転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
黒笠との戦いの途中で起きた
思わぬ事件が物語を大きく動かします。
圧倒的な私の殺気を真っ向から浴びて、刃衛の狂気が、さらに膨れ上がっていくのが肌でわかる。
「少し待っていろ。……うふふふ」
月光を反射して光る刃に、自らのあの気味の悪い白黒の双眸を映し込んでいる。
あれは、さっき広間の護衛たちにかけていた『心の一方』の強烈な暗示を、己自身に掛けようとしているのだ。自分で自分に暗示をかけて、脳のリミッターを完全に外す気ね。
「我、不敗なり……!!」
……しかし。
そんな悠長な変身バンクを、私が大人しく指をくわえて待ってあげるわけがないでしょうが。アニメや漫画じゃあるまいし、敵がパワーアップする隙を与えてやる義理なんてどこにもないのよ。
刃衛が暗示の言葉を気持ちよさそうに発し終えるより早く、私はすでに動いている。
「なんと!卑怯な!!」
「戦場に事の善悪なし。ただひたすらに斬るべし!!」
新選組のモットーを腹の底から叫びながら、容赦のない連続刺突を刃衛の急所めがけて正確に抉りにいく。
刃衛は己の暗示を慌てて中断し、手にした刀で防御しようと必死に腕を動かす。しかし、私の突きはその防御のわずかな隙間を縫うようにして、刃衛の肩、腕、太ももを次々と浅く、しかし確実に斬り裂いていく。
「うふ……っ!うふ……ふ!!全く、太刀筋が見えん!素晴らしい!!これが新選組一番隊組長の突きか!!」
そして何より腹立たしいのは、私が確実に急所を狙っているにも関わらず、アイツは致命傷だけは「勘」だけで、本当に紙一重のところで躱し続けていることだ。
『……ここだ。』
私の連続攻撃を嫌い、刃衛が大きく後ろへ飛び退く。
一旦開いた距離。この間合い。この足場の感覚。
全てが完璧に整っている。この間合いなら、「無明三段突き」で一瞬にして終わらせることができる。
◇
己の得意技を、絶対に回避不可能な「必殺技」にまで昇華させる。それこそが新選組の剣の恐ろしさ。
そして、沖田総司のそれは間違いなく『三段突き』である。
この世界に転生して、剣の才能に目覚め、自分が「沖田総司」だと確信してからというものずっとこの技を磨いてきた。前世の知識……そう、型月世界のFateで見た、恐るべき対人魔剣。
魔術など一切存在しない、あるいは少なくともまだ出会っていないこの物理法則だけの世界でも、純粋な物理と技術、極限の踏み込みと筋肉の収縮だけで、限りなく『本物』に近いところまで磨き上げた私だけの必殺の剣。
一瞬の間に、全く同じ位置に三度の突きを放ち、空間そのものを破壊して相手を仕留める絶対の技。……これで、終わらせる!
「……一歩音超え……」
爆発的な踏み込みの予備動作に入った、まさにその瞬間である。
なりふり構わず背後の割れた窓枠へ向かって大きく跳躍する。
「また背を向けて逃げるか!!刃衛!!」
「うふふふふ!!今の俺では、そのお前の恐ろしい構えは防げん!命あっての物種だ!!」
「次は『影技』を使ってから現れてやる!!沖田総司!そして次は緋村抜刀斎!!俺をたっぷりと楽しませてくれよ!!!」
「私の視界に捉えておいて、このまま逃げられるとでも思っているの!!」
私が『縮地』で窓の外へ追撃しようと、床板を蹴り割る勢いで力強く踏み込んだ、まさにその時である。
ガシッ!!
