転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
気づけば士族の優等生になっていました。
歴史が狂った?
いいえ、狂わせたのは私です。
昼下がりの賑やかな東京・下町の表通り。
文明開化の音がするなんて誰が言ったのか知らないけれど、確かにレンガ造りの建物や洋装の人々が行き交うこの街は、活気に満ち溢れている。
そんな大通りを、私はご機嫌な鼻歌まじりにスキップするような足取りで歩いている。隣を歩くのは、愛する一人息子の弥彦。
立派な士族の跡取り息子である彼は、私がせっかく高いお金を払って通わせている学校の指定カバンを、まるで親の仇か何かのように乱暴に放り投げるように持っている。その不機嫌極まりない顔を見ていると、本当に誰に似たのかとため息をつきたくなる。いや、私じゃない。絶対に私じゃない。
『……さて、困りました』
そう、私は今、とてつもないジレンマに陥っているのだ。
原作の「るろうに剣心」のストーリーラインにおいて、明神弥彦というキャラクターは非常に重要な立ち位置にいる。ヤクザに拾われてスリとしてこき使われ、誇りを失いかけていたところを、あの緋村剣心こと緋村抜刀斎に助けられ、神谷道場に入門する。それが本来の彼が辿るべき、熱くて泣ける王道の成長ルートなのだ。
しかし! 私が立派に、それはもう立派に愛情たっぷりで教育しちゃったせいで、この子ったら真っ当な士族のプライドの塊みたいな少年に育っちゃったんですよね。
「ねえ弥彦。……突然だけど、スリって、どう思う?」
ちょっとしたテストである。もしここで「生きるためには仕方ない」なんて答えたら、まだ原作ルートへの軌道修正の余地があるかもしれない。
「はあ!?」
弥彦は立ち止まり、心底軽蔑しきった目を私に向ける。
「母さん、何寝ぼけてんだよ。いきなり頭でも打ったのか? そんなの、卑怯なネズミのすることだろ。悪いことに決まってんだろ! 人の物を盗むなんて、最低のクズのやることだ。俺は誇り高き士族、明神弥彦だぞ! 死んでもそんな真似するもんか!」
真っ直ぐで正論すぎる答えが返ってくる。その瞳には一点の曇りもない。
「そ、そうよね……。あはは、お母さん安心したわぁ」
やっぱりこれじゃ、原作ルートは完全に無理ね!
そもそも昼間はきっちり学校に行かせているし、原作で弥彦をこき使うはずだったヤクザの組も、私が長ドス一本でカチコミをかけて実効支配しちゃったのだ。
今ではその組を「任侠」という名の真っ当な民間警備会社に作り変え、町内の見回りやゴミ拾いなんかをさせている。我助なんてその筆頭だ。
これじゃあ、緋村さんと接点が生まれるわけがない。どうしよう、このままじゃ弥彦がただの「ちょっと剣術が得意な、学校をサボりたがる反抗期の士族の少年」で終わってしまう。歴史の修正力仕事して! と空に向かって祈りそうになった、その時である。
向こうから、見覚えのある特徴的なシルエットが歩いてくる。
鮮やかな赤い着物。腰に下げた、あの独特の反りを持つ刀。そして何より、風に揺れる燃えるような赤い髪と、左頬に刻まれた十字の傷。
その隣には、竹刀袋を背負った袴姿の、凛々しい顔立ちをした見目麗しい少女が歩いている。
あ、あの特徴的な赤い髪と頬の傷……!
