物にならない、どす黒く、禍々しい『気』が竜巻のように立ち昇る。

 

「……もしもあの時、隊長格が一人でもあんたの逃走にいち早く気づいて追いついていたら……と思うと、悔しくて無念でならないわ。私の部下を殺した罪、その身に千の傷として刻んで、真っ逆さまに地獄へ落ちなさい」

 

私は、刀をスッと平青眼に構える。

その構えは、一切の無駄を削ぎ落とした、純粋な殺戮のフォルム。相手を確実にあの世へ送るための、絶対的な死の宣告。

 

「…………我が秘剣の煌めき……その身でたっぷりと受けるが良い!!」

 

「うふふふ……『元』新選組組長の剣、たっぷりと味わわせてもらうぞ。嬉しいねぇ!!本当に嬉しいねぇ!!」

 

「『元』ではない!!!」

 

私の胸には、かつて壬生の地で高く掲げた「誠」の旗への、決して誰にも譲らない、そして決して揺るがない誇りが、真っ赤な炎となって燃えたぎっている。

 

時代が変わろうと、組織がなくなろうと、私の魂の奥底にあるこの信念だけは、絶対に変わらない。

 

「私はまだ新選組だ!!!新選組一番隊組長!!沖田総司房良(かねよし)!!!」

 

全身のバネを極限まで収縮させる。

周囲の音が全て消え去り、ただ目の前の標的の命の鼓動だけが聞こえる。

 

「……推して、参る!!!」

 

ダァァァン!!!

 

桜色の閃光となって、刃衛の懐へと一直線に肉薄する。

 

明治の夜空の下。平和な世の中で。

幕末の最強の剣士と、幕末の最悪の狂気が、今再び、因縁の刃を激しく交える――!




ついに刃衛との戦いが始まりました。

原作では剣心が戦う相手ですが、本作では沖田との因縁を加えています。

・沖田と刃衛の過去
・宗次郎の戦い方
・剣心の不殺との対立

など、よければ感想や展開予想を書いていただけると嬉しいです!

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
  • 明神弥彦
  • 緋村剣心
  • 相楽左之助
  • 神谷薫
  • 高荷恵
  • 四乃森蒼紫
  • 志々雄真実
  • 瀬田宗次郎
  • 鵜堂刃衛
  • 宇佐美
  • 水野
  • 我介
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