横からものすごいスピードで飛び出してきた赤い影――緋村さんが、私の右腕を両手で力強く掴んで、その突進を無理やり制止する。
「琴殿!!待つでござる!!」
「抜刀斎!!なぜ止める!!」
「ここで奴の首を刎ねなければ、あの子たちの無念が……!!離しなさい!!」
「拙者の前で、殺しはさせぬと言ったはずでござる!それに、今は谷殿の護衛が最優先のはずでござる!」
「貴様……腕だけではなく、頭の中身まで鈍ったか!!」
「奴は人斬りよ!?人殺しそのものを楽しむ快楽殺人鬼なのよ!?今ここで確実に息の根を止めておかなければ、次は確実に私たちや、私たちの周囲にいる弱い人間を狙ってくるわ!!分からないの!?」
「拙者達を狙ってくるなら、それで良いでござろう」
私の怒りなど意に介さないように、静かに、しかし確固たる意志を持って答える。
「他者を巻き込むよりは……拙者が全て引き受けるでござるよ」
揉み合っている間に、窓の外では、すでに刃衛の禍々しい気配が完全に闇夜に溶けて消え去っている。
どちらにせよ、今から飛び出しても、もう追いつくには遅すぎる。完全に逃げられた。
「……宗次郎君。追える?」
「いや〜、さすがにあの逃げ足の速さは無理ですかね。暗闇に紛れるの、忍者みたいにすごく上手いですし。匂いも完全に消えてます」
「……………………ふうーーーー」
「……わかったわ、緋村さん。貴方の不殺の理屈はね。自分が手を汚したくない、誰の命も奪いたくないっていう、そのお高く止まった綺麗な理想はよくわかったわ」
「でもね……そういう貴方の『甘さ』は、後でもっと取り返しのつかない大変な事態を招くわよ。私たちは、貴方みたいに一人で気ままに生きている根無し草じゃない。私たちにだって、守るべき日常と、大事な家族があるんだから」
「無論、拙者も暫くは、奴に狙われても周囲を絶対に巻き込まない位置に身を置くでござるよ。神谷道場にも、もう近づかぬつもりでござる」
自分が離れれば、周りは安全だとでも思っているのだ。
「……それが『甘い』って言ってるのよ、この馬鹿!!」
「刃衛の狙いが、緋村さんなら、貴方を本気にさせて最高の殺し合いを楽しむために、真っ先に一番弱い薫ちゃんを狙うかもしれないじゃない!相手の弱点を突くなんて、人斬りの常套手段でしょうが! ……私相手なら、真っ先に弥彦を人質にとるかもしれないわ!」
ようやく自分の考えの浅さに気づいたようだ。
「……いいこと?緋村さん。よく聞いておきなさい」
「もしも、貴方のそのくだらない甘さのせいで、私の弥彦に何かあったら……髪の毛一本でも傷つけられたら……私は、刃衛よりも先に、貴方を心底恨むわ。そして、貴方をこの手で斬り殺す。あの子は、私のたった一人の大切な息子なんだからね。絶対に、絶対に守り抜くわ」
緋村さんは完全に言葉を失い、何も言い返すことができない。ただ、唇を噛み締めて俯くことしかできないのだ。
「……た、助かった……。化け物どもめ……」
標的であった谷十三郎が、顔面を涙と鼻水と冷や汗でぐしゃぐしゃにして、這い出してくる。
そのまま床にへたり込み、腰が抜けて立てない様子だ。
「なんて奴らだ……」
少し離れたところで待機していた左之助が、額に浮かんだ大量の冷や汗を手の甲で拭いながら、大きく、本当に大きく息を吐き出す。
「刃衛の気迫も、姐さんのドス黒い殺気も……俺の喧嘩なんて、完全に別次元の戦いだった。俺なんか、斬馬刀を抜く隙すら見つけられなくて、全く手が出せなかったぜ……。これが、本物の幕末のバケモノたちの殺し合いかよ……」
「いえいえ」
「左之助さんも、さっき『心の一方』を、気合で打ち破って、谷さんの護衛のために一歩前に出ようとしていたじゃないですか。普通の人なら、恐怖で心臓が止まってもおかしくないのに」
「僕、ちゃんと後ろから見てましたよ。凄いです。ただの口だけの喧嘩屋だと思ってましたけど、見直しました。あなた、すごく見どころがありますよ」
「お?おう……そうか??」
顔を少し赤くして、照れ隠しに鼻の頭をこする。
「けっ、お前、見た目はただのヒョロい優男のくせに、案外話がわかる、目の肥えたやつだな。まあ、俺の気合は天下一品だからな!」
「あはは。そうですね」
左之助と宗次郎君が、なんだか妙に意気投合して、男同士の奇妙な友情のようなものを芽生えさせ始めている。
「ほーら」
「そんな血生臭い死体の転がる広間で、男同士でイチャイチャ仲良くしてないで、私もその輪に混ぜなさいな、私の可愛い若いツバメ達♡さあ、仕事は失敗に終わったけど、とりあえず谷のオッサンの命は守ったんだし、とっとと帰るわよ!明日の朝ごはんは、赤べこの残り物の牛すじ煮込みなんだから!」
「誰がツバメ達でえ!不吉なこと言うな!姐さんに食われるくらいなら、斬馬刀で腹切って死ぬわ!!」
「あはは、琴さんに食べられるのも悪くないかもしれませんよ?」
宗次郎君がニコニコと冗談を言い、左之助が「お前頭おかしいのか!?」と突っ込んでいる。
◇◇
「へえ、じゃあお前、京都じゃいつも美味いもん食ってんのか。いいご身分だな」
「ええ、まあ。その辺の資金は潤沢に持ってますからね。でも、今日琴さんにご馳走になった牛鍋の霜降り肉は、本当にほっぺたが落ちるかと思うくらい美味しかったです。東京ってすごいですねえ」
「だろ? あの赤べこの牛鍋は天下一品だからな!俺なんて毎日でも食いたいぜ。まあ、大抵はツケにして後で姐さんにボコボコにされるんだけどよ」
「あはは、左之助さんは面白い人ですね。今度京都に来たら、僕が美味しい湯豆腐のお店に案内しますよ」
「湯豆腐ぅ?男ならもっとガッツリ肉を食わなきゃデカくなれねえぞ。ほら、お前ももっと肉食って、俺みたいに筋肉つけろよ」
「僕はこの体格だから『縮地』のスピードが出せるんですよ。筋肉つけすぎたら重くなっちゃうじゃないですか」