間違いない。私の前世の記憶と、幕末の血で血を洗う京都の路地裏での記憶がバチッとリンクする。
『いたぁぁぁ!! 緋村さんだ! やっぱり東京に来てたんだ! そして隣にいるのが薫ちゃんね。実物は漫画で見るより何倍も美人だわ〜!』
隣を歩いていた弥彦がピタリと足を止める。
「……おい母さん。あの女……」
すれ違いざま、弥彦は薫ちゃんの方を穴のあくほど凝視している。口が少しポカンと開いている。
「すげー綺麗だな。……あんな凛とした女、東京じゃなかなか見ねえぞ」
私はその言葉を聞き逃さない。すぐさまニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、弥彦の細い脇腹を肘でツンツンと小突く。
「何々!? 弥彦ったらおませさーん! そんなにあの女の人が気になっちゃう? 綺麗だもんねえ、わかるわかる! 面食いなのは一体誰に似たのかしら? やっぱり父親譲りかしらね〜?」
「う、うるせえ!」
一瞬で顔を茹でダコのように真っ赤にして、私から飛びのく。
「単なる感想だろ! 別にそういうんじゃねえよ、この桃髪妖怪!! 人の気も知らないでニヤニヤしやがって!」
「……は? 今なんつった?」
額にピキリと青筋が浮かぶ。
「このっ! 痛みに耐えて命懸けで産んであげた、こんなに若くて可憐で美しいお母さんに向かって、妖怪とはなんて言い草ですか!! 罰として今日の夕飯は白米と梅干しだけよ!!」
「先にからかってきたのはそっちだろ! この若作りーーっ!! 歳考えろよ歳!!」
「若作りじゃないわよ! 天然モノの美貌よ!! このクソガキ、そこ直れ!! 頭蓋骨をカチ割って中身を入れ替えてあげる!!」
逃げた弥彦の頭を鷲掴みにしてやろうと、勢いよく振り返って踏み出す。
その瞬間、すれ違ったばかりの赤い着物の男――剣心さんと、思い切り肩がぶつかってしまう。
「おっと!」
「おろ……?」
緋村さんが少しだけ体勢を崩し、申し訳なさそうな声を出す。
「すまないでござる、拙者が前をよく見ておらず……お怪我は」
わざとらしく足をピタリと止め、ゆっくりと、まるで演劇のヒロインのように振り返る。そして、極上のスマイルを浮かべてみせる。
「………………緋村さん。お久しぶりですね」
彼はその場に立ち尽くし、私の顔を凝視して、目を限界まで見開く。
「………………!?」
行き交う人々の喧騒が遠ざかり、私たち二人だけの空間が出来上がったかのようだ。
彼の大きく見開かれた瞳の中には、かつての血生臭い京都の夜、燃え盛る炎の中で死線を共にした新選組「一番隊組長」の姿が、今の私と重なって映っているのが手に取るようにわかる。
「お……沖田…………総司…………殿、でござるか……?」
震える声で、絞り出すように彼が私の昔の名前を口にする。
「驚いてる驚いてる! 目が飛び出そうですよ!」
「そうですよ、お久しぶりです。沖田さん……今は明神琴、『琴』ですけどね!」
「…………。……労咳で、若くして死んだと聞いていたが。……」
まだ信じられないというように、私の顔と体を交互に見ている。幽霊でも見るような目だ。
「左様でござるか。貴殿も、生きていたのでござるな。あの動乱の時代を……」
「死んだはずの人間が生きていたなんて、あの幕末を生き抜いた私たちには慣れっこですよね。それに、手洗いとうがいを徹底すれば労咳なんて怖くないんですよ! 現に斎藤さんなんて、あんなに憎たらしい顔でピンピンして、警視庁で警察官やってるんですから。昨日も裏路地でタバコ吸いながら説教されましたよ、もう最悪!」
ケラケラと笑いながら話していると、二人のただならぬ空気を察知した弥彦が、ずいっと私たちの間に割って入ってくる。そして、小さな体で私を庇うように立ち、剣心さんを鋭い目で睨みつける。
「おい母さん、知り合いか? そりゃあ昔の知り合いかもしれないけどよ……」
弥彦の視線が、剣心さんの腰にある逆刃刀へと突き刺さる。
「こいつ、こんな廃刀令の時代に堂々と刀を下げてやがる。ただ者じゃねえな。……おい。お前、強いのか?」
喧嘩腰の弥彦に、少し困ったような顔をする。
「ええ。お母さんが保証するわ。私が知る限り、あの維新志士の中ではこの人が文句なしに一番強かったわよ。スピード違反ギリギリの動きで飛んでくるんだから。ねえ? 伝説の『人斬り抜刀斎』さん?」
「え……!?」
「抜刀斎……!?へー!あの伝説の!母さんがそこまで言うってことは、相当なもんなんだな!! 本物を見るのは初めてだぜ!」