なんだか知らないけれど、この二人、すっかり意気投合してしまっている。
さっきまで「ヒョロいガキ」だのなんだのと見下していた左之助が、宗次郎君の底知れない実力を肌で感じて、すっかり一目置いているみたいだ。宗次郎君の方も、左之助の裏表のないバカ正直な性格を気に入ったらしい。
男同士の友情って、本当に単純でよくわからないわ。ちょっと一緒に死線を潜った(というほどでもないけど)だけで、すぐに仲良くなっちゃうんだから。
「ねえ、後ろの若いツバメ達」
「あはは、琴さんは相変わらず冗談がきついなあ」
全く、騒がしい連中だわ。でも、この騒がしさが、さっきの血生臭い戦闘の余韻を少しだけ中和してくれているのも事実だ。
私たちは、人気のない真っ暗な通りを抜け、町内へと足を踏み入れる。
まあ、屋敷を空けたといっても、集英組に、弥彦と薫ちゃんの警護を頼んでいるから、心配はないはずだけど。
我介も、そこら辺のチンピラよりはずっと腕が立つし、若い衆も周りに配置してあるからね。
その時だ。
「……ん?」
前方から、バタバタと尋常ではない足音が聞こえてくるのだ。
暗闇の向こうで、小さな提灯の明かりが、まるで狂った蛍のように上下左右に激しく揺れながら、こちらへ向かって猛スピードで近づいてくる。
「なんだ、あのアホみたいに走ってくる提灯は」
「ぜぇっ……はぁっ……!!」という、肺が破れそうなほどの荒い呼吸音。
そして、月明かりの下に現れたその姿を見て、私は目を疑う。
「……どうしたの?我介」
着物はあちこち泥だらけで破れ、顔面は滝のような汗と泥でぐしゃぐしゃになり、なんと右足の草履が脱げていることすら構わずに、裸足で砂利道を全力疾走してきているのだ。
「ぜぇっ……ぜぇっ……!!あ、姐さぁん!!!」
「ちょっと、我介!あんた一体どうしたのよ!泥が着くじゃないの!落ち着いて話しなさい!」
その顔には、恐怖と焦燥、そして絶望が深く刻み込まれている。
「や、弥彦坊っちゃんが……!!」
「弥彦がどうしたの!?」
私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がる。
「攫われました!!組に突然バケモノみたいな奴が押し入ってきて……!一緒にいた、薫嬢ちゃんもです!!」
「な………ッ!!」
私の顔から、一瞬にして全ての血の気が引いていくのがわかる。
「なに…………!!」
「攫われた!?どういうことよ!!あんたたち、周りに何人も控えてたはずでしょ!!」
「組の若い衆も、あっという間にやられちまいやした……!俺たちじゃ全く歯が立たなくて……!!」
「このっ……!役立たず!!」
私の天使、私の宝物、私がこの世界で生きる唯一の理由である弥彦が、何者かに攫われた。
「そ、そいつが、立ち去り際に、道場の入り口にこれを……!!」
それは、和紙に筆で力強い筆致で文字が書かれた――『斬奸状(ざんかんじょう)』だった。
【斬奸状】
『沖田総司・緋村抜刀斎
大事な身内は預かった。
命が惜しくば、指定された時間、指定された二つの場所に、それぞれ別々に来い。
さもなくば、ガキと女の命はない』
そして、その下には、二つの異なる場所の地図と時間が、殴り書きで記されている。
「……別々に、でござるか」
緋村さんが、私の肩越しにその文面を覗き込み、静かに呟く。
「…………ッ」
「……甘かった……」
「私の認識が、完全に甘かったわ……」
「琴殿……?」
「刃衛の奴……」
握り潰した紙を地面に叩きつけ、親指の爪をガリッと噛む。
「あのイカれた狂人のくせに、随分と周到で小賢しい真似をしてくれるじゃない。ただの快楽殺人鬼だと思って、少し見くびっていたわ」
「どういうことでござるか?」
「『別々の場所に来い』……つまり、あの黒笠は、単独犯ではなかったのよ。アイツ一人なら、私と緋村さんを同時に相手にしても狂気で喜ぶはずだわ。でも、わざわざ私たちを二手に分断しようとしている」
刃衛との戦いは一旦決着がつかず、
まさかの弥彦誘拐という展開になりました。
原作とはかなり違う展開ですが、
・沖田と剣心の思想対立
・刃衛の真の狙い
・弥彦と薫の運命
などを含めて、物語はここからさらに加速していきます。
よろしければ感想や
「この先どうなると思うか」など
ぜひ教えていただけると嬉しいです。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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河上彦斎(お彦)
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緋村剣心
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神谷薫
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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志々雄真実
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瀬田宗次郎
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鵜堂刃衛
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宇佐美
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水野
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我介