弥彦の目が、警戒から一転してキラキラと輝き始める。強さを求める少年らしい、純粋な好奇心だ。
「沖田殿……いや、今は琴殿、でござるな」
「あまりその、昔の名前で呼んでほしくはないのでござるが……。今はただの流浪人、緋村剣心でござる」
「あ、ごめんごめん!そうだよね、今は平和な時代だもんね。じゃあ緋村さん」
手を合わせて謝り、すぐに視線を彼の隣に立つ少女へと移す。
「で、そっちのすごく可愛い女の子はだれ?緋村さんも隅に置けないわね〜。こんな若い子を捕まえるなんて、犯罪ギリギリじゃないの?」
「え!?」
「や、やだー!!違います、違うわよ、そんなんじゃないわよ!私たちはそういう関係じゃなくて、ただその、なりゆきで一緒にいるというか!」
「拙者は今、薫殿の営む神谷道場に居候させてもらっている身でござるよ。奥さんなどと、薫殿に失礼でござる」
緋村さんが慌ててフォローを入れるが、薫ちゃんの顔はまだ赤い。可愛い。からかいがいがある。
「あー、神谷道場」
「……最近、『人斬り抜刀斎』を名乗る辻斬りの犯人が暴れてたって噂の……あそこね?」
「…………。琴殿」
声のトーンが少し下がる。
「わかってるわよ」
ひらひらと手を振って、彼の心配を打ち消す。
「本物の抜刀斎の流派は飛天御剣流。あんなデカい木刀振り回すだけの偽物の我流に、本物のあなたが負けるわけないし、関係あるとも思ってないわ。……でも、そのせいで道場の評判はガタ落ちなんでしょ?」
「そうなのよ……」
「門下生が一人も戻ってこなくて……。お父様が残してくれた、人を活かす剣の道場なのに……」
その落ち込んだ姿を見た瞬間、私の脳内に天才的な閃きが舞い降りる。
これだ。これしかない。神様、歴史の修正力様、ありがとう! 私はこのチャンスを絶対に逃さない!
「世知辛い世の中ですねぇ……。……あ、そうだ。私、すっごく良いこと思いついちゃった」
「……おい、なんだよ。嫌な予感がするぜ。母さんがその顔をする時は、ろくなことがねえんだ」
「弥彦!!」
弥彦の肩をガシッと両手で掴み、満面の笑みで宣告する。
「あんた、今日から学校の帰りに、この『神谷道場』に通いなさい!」
「はあああ!?」
大通りを歩く人々が何事かと振り返るが、知ったことではない。
「何でだよ!! 俺は学校だけでもうんざりなんだよ! これ以上習い事なんて増やされたらたまんねえ! それに、剣術なら俺は……!」
「いいから! つべこべ言わないの!」
弥彦の言葉を遮り、指を突きつける。
「緋村さんがそこに居候してるなら、あんたにとって一番の勉強になるはずよ。本物の強者の動きを間近で見られるなんて、最高の贅沢なんだからね! お母さんの剣術はちょっと『特殊』すぎて……っていうか、基礎も何もない天才専用の殺人剣だからあんたには教えられないけど。神谷活心流なら……まあ、基礎を固めるにはいいんじゃない?」
「ちょっと!」
「『まあ』ってなによ! うちの流派は『活かす剣』、剣術の真髄なんだから! ついでみたいに言わないでよね!」
「はいはい、わかってますよ。素晴らしい流派だってことは重々承知してますって。……というわけで緋村さん、薫ちゃん」
「この反抗期真っ盛りのバカ息子をよろしくね。礼儀作法からみっちり叩き直してやってちょうだい! 月謝は相場の倍弾むわよ? 私、赤べこの看板娘として、こう見えて結構稼いでるから! 金払いはいいわよ!」
「勝手に決めるなよ桃髪妖怪!! 俺は絶対に行かねえからな!!」
ジタバタと暴れて抵抗するが、私の万力のようなグリップからは逃れられない。
「……おろ」
ギャーギャーと騒ぐ私と弥彦、そして戸惑う薫ちゃんを交互に見つめる。
そして、その口元にふっと優しく、温かい微笑みを浮かべる。
「賑やかになりそうでござるな」
かくして、ヤクザのスリという泥沼の経歴を回避した明神弥彦は、母親の強権発動により、無事に神谷道場への入門を果たすことになったのである。
歴史の修正力?
そんなもの母の強権でどうにでもなります!
皆さんなら弥彦をどう育てますか?
コメントで教えてください!
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
-
明神琴(沖田総司)
-
河上彦斎(お彦)
-
明神弥彦
-
緋村剣心
-
相楽左之助
-
神谷薫
-
高荷恵
-
四乃森蒼紫
-
志々雄真実
-
瀬田宗次郎
-
鵜堂刃衛
-
宇佐美
-
水野
-
我介